著者
金 小海
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

2019年においては、動物実験で得られた甲状腺の標本の病理診断を終わらせた。標本は大きく2種類に分け、一回照射と連続照射された動物の病理標本からなる。 いずれも胎仔期、1週齢あるいは7週齢の標本に分けており、「過形成」から「腺腫」、「腺癌」までいろんな病理像が観察された。この診断結果に基づいて統計解析を行い、主に線量依存や照射時年齢依存性について有意差があるかどうかを調べた。結果、1週齢のマウスにおいて、放射線照射(一回照射)による甲状腺の腫瘍性病変の増加がコントロール群と比べて有意差があるのを認めた。また、甲状腺腫瘍の発生頻度は線量に依存して増加する傾向であるのも認められた(高線量4Gyでは、胸腺腫とリンパ腫など病変が発 生するため逆に低下)。上記の年齢と線量に依存しての変化は同じ低線量率の動物実験でも行ったが、病理診断結果と統計解析ともにコントロール群と比べ有意差を認められなかった。また、病理診断により病変が観察された一部標本に関しては、放射線による甲状腺がん発がん段階で関与すると推測される遺伝子CLIP2の免疫染色を行った。CLIP2は、人では放射線誘発の甲状腺癌に関与するという報告はあるが、マウスなど動物実験での報告はまだである。今回の免疫染色の結果などは、今後症例を増やし、統計解析まで行う必要性を得られ、グループごとの遺伝子変異解析により放射線誘発甲状腺がんのバイオマーカーの探索は、発がん機構解明のための基礎的情報を得るのに一歩踏み出したことになる。
著者
鈴井 伸郎 井倉 将人 渡部 浩司 坂下 哲哉 尹 永根 吉原 利一
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

これまでの放射性セシウムの動態研究に欠けていた「個体レベル」の動態解析を、新規に開発したポジトロン放出核種Cs-127(半減期:6.25時間)を用いた非破壊イメージングにより実現する。具体的には、生きた作物(ダイズ)と樹木(リンゴやスギ等)におけるセシウム動態を非破壊的に可視化し、子実へのセシウム輸送メカニズムの解明と樹体内のセシウム動態モデルの構築を行う。さらに、Cs-127を生きた動物(ラット)に経口投与し、ポジトロン断層法(PET)を用いてセシウムの3次元動態を非破壊的にリアルタイムで可視化し、各臓器への移行速度を算出することで、放射性セシウムによる内部被ばく線量の正確な評価に資する。
著者
保坂 勇志
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

EUVレジスト性能を電子線(EB)によって評価する手法について研究を行った。EUV照射時の特徴的な初期電子分布を再現するため、100 eV程度の超低エネルギーEB照射装置の開発を行った。超低エネルギーEBを照射したサンプル表面ではナノメートルオーダーの形状変化が確認された。また、レジストへの短パルスEUV照射試験を行った。ピコ秒EUV照射ではレジストの高感度化が確認され、X線光電子分光により照射後の化学構造の違いも観測されている。他にEB描画時の後方散乱の影響について電子散乱シミュレーションによる検討を行った。線幅100 nm以上ではEB描画の結果からEUV描画感度予測が可能となった。
著者
府馬 正一 宇根 ユミ 久保田 善久
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、東京電力(株)福島第一原子力発電所事故の高汚染地域における環境リスク評価および環境の放射線防護のための国際的指針作成に資することを目的として、有尾両生類の一種であるトウホクサンショウウオ(以下、サンショウウオ)を対象として高汚染地域由来の個体と実験的な長期低線量率被ばく個体を解析することにより、線量(率)-効果関係を取得するとともに、その影響メカニズムの解明を行っている。平成29年度は以下の成果が得られた。γ線連続照射実験については、これまで約5年間にわたって胚からγ線を照射し続けてきたサンショウウオ成体を、さらに1年間照射した。その結果、非照射対照と比べた体重増加は、線量率33μGy/hではやや促進され、150μGy/hでは影響が見られず、510μGy/hでは明らかに抑制された。また、対照と33μGy/hでは90 %以上の個体で第二次性徴が発現したのに対し、150 と510μGy/hで第二次性徴が発現した個体は皆無であった。汚染底質曝露実験については、福島県の高汚染地域で採取した底質に水を加えた系で1年間飼育したサンショウウオ幼生を変態させたが、幼体の皮膚に異常は生じなかった。有尾両生類であるメキシコサラマンダーで有用とされた方法を用いて造血幹細胞への照射の影響を評価したが、サンショウウオでは、反応がなく適用できなかった。細胞増殖活性については、線量率31~470μGy/hでγ線を連続照射した幼生でPCNA(増殖細胞核抗原)陽性率を調べたところ、肝細胞では31μGy/hで最高となり、腸上皮細胞では線量率依存的に高くなり、脾臓と尿細管上皮細胞では470μGy/hで顕著に高くなった。また、積算線量が2.95~24Gyとなるようにγ線を連続照射した成体では、線量依存的に腸上皮細胞のPCNA陽性率が低下し、24Gyでは肝細胞と尿細管上皮のPCNA陽性率が顕著に低下した。
著者
横谷 明徳 渡辺 立子 秋光 信佳 岡 壽崇 鵜飼 正敏 福永 久典 藤井 健太郎 服部 佑哉 野口 実穂 泉 雄大 Hervé du Penhoat Marie-Anne
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

X線照射したEGFPプラスミドを“非照射”の細胞導入し、ライブセル観察によりEGFP蛍光の発現速度の低下から難修復性のクラスターDNA損傷が生じていることを示した。また軟X線を照射しながら水和デオキシリボース(dR)からの脱離イオンを測定し、水分子が分子の激しい分解を抑制すること、またその理由がdRから配位水への高速のプロトン移動によることを分子動力学計算により示した。さらに放射線トラックエンドで生じる多数の低速2次電子は、発生位置から数nm以上離れたところに塩基損傷を誘発し、修復過程を経てDNAの2本鎖切断に変換され得るクラスター損傷を生成することを示した。
著者
横谷 明徳 黒川 悠索 鵜飼 正敏
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

突然変異等など放射線による遺伝的変異の主要な要因であるDNAの分子損傷のメカニズムを、物理化学的観点から解明する。このため、DNAの電子状態に焦点を当て、ミクロな世界を支配する量子的性質と分子損傷の相関を実験と理論の両面から探る。特にハロゲンなど重い元素をDNAに取り込ませた生体に現れる高い放射線感受性のメカニズムを解明し、量子的観点から放射線増感剤の効果を制御するための技術開発に資する知見を得る。
著者
間島 慶
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

機械学習アルゴリズムを適用することによって、脳活動から被験者の知覚・認知内容・運動意図などを読み出すことが可能になっている。この技術は脳情報デコーディングと呼ばれ、脳を介した情報通信技術の基盤にもなっている。しかし、既存の多くの機械学習アルゴリズムは、入力されるデータの次元数が数万以上になると、膨大な計算時間を要するため、実質適用することができない。そこで、本研究では、近年提案された「量子インスパイア計算」を用いて、機械学習アルゴリズムの高速化を試みる。
著者
平林 敏行
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は、マカクザルにおいて遺伝学的手法による神経活動操作と脳機能イメージングを組み合わせ、局所的な神経活動操作による大域ネットワークの機能変容を評価した。まず、片側脳半球の第一次体性感覚野(SI)足領域に抑制性DREADDを遺伝子導入したサルにDREADDの特異的アゴニストであるCNOを静脈投与し、機能的MRIを用いて体性感覚刺激による賦活を調べた結果、DREADDを遺伝子導入したSI足領域における局所的な抑制に加えて、SIから解剖学的投射を受ける同側の5野や第二次体性感覚野においても遠隔的な抑制が認められ、さらにこれらの遠隔抑制領域は、いずれもDREADDを遺伝子導入したSI足領域との間に機能的結合を持つ事が示された。また、呈示された視覚図形を短時間記憶する課題を訓練したマカクザルを用いて、PETによる課題中の局所脳血流量計測を行い、非空間的視覚短期記憶を支える前頭葉―側頭葉ネットワークを同定した。その中で、特に眼窩前頭皮質の活動部位に対して両側性に抑制性DREADDを遺伝子導入し、CNOによる機能抑制を行った。その結果、前述の記憶課題において、記憶負荷が高い場合のみ選択的に課題成績が低下する事が明らかになった。また、CNO投与下にて課題中の局所脳血流量計測を行った結果、DREADDを遺伝子導入した眼窩前頭皮質の活動部位における局所的な抑制に加えて、抑制前にこの領域と機能的結合を示していた下側頭皮質の活動部位においても、遠隔的な抑制が認められた。これらの事から、眼窩前頭皮質の局所的な抑制によって、視覚短期記憶に関わる前頭葉―側頭葉ネットワークの大域的な機能変容が生じ、それが記憶課題成績の低下に繋がったと考えられる。以上により、遺伝学的手法を用いた局所的な神経活動操作が大域ネットワークの機能に及ぼす影響を、脳機能イメージングによって評価する系が確立された。
著者
神長 輝一
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、電離放射線が誘発するDNA損傷およびミトコンドリア損傷に起因する、ATP加水分解の亢進と、ミトコンドリア脱共役による温度およびpHの経時変化、そしてその生物学的意義の解明を目指すものである。本研究の特色は、細胞内の温度、pHという物理・化学的要因に着目し、その計測のため量子センサーの一種である蛍光ナノダイヤモンドを用いることである。本研究で得られる知見は、放射線を含む外部ストレスに対する温度、pH変化を介した細胞恒常性維持機構の解明に貢献できると期待される。
著者
平野 優
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
戦略的な研究開発の推進 戦略的創造研究推進事業 さきがけ
巻号頁・発行日
2017 (Released:2018-03-20)

タンパク質において水素原子や外殻電子は様々な化学反応に直接関与しており、そのふるまいからタンパク質の分子機能には量子トンネル効果が寄与していると考えられています。本研究では、中性子回折とX線回折の2種類の量子ビーム技術を相補的に利用した高分解能立体構造解析を行い、水素原子と外殻電子の情報を高精度で決定し、タンパク質が関与する化学反応における量子トンネル効果の構造基盤の解明を目指します。
著者
柿沼 志津子 尚 奕 森岡 孝満 臺野 和広 島田 義也 西村 まゆみ 甘崎 佳子 今岡 達彦 ブライス ベンジャミン
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

福島原発事故以降、放射線への関心が高まり発がんが懸念されている。一方、小児がん患者のプロトンや重粒子線治療が始まり、中性子線や炭素線による2次発がんも心配される。こども被ばくのリスクとその低減化のため発がん機構の解明が急務である。本研究では、マウスやラットの発がん実験で得られたがんの病理解析やゲノム変異解析で、被ばく時年齢、線質、臓器依存性を示す発がんメカニズを調べた。その結果、血液がんでは子供期被ばく特異的な原因遺伝子と変異メカニズムが認められた。固形がんでは、高LET放射線で発がんの早期化や悪性化が示されたが、ゲノム変異に差はなかった。今後、エピジェネティック異常について検討が必要である。
著者
西村 まゆみ 島田 義也 今岡 達彦 柿沼 志津子 臺野 和広
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

原爆被爆者や放射線治療患者の疫学調査は、乳腺は放射線による発がんリスクが高い臓器であることを示している。国際宇宙ステーションでは生物学的効果比が高い中性子線の被ばく線量が高く、女性宇宙飛行士の放射線防護には中性子線の影響を考慮する必要がある。また、乳がんリスクは出産経験に大きく左右されるが、放射線による乳がんリスクの情報は少ない。本研究では、ラットを用いてγ線や中性子線による乳がんリスクが妊娠経験によって低減するかを検討した。その結果、出産経験は乳がんの自然発生率を変えなかったが、γ線(4Gy)および中性子線(0.05-0.5Gy)で誘発される乳がんを、ほぼ完璧に抑制することが明らかとなった。
著者
田島 英朗 山谷 泰賀 吉田 英治 岩男 悠真 脇坂 秀克
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

半球状に検出器を配置し、さらにあごの位置に追加検出器を配置することで、脳機能計測のための感度を大幅に向上させることが可能なヘルメットPET装置を提案し、検出器ブロックサイズの最適化検討、画像再構成法の開発、及び試作装置への適用を行った。その結果、検出器ブロック間に隙間が生じることを考慮すると、検出器ブロックサイズが5cm角程度の大きさの時に、脳領域に対する感度が最も高くなることが明らかになった。そして、画像再構成法の開発と、世界初のヘルメット型PET試作機への適用を行い、性能評価を行った結果、高い感度と空間分解能を有することが示され、提案装置が高精度な脳イメージングに有効であることを実証した。
著者
河野 秀俊 リ ツェンハイ
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

本研究では、ヌクレオソームにおける翻訳後修飾やヒストンバリアントの影響を全原子分子動力学シミュレーションで解析し、ヒストンH3のテール領域がアセチル化やメチル化されると、DNAが解離しやすくなることを見出した。また、新規のヌクレオソーム構造(ヒストン6量体のヌクレオソームとヒストン8量体のヌクレオソームが重なった構造)の構造を決定した。さらに、クロマチンの構造多様性は、H4テールの相互作用の仕方によって生み出されることを示した。