著者
萩原 美智子 一棟 宏子 中野 迪代 戸田 聡子
出版者
大手前大学・大手前短期大学
雑誌
大手前大学論集 (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
no.11, pp.43-60, 2010

住宅の長寿化と資産価値の維持に向けて居住者支援の体制作りを考えるために、米国では居住者がどのように住宅の資産価値を維持・向上させているかを明らかにしようと試みた。方法は、1988年に調査されたカリフォルニア州の戸建て住宅93戸の22年後の変化を、1)住宅開示情報から93戸の2010年時点での住宅の状況と査定価格などと、2)再訪問8戸の改修履歴、資産価値維持のための行動、資産価格の推移などに関するアンケートとインタビュー調査からみた。その結果、1)住宅の資産価値は築年とは関係がなく、2)定期的なメンテナンスや改修によって維持されており、3)居住者の資産価値維持・向上に対する意識も強い。また4)居住者自身が改修を行い易い状況(専門家との共同作業・部材のカタログ販売など)や税制面でのインセンティブがある。更に、5)設備の刷新や住要求の変化に対応しやすい住まいづくりが、資産価値維持のためのリフォーム行為を支えていることが分かった。
著者
一棟 宏子 萩原 美智子 中野 迪代 若井 希水子
出版者
大阪樟蔭女子大学
雑誌
大阪樟蔭女子大学学芸学部論集 (ISSN:18807887)
巻号頁・発行日
no.43, pp.163-170, 2006-03

住宅性能表示制度は、消費者が住宅取得に際し合理的な選択の目安をつくる目的でH12年に実地された。今日まで評価住宅の実績は増えているが、H16年は新築住宅全体の13.7%、当初の目標を下回り低調である。業態による実績は不明だが、大手ハウスメーカーが積極的に利用する一方、設計事務所・中小工務店の利用が少なく、業態で相当偏りがあると推察される。 当初から問題点が指摘されてきたが、制度が発足した以上、消費者に役立つ有効なツールとなることが望まれる。それには全ての業態に公平な選択の機会が与えられることが大切であり、その観点から、本研究は制度の利用状況を再検討する。 今回は研究対象を戸建て住宅に限定、最も利用が少ないと思われる注文住宅建設に係わる設計事務所調査と関係者へのヒアリングとアンケート調査を行い、制度の普及が進まない要因を検討した。それらに基づき、消費者が制度を利用し適切な住宅選択を行う過程で設計事務所が担う役割について考察した。調査期間は2004年12月から2005年3月であった。 (1)型式認定を利用する量産住宅ではコスト・業務量が抑えられ、多く利用されている。(2)設計事務所の利用は少ない。施主との接触が多く、信頼関係を築けるので安心確保の費用対効果としてはメリットが少ないと敬遠している。(3)コストと申請手続きの負担感が大きい。(4)任意制度を肯定する率が高い。(5)制度の限界・問題点を含めて公正でわかりやすい情報提供が不足、消費者が主体的に判断し難い。(6)制度利用に消極的な事務所も多く、業者への情報も不足している。 制度の改善には、性能項目の個別選択システムを構築し、検査や申請書類の業務量をスリム化して、適切な価格で利用できる方法を確立すべきである。さらに、建築士が本制度の利点を認識し、専門家として建築主に本制度を的確にアドバイスできるよう情報面からの支援体制を整備することが必要であろう。
著者
一棟 宏子 萩原 美智子 金 貞仁 崔 在順 中野 迪代 若井 希水子 イチムネ ヒロコ ハギワラ ミチコ KIM Jungin CHOI Jeasoon ナカノ ミチヨ ワカイ キミコ Hiroko ICHIMUNE Michiko HAGIWARA Jungin KIM Jeasoon CHOI Michiyo NAKANO WAKAI.Kimiko
雑誌
大阪樟蔭女子大学学芸学部論集
巻号頁・発行日
vol.44, pp.121-136, 2007-03-20

本研究の目的と方法 韓国ソウル市内の分譲アパート5団地を訪問し、管理方式の実情把握と問題点を考察するために、2005年9月、2006年3月、2006年8月、アパート管理に携わる団地の住宅管理所長(住宅管理士)、住宅代表役員、住宅管理会社社長にインタビュー調査を実施した。結果と考察 韓国では70年代以降、共同住宅が短期間に大量建設された結果、伝統的な住宅様式である戸建住宅数を大幅に上回り、今では住宅ストックの6割以上を占めている。住戸の国民住宅規模は85m~2で日本と比べて広い。供給は分譲アパートが中心で、高層化した大規模団地が多く、多様な住戸規模と平面型が混在している。韓国の管理方式の特徴は、(1)管理に携わる職員の人数が多く、その役割分担は所長、管理事務職、設備系技術職、清掃員、警備員で、警備員の多さが目立つ。(2)建物のメンテナンスは従来20年程度で建替えてきた経緯があり、住民の管理に対する意識は低い。住宅法施工以来、住民の関心は建替えからリモデリングへと移っている。(3)管理を推進する住民の代表役員は立候補や推薦で決められる。全区分所有者による総会開催義務はなく、役員以外は管理に携わる義務もないため役員のなり手不足で、 代表役員の定員に欠員があるまま運営される団地がみられた。(4)韓国の管理方式は、設備中心で日常管理の質は一定程度確保でき、問題解決に機動性が発揮される反面、住民全体の合意形成の手続きが省かれたために、長期計画の展望を持ちにくく、住民自身の管理に対する役割意識が醸成されにくい状況がみられる。
著者
一棟 宏子/萩原 美智子/中野 迪代/若井 希水子/金 貞仁/崔 在順 イチムネ ヒロコ/ハギワラ ミチコ/ナカノ ミチヨ/ワカイ キミコ/キム ジュンギン/チョイ ジェソン ICHIMUNE Hiroko/HAGIWARA Michiko/NAKANO Michiyo/WAKAI Kimiko/KIM Jungin/CHOI Jaesoon
雑誌
大阪樟蔭女子大学学芸学部論集
巻号頁・発行日
vol.45, pp.171-186, 2008-01-31

本研究は、分譲マンションの管理組合活動への参加困難層の負担を軽減しつつ組合の弱体化に対する支援と、建物と居住環境の管理レベルを一定に維持するしくみの検討を目指して、2005年度から取り組んでいる。その一環として、本報では2006年11月に京滋阪奈地区の管理組合(築30年以内)理事長を対象に実施したアンケート調査(有効回収59件、41.3%)とヒアリング事例調査(5件)による組合活動の実態を報告する。 アンケート調査の結果をみると、新築当初からの住民比率は、10年を超えた時点で新規居住者との入れ替えが急速に進むマンションとそうでないものに分かれる。賃貸住宅や空き家・事務所を抱えるマンションも多く、中には欠陥が疑われる工事の発見とその対応など、管理組合がかかえる問題は多様である。その中で、(1)築年数が古いマンションほど理事長は高齢化する傾向にあり、役員の世代交代をどのように進めていくか、(2)危機管理について理事長が居住者の基本的情報を把握していない事例が多く、どのようにリスク管理を進めていくか等が課題とされる。また、聞き取り調査から、(3)組合運営のための情報収集や支援に、専門家やNPO、他のマンションとの交流が大きな役割を果たしており、(4)当初設定された管理費用の見直しを行った事例も多い。マンション管理には経営的視点、技術的視点、危機管理とコミュニティ育成の視点が重要といえる。さらに、これまでの研究成果とあわせて検討し、改めて日本における分譲マンションの今後の課題を整理した。