著者
府馬 正一 宇根 ユミ 久保田 善久
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、東京電力(株)福島第一原子力発電所事故の高汚染地域における環境リスク評価および環境の放射線防護のための国際的指針作成に資することを目的として、有尾両生類の一種であるトウホクサンショウウオ(以下、サンショウウオ)を対象として高汚染地域由来の個体と実験的な長期低線量率被ばく個体を解析することにより、線量(率)-効果関係を取得するとともに、その影響メカニズムの解明を行っている。平成29年度は以下の成果が得られた。γ線連続照射実験については、これまで約5年間にわたって胚からγ線を照射し続けてきたサンショウウオ成体を、さらに1年間照射した。その結果、非照射対照と比べた体重増加は、線量率33μGy/hではやや促進され、150μGy/hでは影響が見られず、510μGy/hでは明らかに抑制された。また、対照と33μGy/hでは90 %以上の個体で第二次性徴が発現したのに対し、150 と510μGy/hで第二次性徴が発現した個体は皆無であった。汚染底質曝露実験については、福島県の高汚染地域で採取した底質に水を加えた系で1年間飼育したサンショウウオ幼生を変態させたが、幼体の皮膚に異常は生じなかった。有尾両生類であるメキシコサラマンダーで有用とされた方法を用いて造血幹細胞への照射の影響を評価したが、サンショウウオでは、反応がなく適用できなかった。細胞増殖活性については、線量率31~470μGy/hでγ線を連続照射した幼生でPCNA(増殖細胞核抗原)陽性率を調べたところ、肝細胞では31μGy/hで最高となり、腸上皮細胞では線量率依存的に高くなり、脾臓と尿細管上皮細胞では470μGy/hで顕著に高くなった。また、積算線量が2.95~24Gyとなるようにγ線を連続照射した成体では、線量依存的に腸上皮細胞のPCNA陽性率が低下し、24Gyでは肝細胞と尿細管上皮のPCNA陽性率が顕著に低下した。