著者
栗田 知宏
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.3-17, 2007 (Released:2009-10-29)
参考文献数
21

アメリカの人気白人男性ラッパー、エミネムは、リリックのなかでデビュー以来女性や同性愛者にまつわる「差別的」な表現を多用してきた。しかし、それらに対する非難はやがて肯定的な評価へと変化していく。では、彼の表現に対する肯定的な解釈はどのような受容状況のもとで加えられていったのだろうか。本稿では、エミネムについて語られたアメリカのヒップホップ雑誌とロック雑誌の記事を対象として、音楽ジャンルの真正性・正統性指標によって彼の「差別」表現がヒップホップ/ロックとして意味づけられていく様相について考察する。
著者
谷口 文和
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.15-34, 2003 (Released:2009-10-29)
参考文献数
21

“Turntablism” could be defined as a musical genre in which DJs claim that the turntables they operate are “musical instruments”. In this paper I discuss the concept of “turntables as musical instruments” through the analysis of DJ performances. For this purpose I devised my original notational system which facilitates transcription of the DJ's body movements along with the musical sounds.The analysis of the performances using techniques such as “scratch” and “beat juggling” shows that the sound patterns reflect the DJ's motor patterns. An understanding of this relationship, gained through watching or practice, as opposed to just listening, gives deeper insight into its musical construction. In this sense, the musical style of turntablism is not simply that of sound itself, but also that of related musical experiences, including performing and listening. In conclusion, this insight makes it natural for those who enjoy turntablist performances, both DJs and listeners, to consider the turntables as “musical instruments”.
著者
南田 勝也
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.35-50, 1998-11-30 (Released:2009-10-29)
参考文献数
18

This paper gives analysis on the value systems that form the characteristics of the rock music culture, in reference to the theories of Simon Frith and Pierre Bourdieu. In this examination of somecharacters in the society and the music culture, especially in the counter-culture scene, which is the early years of rock music mainly themiddle and late 1960's, three distinctive indicators are identified integrating varied aesthetic consciousness and values around the rock music. That is, the ‘outside’ indicator represents intention of downward orientation within the framework of social hierarchy, the ‘art’ indicator represents the challenging intention towards the pure arts, and the ‘entertainment’ indicator is also defined as acquiringpo pularity.
著者
栗田 知宏
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.3-17, 2007

アメリカの人気白人男性ラッパー、エミネムは、リリックのなかでデビュー以来女性や同性愛者にまつわる「差別的」な表現を多用してきた。しかし、それらに対する非難はやがて肯定的な評価へと変化していく。では、彼の表現に対する肯定的な解釈はどのような受容状況のもとで加えられていったのだろうか。本稿では、エミネムについて語られたアメリカのヒップホップ雑誌とロック雑誌の記事を対象として、音楽ジャンルの真正性・正統性指標によって彼の「差別」表現がヒップホップ/ロックとして意味づけられていく様相について考察する。
著者
屋葺 素子
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.17-34, 2004-12-28 (Released:2009-10-29)
参考文献数
34

本稿では、台湾で日本のポピュラー音楽が広まっている背景の一端を明らかにするために、カバー曲を取り上げ考察を行う。日本のメロディに中国語の歌詞がつけられたカバー曲は戦後より現在まで存在し続けている。しかし、時代時代に応じてカバー曲が持つ意味は変容しており、その特徴は次のようにまとめることができる。1)戦後から1960年代では、言語の政策などによって台湾語の楽曲が不足している代わりとしてカバー曲が制作された。2)1970年代から80年代ではとにかく楽曲を大量に必要としたため、「穴埋め」としてのカバー曲が求められた。日本のメロディであることを隠すということも行っていた。3)1990年代以降においては、日本・台湾の歌手の互いのプロモーションに使用されるなど、カバー曲が積極的な意味をもち、再び日本を意識したカバー曲が増加した。
著者
溝尻 真也
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.112-127, 2006 (Released:2009-10-29)
参考文献数
32

ミュージックビデオ(MV)は、1980年代以降日本でも広く受容されるようになったが、特に1980年代半ばの日本におけるMV受容の拡大に極めて大きな役割を果たしたのが、MVを紹介するテレビ音楽番組と、ビデオを用いてそれを録画しコレクションしようとするマニアの存在であった。こうしたマニアの出現には1950年代末から続くFM放送受容の流れがあり、MV番組の生成プロセスとは、こうしたポリティクスの中で、それまでとは異なった形のテレビ音楽番組が生成されていくプロセスであった。本論は、こうしたマニアという場とビデオというメディア・テクノロジーとのかかわりが、いかにMVを受容する場を形成していったのかを明らかにするものである。
著者
久保田 翠
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.40-57, 2006 (Released:2009-10-29)
参考文献数
14

本稿は20世紀中葉を代表する2人のアフリカ系アメリカ人の演説の音楽的分析である。より先行する世代の説教師CLフランクリンの説教は、興奮してくるにつれ、ブルース的な音階をなぞる様を呈したが、この種の「黒人音楽」的特徴を、M.L.キングJr.とマルコムXが、どのように保持または逸脱しているかを調査し、可能な範囲で記譜を試みた。その結果、前者ではピッチの上昇によって漸次的に感情を盛り上げていく手法が明らかであり、後者では一定のテンポとピッチで矢継ぎ早に発し続けるアタックの強い音節が、時にシャッフル・ビートに漸近しながら、スウィングに似た刺激をもたらしていることが理解された。
著者
屋葺 素子
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.17-34, 2004

本稿では、台湾で日本のポピュラー音楽が広まっている背景の一端を明らかにするために、カバー曲を取り上げ考察を行う。日本のメロディに中国語の歌詞がつけられたカバー曲は戦後より現在まで存在し続けている。しかし、時代時代に応じてカバー曲が持つ意味は変容しており、その特徴は次のようにまとめることができる。1)戦後から1960年代では、言語の政策などによって台湾語の楽曲が不足している代わりとしてカバー曲が制作された。2)1970年代から80年代ではとにかく楽曲を大量に必要としたため、「穴埋め」としてのカバー曲が求められた。日本のメロディであることを隠すということも行っていた。3)1990年代以降においては、日本・台湾の歌手の互いのプロモーションに使用されるなど、カバー曲が積極的な意味をもち、再び日本を意識したカバー曲が増加した。
著者
田中 健二
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.80-95, 2006 (Released:2009-10-29)
参考文献数
30

アメリカの伝統的カントリーミュージックの歌詞の中には、暴力と死を歌ったものがある。男が女を理由も言わずに惨殺する歌詞がよく見られる。なぜなのか。カントリーミュージックの成立・発展過程を考えれば、アメリカの南部性も考察しなければならないことが分かる。その南部の人達の内面的精神を、いくつかの歌詞を例にとり、本論文では論じていく。そして南部のゴシック性をともなった歌詞は現代カントリーにまで受け継がれているのだろうか。現代アメリカのカントリー歌詞が南部の人達の気質を継承しつつ、時には荒々しい男の描写を好んで歌う実態を検証する。カントリーミュージック歌詞の残忍性と多様性を、その継続性の観点から検証する。
著者
増田 聡
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.22-34, 1997-11-30 (Released:2009-10-29)
参考文献数
9

In popular music, the concept of “musical work” is different from that of so-called “classical” music (western art music in the modern era). As music copyright shows, however, there are a number of discourses in which popular music is understood in the paradigm of “classical” musical works.In this paper, by analyzing general discourses about popular music on a semiotic framework based on the theory of Joseph Margolis, the auther considers what logical structure maintains and produces the identity of the concept of musical works in popular music, and explains the difference from the concept of “classical” music. Then the auther discusses that the alternation of “musical work” has been generated from a new relation between musical practices and reproduction technology such as recording media.
著者
冨田 晃
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.18-36, 2001 (Released:2009-10-29)
参考文献数
41

This is a monograph on steelpan history in Japan for the past thirty years. Steelpan, a melodious percussion instrument made from oil-drums, was invented and developed in Trinidad and Tobago. Study of musical instruments within a traditional ethnomusicological approach aims to clarify the society where a particular instrument is invented and developed. However, with new directions in the study of musical instruments, this article aims to clarify the society where an instrument is accepted and diffused, paying particular attention to the phenomenon of displacement. Considering the World Music Boom to be a border between different periods, the author divides the history into “Period of Professionals (about 1970-1989)” and “Period of Amateurs (after 1990).” On this basis, the Japanese use of steelpan is discussed in terms of the social frameworks, images and technologies that exist.
著者
永井 純一
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.96-111, 2006

近年、ロックフェスティバルをはじめとする音楽イベントが隆盛である。それらは、かつてのようにカウンターカルチャーの決起集会的なものではなく、レジャー感覚で楽しむものとして定着しつつある。そこでは、ポピュラー音楽の新たな受容のスタイルが生み出されている。このとき聴衆は「参加者」として新たな意味が付与され、主催者とともにフェスティバルを作り上げるような、積極的な存在として捉えられている。音楽受容が多様化するなか、こうした現象はポピュラー音楽研究のさまざまな観点から論じられるべき、興味深い現象であるといえよう。本報告では彼らのエスノグラフィ通じて、現代の積極的な聴衆としてのロックフェスティバルの参加者像を描くことを目的とする。
著者
粟谷 佳司
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.23-34, 1998-11-30 (Released:2009-10-29)
参考文献数
45

This paper examines the politics of discourse on the value of ‘rock’ by critics and academics and importance of audience, mostly neglect in those discourses. First of all, the discourse on ‘the end of the rock era’ by Simon Frith reveals that it stands on ambivalent attitudes towards authenticity of music, which should have been rejected by the thechnology. Then we investigatethe reason why appropriation of musical meaning of audiences which in spite of it's importance, its negrected by Frith and only discribed negatively at the mass society theory is so important by the framework after the rise of Cultural Studies.
著者
高橋 美樹
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.58-79, 2006 (Released:2009-10-29)
参考文献数
47

本稿の目的は1920-40年代に沖縄出身の普久原朝喜が丸福レコードにおける〈媒介者〉として、どのような実践をしていたのか明らかにすることである。制作者としての役割を果たしながら、歌手・演奏家、聴衆を仲介する人物として、朝喜の実践を分析した。結論は以下の3点である。第1に、朝喜はレコードを沖縄、日本、海外における沖縄系エスニック・コミュニティに向けて発信するスタイル、つまり〈内向き〉発信スタイルに基づきレコードを発売していた。第2に、レコード制作は沖縄固有のローカル性に富み、聴衆と販路は国境を越え流動化していた。ただし、丸福レコードの活動は国という地理的な境界は越えたが、沖縄人という民族的な境界は越えていなかった。第3に、大阪在住の朝喜の存在は沖縄移民の中継地として機能していた。朝喜は沖縄、日本、海外における沖縄系ネットワークを有効に活用し、レコード制作販売に反映させることで商業的成功を成し遂げたといえる。
著者
井手口 彰典
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.3-16, 2004-12-28 (Released:2009-10-29)
参考文献数
22
被引用文献数
1

筆者の考えによれば、いわゆる「ストリートミュージシャン」という言葉によって示される対象は、特に90年代後半からの日本において大きく変質してきている。旧来的には当然であった「芸を演じる」という感覚を持ち合わせない者たちが出現しているのだ。しかしそのような変質に着目する研究的視点は未だ少なく、旧来的なストリートミュージシャン像との間に混乱をきたしている。本論文は、近年現れた「非-芸人」とでも呼びうる新たなストリートミュージシャンを、特に他者との関係性から分析し、旧来的なものとは区分して捉える重要性を提言する。またそのような異質なストリートミュージシャンたちが現れてきた背景を明らかにし、その活動が生み出される機制を考察する。
著者
鶴田 格
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2-19, 2000 (Released:2009-10-29)
参考文献数
16

This paper examines the interlocking development processes of rural folk songs and luuk thung, a genre of popular music which developed under the considerable influence of folk musical traditions in Central Thailand.With the drastic socioeconomic changes which occurred in the 1960s, folk song genres in Central Thailand, including phleeng iisaew, gradually declined and were finally replaced by modern entertainment, such as luuk thung. Khwancit Siipracan, a competent folk singer at that time, left her home village for Bangkok to become a luuk thung singer in the late 1960s and recorded a number of popular songs with an identifiable local flavor. In the late 1970s, Khwancit established her own folk entertainment troupe and succeeded in commercializing phleeng iisaew by modernizing the style of performance for contemporary audiences. This fact indicates that, during the period from the 1960s to 1980s, popular music (including commercialized folk songs) in Central Thailand developed on the basis of the direct interplay between rural folk songs and urban popular songs.
著者
増淵 敏之
出版者
The Japanese Association for the Study of Popular Music
雑誌
ポピュラー音楽研究 (ISSN:13439251)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.3-21, 2005 (Released:2009-10-29)
参考文献数
46
被引用文献数
1

近年、ようやく国内においてもインディーズの台頭により、地方都市でも産業化の可能性が見えてきた。まず沖縄県がモンゴル800のヒットから次々に成功事例を作り、行政までが産業育成に具体的に乗り出してきている。戦後、国内の音楽産業は長く東京一極集中の状態にあった。しかし様々な要因によって国内の市場規模が縮小する中、地方への分散はひとつの打開策として検討されるべきだろう。それが産業化の前段として、音楽を改めて地域の文化として捉え直すことなのである。本論文は、地方都市における音楽文化の発展の過程について、福岡市を事例に検討する。そして地域の音楽文化が産業化していくための基盤を明らかにする。