著者
久保田 翠
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.40-57, 2006 (Released:2009-10-29)
参考文献数
14

本稿は20世紀中葉を代表する2人のアフリカ系アメリカ人の演説の音楽的分析である。より先行する世代の説教師CLフランクリンの説教は、興奮してくるにつれ、ブルース的な音階をなぞる様を呈したが、この種の「黒人音楽」的特徴を、M.L.キングJr.とマルコムXが、どのように保持または逸脱しているかを調査し、可能な範囲で記譜を試みた。その結果、前者ではピッチの上昇によって漸次的に感情を盛り上げていく手法が明らかであり、後者では一定のテンポとピッチで矢継ぎ早に発し続けるアタックの強い音節が、時にシャッフル・ビートに漸近しながら、スウィングに似た刺激をもたらしていることが理解された。
著者
久保田 翠 Midori KUBOTA
雑誌
論集 = KOBE COLLEGE STUDIES
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.89-110, 2015-12

作曲家クリスチャン・ウォルフ(1934-)は、1957-68年にかけて独自の図形楽譜を編み出し、その中で三つの特徴的な手法を用いた。すなわち、「比率ネウマ」「キューイング」「コーディネート線」である。「比率ネウマ」は、ある限られた数秒内に演奏する内容を示す手法である。予め規程された秒数(コロン左側の数字)の間に、予め指示された演奏内容(コロン右側の数字もしくは/及びアルファベット)を演奏しなければならない。「キューイング」は、「他者のこのような音が聞こえたら、どのように反応するか」ということを規定するものである。ウォルフの図形楽譜においては、白丸の中に音量や音域といった音の条件を書き込んだものが「キュー」として示される。該当する条件の音が他者の演奏から聞こえたと判断した際、奏者はすぐさまそのキューの傍らにある記号を演奏しなくてはならない。「コーディネート線」は、自分の音と他者の音をどのようにアンサンブルさせるかを厳密に規定するものである。音と音との間には垂線や水平線・斜線が引かれ、音の前後・同時関係や音長の決定方法を示す。ウォルフは五線譜の仕組みを下敷きとした図形楽譜作品から出発しながらも、「持続する直線(五線)=要素の連続性」を早々と放棄した。その後まずキューイングを導入したことにより、演奏経過時間を示す必要がなくなり、それにより音が拍子や作品全体を貫く時間軸から解放された。さらにコーディネート線を導入したことにより、音の同時的関係をより厳密に設定することが可能になった。音は「計測出来る時間」から解放され、一回毎の演奏の身振りや個々の音の様態がそのまま作品全体へと影響するようになったのである。
著者
久保田 翠 Midori KUBOTA
出版者
神戸女学院大学研究所
雑誌
神戸女学院大学論集 (ISSN:03891658)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.89-110, 2015-12

作曲家クリスチャン・ウォルフ(1934-)は、1957-68年にかけて独自の図形楽譜を編み出し、その中で三つの特徴的な手法を用いた。すなわち、「比率ネウマ」「キューイング」「コーディネート線」である。「比率ネウマ」は、ある限られた数秒内に演奏する内容を示す手法である。予め規程された秒数(コロン左側の数字)の間に、予め指示された演奏内容(コロン右側の数字もしくは/及びアルファベット)を演奏しなければならない。「キューイング」は、「他者のこのような音が聞こえたら、どのように反応するか」ということを規定するものである。ウォルフの図形楽譜においては、白丸の中に音量や音域といった音の条件を書き込んだものが「キュー」として示される。該当する条件の音が他者の演奏から聞こえたと判断した際、奏者はすぐさまそのキューの傍らにある記号を演奏しなくてはならない。「コーディネート線」は、自分の音と他者の音をどのようにアンサンブルさせるかを厳密に規定するものである。音と音との間には垂線や水平線・斜線が引かれ、音の前後・同時関係や音長の決定方法を示す。ウォルフは五線譜の仕組みを下敷きとした図形楽譜作品から出発しながらも、「持続する直線(五線)=要素の連続性」を早々と放棄した。その後まずキューイングを導入したことにより、演奏経過時間を示す必要がなくなり、それにより音が拍子や作品全体を貫く時間軸から解放された。さらにコーディネート線を導入したことにより、音の同時的関係をより厳密に設定することが可能になった。音は「計測出来る時間」から解放され、一回毎の演奏の身振りや個々の音の様態がそのまま作品全体へと影響するようになったのである。Composer Christian Wolff (1934-) developed his unique graphic scores during the years 1957-68, in which he used three characteristic methods: ratio neume, cueing, and the coordinate line.Ratio neume indicates the contents to be played during a certain limited time. Pre-indicated contents (numerals and/or alphabets shown on the right side of the colon) are to be performed during predetermined seconds (as shown on the left side of the colon).Cueing is a way to configure how to react to the sounds presented by other pyayers. In Wolff's graphic scores, dynamics or sound-range directions are written in white circles to make so-called "cues." Just when they hear the sounds appropriate to the cue, performers have to play the signs written right next to the cue.A cooedinate line prescribes how to coordinate the sounds of your own with the others. Vertical, horizontal and diagonal lines are drawn between netes to indicate the sequential order or simultaneity, and to help determine the length of the notes to be played.Wolff started writing staff-based graphic scores, but at an early stage abandoned sequentiality inherent in stave notation. After that , by introducing the method of cueing it became unnecessary to indicate the passage of the performing time, so that sounds got liberated from the timeline that controls beats and the work itself. Moreover, the introduction of the coordinate line made it easier to indicate strict simultaneity. Sounds were liberated from the measurable time. Performers' evanescent gestures and the specificities of each tone became determining elements of the quality of work itself.