著者
中野 弘一 坪井 康次 村林 信行 山崎 公子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.219-224, 1994-03-01

ライフサイクルの観点から中年期の生活を考えてみると, 社会的には職場における適応が大きな問題となっている。本論文では職場での適応について, 1つは不適応の代表として出社困難症例を検討し, もう1つは適応過剰のため心身症を発症し適応が破綻していった症例を考案した。不適応事例については, 東邦大学心療内科を受診し, 継続勤務が不良であった105例につき調査した。受診経路については, 女子では他人に勧められて来院するよりも自ら進んで来院するものの方が多く認められた(p < 0.05)。また初診までの期間別にみた復職状況では, 男子は1年以上たって受診したものは復職できているものが少なかった(p < 0.01)。さらに初診時における勤務状況別の復職者の割合については, 男子は現在の勤務状況に関連していたが, 女子では勤務状況との関連を認めなかった(p〈0.05)。また職場不適応の年代のピークは男女とも20歳代に認められ, もう1つのピークは40歳代で男性にのみ認められた。この現象は, 女性には中年の危機が存在しないのではなく, 社会進出した女性群が40代のピークを未だ迎えていないためと考えられた。さらにVDT障害による不適応の場合は他の職種に比べて不適応が早期に出現するが, これはコンピューターを使っての作業は専門性が高く, 他の人の協力や交替が得にくいためと考えられた。過剰適応については, (1)ライフスタイルの乱れから消化性潰瘍とうつ状態を呈し, 症状軽快後は外来での生活指導を拒否してしまった症例と, (2)過敏性腸症候群とともに肥満, 高血圧, 高脂血症, 高尿酸血症などのいわゆる成人病を呈し, 入院中は節制した生活をし症候全体が軽快していったが, 退院後1ヵ月で治療前の状態に戻ってしまった症例を示した。2症例を通じて, 中年期心身症の生活指導や行動変容は寛解と増悪を繰り返し, 難航するものが少なくないことを示した
著者
芝山 幸久 坪井 康次 中野 弘一 筒井 末春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.38, no.2, pp.111-117, 1998-02-01
被引用文献数
1

心療内科のコンサルテーション・リエゾン活動の現状を調査解析し, 心療内科の専門性としての役割と位置づけを明らかにすることを試みた.対象は5年間に心療内科で入院治療した患者のうち, 他科からコンサルテーションの依頼を受け, 兼科で受けもった患者133例(26.8%)で, 5年間の患者数は一定していた.依頼科は内科が最も多く, 依頼理由は心因の関与の疑い, うつの治療要請などが多かった.治療介入としては心身相関の評価, 疾病に対する不安やうつの軽減, 治療者患者関係の調整などであった.兼科入院は心療内科の入院患者総数の1/4を占め, 依頼理由や治療内容から, コンサルテーション・リエゾン活動は心療内科の専門性の一つであることが確かめられた.
著者
坪井 康次 中野 弘一 筒井 末春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.143-150, 1995-02-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
14
被引用文献数
2

Many patients with depression visit at the department of psychosomatic medicine. It is characteristic of these patients that their symptoms are milder than the patients in psychiatry and they have more somatic symptoms than psychological. The therapeutic approach to depression may have to be modified by the patients' psychological status, because the genesis of depression is varied and depression is a heterogeneous disorder. We studied the features of these patients and their therapeutic procedures in our department of psychosomatic medicine. Eighty percent of all first-visit patients had depressive disorders (classified by DSM-III-R), and 30.2% of them were major depression, 11.8% were dysthymia and 58% not otherwise specified (NOS). The severity of depression was milder. The recent general adaptation function (GAF) of major depression was lowest in the three subtypes of depressive disorders, even though the mean GAF score of major depression was 55.4. The comorbidity of somatic disorder shows a high rate. Forty percent of patients with depressive disorders have functional somatic disorders, such as irritable bowel syndrome, migraine, tension type headache, hypertension etc. As to pharmacotherapy, many of the patients with depressive disorders in our department of psychosomatic medicine, received plural drugs such as antidepressant, anxiolytics, sulpiride, hypnotics. Antidepressants were prescribed most frequently in the major depression group. Anxiolytics and sulpiride were used commonly in all groups. As to the reason why anxiolytic and sulpiride were prescribed frequently, we have concluded that these phenomena raised from those usual antidepressants need the long period of time before main effects appear and they have various undesirable side effects. The selective serotonin reuptake inhibitors (SSRIs) are developed and emerging already as a new class of antidepressant in USA and Europe. The SSRIs have equivalent efficacy to standard antidepressant treatment such as the tricyclics, but with improved safety, a more acceptable side-effect profile and reduced risks with overdosage. Treatment expectations will be raised and a broader spectrum of patients will be able to receive treatment.
著者
中野 弘一
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.407-413, 2004-06-01

男性更年期における問題は,生物・心理・社会にわたる多次元評価理解が必要である.社会的にはライフサイクル的評価の視点が有力である.仕事中毒は中年期に陥りやすい対処様式であるが,破綻しやすいスタイルでもあり修正が必要であることが多い.仕事中毒の成立の背景には戦後の日本の経済成長を支えた利益共同体的価値観が深く関わっていると考えられる.仕事中毒の破綻の一つの形が中年発症の出社困難である.中年期に発生する生活習慣病である肥満,アルコール性肝障害,高脂血症などの中で心理社会的問題と密接に関連しているケースは容易には修正できない.中年期危機には心理社会的価値観の再構築と,ソーシャルサポートの構築が有力な対策となる.
著者
芝山 幸久 滝井 英治 加藤 明子 松村 純子 島田 涼子 坪井 康次 中野 弘一 筒井 末春
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.547-551, 1999-10-01

症例は初診時18歳女性で, 身長163cm, 体重37kg, 無月経と体重減少を主訴に来院した. 自己嘔吐や過食のエピソードはなく, 治療経過中に心窩部痛が出現したため内視鏡検査施行したところ, GradeBの逆流性食道炎を認めた. さらに約1年後胸のつかえ感, 心窩部痛が出現したため内視鏡検査再検したところ, GradeDの重症逆流食道炎を呈してした, プロトンポンプ阻害薬(PPI)のランソプラゾール投与にて1カ月後には著明に改善していた. 発症機序として, 低栄養状態に伴う胃排出能低下によりTLESRが増加し, 逆流性食道炎を発症したと考えられた. BNに逆流性食道炎が合併することは知られているが, ANでも胸やけや心窩部痛は胃食道逆流症を想定すべきである. 自覚症状は摂食不良の一因にもなるため, 早期に内視鏡検査を施行して, PPIなどの投与を考慮すべきである.