- 著者
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丸井 博
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理学評論 (ISSN:00167444)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, no.11, pp.700-712, 1969
石炭不況はますます深刻の度合いを深め,大手炭鉱会社といえども軒並み赤字経営で,巨額の国家資金の援助の支えでようやく息をついている状況である.現状では石炭の採掘・販売のみでは,経営の黒字は期待できないeこのことは常磐炭田でも例外ではない.低品位の一般炭を主体にしているだけに,むしろ事態は一層深刻化しているといえる.<br> 常磐炭田において独占的な生産比重をもつ常磐炭鉱(株)も,繁栄期の7割にあたる約7000人の従業員で,繁栄期を上廻る年間約260万の出炭量をあげているものの,経営は久しく赤字で無配を続けている.そこで他の大手炭鉱会社にみられるように,常磐炭鉱においても経営の多角化,すなわち他部門を兼営することによって石炭部門の赤字を埋め,総合的には経営を黒字にもっていこうとする傾向を強く押し出さざるをえなくなっている.本研究はこの実態を明らかにし,常磐炭田の地域性とどのように関連しそいるかを解明しようとするものである.<br> 常磐炭鉱は以前からかなりの系列会社をもっていたが,近年はとくにこの拡充に力を入れているmこれらの系列会社は,残炭鉱区の処理,石炭の輸送・販売,倉庫,機械製作,火力発電,石炭製品,食品,観光などの分野に分れているが,炭鉱経営上から派生してきたものが多い.そして,これらの系列会社の性格を分析していくと,石炭生産にともなう独特な系列会社発生のメカニズムが明らかにされるe同時にエネルギー革命に直面した炭鉱会社が,系列会社をクッションにして,これをどのように受け止めようとしているかがわかる.