著者
丸山 良平
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.257-270, 2004

本研究の目的は幼稚園3歳クラスに入園した幼児が,園を修了するまでの3年間にわたって数の合成,分解の問題を解答する際に指と数詞を使用する実態を縦断分析により明らかにすることである。対象児は新潟市の一幼稚園に就園している幼児85人である。この幼稚園では特別な数教育といわれる指導は行われていない。合成課題と分解課題はおはじきの集合によって示されたいくつかの問題で構成されている。これら課題を毎年度2回,計6回実施した。そのデータを分析して解答の際における指と数詞の使用の実態を検討した。The purpose of this study is to make longitudinal investigations into features of children's use of their fingers and numerals of addition and subtraction tasks of sets over three years after the children enrolled in kindergarten. Eighty-Five children from one kindergarten in Niigata participated in this project. They did not have any special arithmetic instruction at the kindergarten. Addition and subtraction tasks included several problems respectively using a set of some marbles. The data obtained from these tasks were collected twice every school year for three years and thus amount to six samples as a whole. We analyzed these data and elucidated children's using their fingers and numerals.
著者
丸山 良平 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.98-110, 1997-07-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
5

インフォーマル算数は乳幼児期に生活の中で獲得される数知識で, 就学後の算数学習の重要な基礎力であるという。本論の目的はこの数知識の実態を文献により明らかにすることである。ここでは分離量に限定し, 数知識を1数, 2数, 3数関係に分類して検討した。この分類は思考の情報処理モデルに対応するものである。1数関係は集合の個数を数詞で表現するように, ある媒体の示す1つの数を他の媒体で表すことで, 筆者のいう数転換である。2数関係は2つの数に関する数の保存と多少等判断であり, 3数関係は2数から第3の数を生む演算である。検討の結果, 次のような実態が主に明らかとなった。乳児期初期から集合の弁別が行われ, 数量を表す言葉とその感覚が結びつき, 数理解の基礎が形成される。1数関係では数詞は集合の名称として獲得され, 数の媒体と媒体とを結ぶ軸となり, 数知識の発達を促す。2数関係の多少等判断では10進法の初歩的知識が4歳児期に使用される。また数の保存に関する知識は論理的に洗練されておらず, 日常生活を反映して具体的経験的である。3数関係の理解は数を示す媒体によって異なり, 事物集合, 数詞, 数字の順で困難さが高まる。初歩の演算は心内での集合イメージを操作して行われることが示唆された。本論ではインフォーマル算数の知識を3カテゴリーに分けることの有効性が示され, さらにいずれのカテゴリーにおいても数詞の役割の重要性が示された。
著者
丸山 良平 小林 秀智
出版者
上越教育大学
雑誌
上越教育大学研究紀要 (ISSN:09158162)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.229-242, 2005-09-30

本研究の目的は幼稚園5歳クラス児が自発的に制作した物語絵本の内容と,その活動の開始を助け展開を支えた保育者の援助の実態を明らかにすることである。これまでに観察した幼児が偶然はじめた自発的な物語絵本の制作活動を分析し,その条件を洗い出した。その条件の一つである手作り絵本を準備して,筆者の一人が担任教師をする幼稚園5歳クラスで読み聞かせしたところ,幼児たちは自発的に物語絵本の制作をはじめた。この園では特別な文字教育といわれる指導は行われていないが,幼児たちは2ヶ月に渡って積極的に熱心に物語を創り文章にした。幼児が制作した絵本の内容とその制作活動を支える教師の援助の実態を分析し,幼児が自発的に文字で文章を書く条件と教師の援助の在り方を考察した。
著者
丸山 良平
出版者
上越教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は乳幼児の仲間関係に焦点化し,遊びの指導と子どもの自発的な遊びの援助プログラム作成のための準備として乳幼児の遊びと保育者援助の実態の解明を目的とした。2005年10月から2006年3月まで幼稚園3歳クラス,保育所0・1歳クラスと2歳クラスを観察した。この観察資料から作成した事例を分析し考察した。仲間関係の特徴は,0歳クラス児では親和的かかわりが期間を通して多い。1歳クラス児では当初は攻撃的関与が多いものの,冬休みを境に親和的関与が増加した。攻撃的関与は物の奪い合いが最多であるが,冬休み後は自制するようになつた。保育者援助は攻撃行動の制止が最多であるが,それによって関係修復までには至らない。2歳クラス児では仲間関係は遊びに依存していた。男女児共にいわゆる「ままごと」が多く,様々なかかわりをしていた。険悪なときユーモラスな発話をして,場の雰囲気を一変させることがあった。保育者援助では解決を急ぐあまりに不適切な指導が見られた。3歳クラス児ではごっこ遊びが主流となっていた。初期は保育者の援助がないと進展しなかったが,次第に子ども達だけでも展開するようになった。怪獣のような悪役をやる幼児が登場し対立関係のあるごっこ遊びが展開し仲間関係も深まった。保育者が遊び込めない子どもをときどき見過ごすことがあった。遊び込めない子ども達がしばしばトラブルを起こすことが示された。観察と平行して文献研究として心理学と保育指導の文献を検討し,乳幼児期の仲間関係の発達と保育者の援助のあり方をまとめた。2006年4月から2007年3月まで対象者の多くが上記と同じ幼児である幼稚園4歳クラス,保育所2歳クラスと3歳クラスを観察した。その資料は分析中で今回は成果を報告できなかったが,今後,稿を改めて報告する。