著者
丹治 和世
出版者
日本神経心理学会
雑誌
神経心理学 (ISSN:09111085)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.88-97, 2021-06-25 (Released:2021-07-17)
参考文献数
31

自閉スペクトラム症(ASD),注意欠如多動性障害,学習障害などの発達障害でみられるコミュニケーションの問題は,発達障害自体の多様性を反映して,様々な形で現れる.高次脳機能障害とは対照的に,成人発達障害では神経画像上明らかな病巣が見られることはほとんどないが,コミュニケーションの問題を理解するためには神経心理学的なアプローチが有用である.本稿では主にASDの発症機序について,社会的認知の問題に重点をおく説明と,その他の認知機能の問題による説明の大きく2種類の学説について概説し,自験例のASD症例でみられるコミュニケーション障害とその神経心理学的特徴との関連を考察する.
著者
大石 如香 丹治 和世 斎藤 尚宏 鈴木 匡子
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.370-378, 2015-09-30 (Released:2017-01-03)
参考文献数
17

左頭頂葉梗塞によって生じた非流暢な伝導失語例の発話の特徴について検討した。症例は 81 歳右利き男性, 発話障害と右手指脱力で発症した。接近行為を伴った頻発する音韻性錯語や重度の復唱障害といった伝導失語でみられる特徴的な症状を認めた一方で, 発話速度の低下やプロソディ異常といった伝導失語では通常認められない非流暢性発話を呈した。発話に現れる音の誤り方について分析を行ったところ, 課題によらず音の歪みがみられること, 音韻性錯語の出現率に呼称と復唱で差がないこと, 子音の誤りは置換が多く, 転置が少ないことが明らかとなり, 中心前回損傷でみられる発話特徴に近似していた。病巣は左縁上回から中心後回の皮質下に及んでおり, 中心後回と中心前回は密な機能連合があることから, 中心後回の皮質下の損傷が本例の非流暢な発話に関連していることが示唆された。