著者
寺本 喜好 臼井 永男
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法のための運動生理 (ISSN:09127100)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.171-175, 1994 (Released:2007-03-29)
参考文献数
11
被引用文献数
1

この研究の目的は,脚長差の出現が直立姿勢における骨盤と腰椎の形態及び左右の荷重差に与える影響ついて検討することである。健常な20名(男性11名,女性9名)を対象に,二台の体重計の上で左右の下肢に脚長差を順次つけ,直立姿勢における左右の荷重差を計測した。その内4名について骨盤と腰部の左右捻転角を測定した。その結果,ヒトは10~20mmの脚長差においても,骨盤と脊柱で捻転(回旋)と側彎を繰り返して垂直方向のバランスをとっているが,重心は脚長差の長脚側に移る傾向が見られた。平均30mm以上の脚長差になると平衡感覚は破綻をきたし,姿勢は乱れ直立位を保つことは困難であった。このように脚長差の出現は骨盤と脊住を捻転側彎させて,垂直方向に直立位を保とうとするが,前後左右の重心を乱し不良姿勢を形成する可能性を内包している。また左脚よりも右脚の方が,平衡機能を保つ上で優位な利き足となっていることが示唆された。
著者
寺本 喜好 臼井 永男
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.207-214, 1995-11-20 (Released:2007-03-29)
参考文献数
8
被引用文献数
1

疾患を持った被検者を対象に,重心位置を計測し,さらに重心計のステージ上で,頭部を固定して骨盤を水平方向にローテーションさせ,その軌跡を測定して健常者と比較した。その結果,足底面内には症状,年齢,性別,習熟度によって様々な円(楕円)軌道が描かれ,健常者とは形態,大きさ,円滑さにおいて差が見られた。この軌跡の運動解析をすることによって,骨盤と腰部および下肢の身体状況を知る手掛かりとなり,身体の柔軟性と重心の安定性および運動能力を,定量的に評価できる可能性が考えられた。そしてこの重心ローテ―ション(CGR)を習熟することによって,骨盤をより正常な形態に補正し,脊柱や下肢の関節および筋の柔軟性と,平衡感覚の向上に役立つことが示唆されたので報告する。
著者
久利 彩子 勝山 隆 臼井 永男 吉田 正樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P3011, 2009

【目的】<BR>立位姿勢で床面に接地しない状態の足趾を「浮き趾」と言う.近年,幼児における「浮き趾」の激増や健常成人における「浮き趾」の実態が報告されている.しかし,姿勢の変化や姿勢保持中の経時的な状況において「浮き趾」の床面接地が変化するか否かについて報告は少ない.本研究では,「浮き趾」の足趾が,両足・片脚立位姿勢保持中に,接地状態が変化するか否か明らかにすることを目的に,調査を行った.<BR><BR>【対象者と方法】<BR>対象者は,同意の得られた「浮き趾」のある健常成人9名中「浮き趾」が確認できた14足で,平均年齢28.9±7.7歳(男性5名,女性4名)であった.「浮き趾」有無の評価は,厚さ15mmのアクリル板の上で対象者の両足部を肩幅として前方直視で裸足にて立位保持させ,足底面画像をスキャナー(Canon社製CanoScanD1250U2F)を用いてパソコンに取り込んだ後,足底面の状況を視覚的に観察し確認を行った.さらに,両足部を肩幅として前方直視で裸足にて立位保持させた対象者の足趾と足底接地させたアクリル板との間に,市販の付箋紙1枚を抵抗なく差し込めるか否かで,「浮き趾」有無を再確認した.「浮き趾」の経時的な床面接地状況の測定肢位は,30秒間の開眼閉足両足立位および開眼片脚立位とした.両足立位の測定姿勢は,日本めまい平衡医学会の定めた方法とした.片脚立位の測定姿勢は,東京都立大学体力標準値研究会『新・日本人の体力標準値2000』による指標に基づいた.「浮き趾」の経時的な床面接地状況を確認するため,「浮き趾」が床面に接地するとスイッチが入り,LEDが発光する装置を自作した.様子を撮影した動画を30フレーム/秒ごとに確認し,LEDが発光した全フレーム数を時間に変換し,測定結果を得た.統計処理は,ウィルコクソン符号付順位和検定を用いた.<BR><BR>【結果】<BR>「浮き趾」が30秒間の姿勢保持で接地する時間の第1,第2,第3四分位数はそれぞれ,両足立位で0.0秒,4.2秒,23.8秒,片脚立位で5.6秒,26.2秒,27.7秒であった.片脚・両足立位とも,「浮き趾」の床面接地は経時的に変化していた.片脚立位と両足立位では「浮き趾」の接地時間に有意差が認められた(p<0.01).<BR><BR>【考察】<BR>立位姿勢を保持させ,「浮き趾」の経時的な床面接地状況を調査したところ,片脚立位姿勢保持では,閉足両足立位姿勢保持に比べて「浮き趾」の接地が増大していた.このことは,姿勢保持の難易度と「浮き趾」の接地状況に関係があることを意味すると考えられる.また,閉足両足立位において「浮き趾」の経時的床面接地の中央値は4.2秒であった.「浮き趾」有無の判定は,肩幅に足部を開いた両足立位で行っている.足底が肩幅に開いた立位姿勢と閉足立位の姿勢の違いが,「浮き趾」の経時的な接地に影響を及ぼすのではないかと考えられる.
著者
恒屋 昌一 臼井 永男
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.30-37, 2006-02-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
16
被引用文献数
8

近年,いわゆる足趾が床面に接地していない「浮き趾」の問題が指摘されている。本研究では,近年の成人期における直立時の足趾接地の実態を明らかにすることを目的に,独自に作成した足趾接地に関する定性的な評価法を作成し,地域に在住する健常成人155名を対象に足趾接地の状態を調査した。その結果,開眼安楽での閉足位すなわち開眼自由閉足位では,両足のいずれかの足趾の接地が十分でないものは,男性では66.0%,女性では76.2%にみられ,男性より女性において足趾接地に問題がある傾向がみられた。とくに第5趾において,「浮き趾」は男性では右足46.0%,左足30.0%に,女性では右足38.7%,左足35.8%に確認された。また,足趾が十分接地するよう努力した開眼努力閉足位では,開眼自由閉足位に比べて浮き趾の出現率はかなり減少したが,それでも不完全な接地を呈するものは男性では22.0%,女性では35.2%いることが判明した。これらの結果から,今日の健常成人において,静的立位では足趾が完全に接地しない人が多く存在することが確認された。
著者
平沢 弥一郎 臼井 永男 Yaichiro Hirasawa Nagao Usui
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.91-113, 1988-03-30

詩篇は王冠をちりばめた宝石のように,その一つ一つが小さくて純,そして自由な光を放っている.旧約中最も愛読される.これは旧約と新約との橋渡しをし,ルーテルはこれを抱いて逃げさり,カルビンはその死床において第6篇を口ずさんだという. 詩篇が多くの入に親しまれるのは,詩であるがためである.理屈でなく,心の底から感じたまま流れ出たものである.だからまた人の心の奥深いところに入り込んでくる.詩経,古今集にもその例を見る.詩はまた飛躍する.たとえば旧約時代に人は復活を信じていなかったと言われるが,16:1Oには確かに復活を思わせる表現がなされている.また73:25,26は,自分の地上生活はだんだんみじめになるばかりで,神を信じた功徳はないが,それでも「神はわが厳なり!」と歌っている. 詩篇には,〓〓〓〓(tehillim)という表題がついている.この語は「ハッレルー・ヤーハ」(ヤハをほめたたえよ)では動詞の形で出てくる〓〓〓という語源から作られた名詞で,「讃美の歌」を意味する.詩篇全体にこの名称がつけられたのは,詩篇150篇がユダヤ教団の讃美歌集として認められた頃であっただろう.より古い時代には「祈り」〓〓〓〓(tephillah)という名称がよく見られるが,この名称はことに詩篇の中に多い歎きを訴える歌を指す場合に用いられる. 「讃美の歌」と「歎きの歌」,この二つが詩篇の中心であると言えよう. 著者らは,この二つの歌の中に「人の体」に関する用語がどのように歌われているかに着目し,その用語を日本聖書協会訳から全部拾い上げ,それらが旧約聖書の中で,どのような箇所で,またどのような意味で用いられているかを調べ,かつその一つ一つのヘブライ原語,New English Bible, Luther それに関根正雄訳に当たって比較することを試みた. さて拾い上げた用語は40種類におよび,その延べ回数は650回という膨大な数に上ることがわかった.次に示す用語は回数の多い順で( )内はその使用回数である. 手(131),目(77),口(71),足(48),顔(42),耳(37),舌(34),頭(27),唇(26),血(19),身(16),骨(16),肉(15),角(13),腕(12),歯(7),胸(6),ふところ(6),胎(6),のど(4),腰(4),毛(3),まぶた(3),鼻(3),あご(3),ひざ(3),からだ(3),首(2),指(2),ほお,ひとみ,ひげ,肩,腹,内臓,背,くびす,脂肪,髄,きば(夫々1回). 聖書は「手」の動作をもって種々の表象としている.手を上げることは神に対する祈り,また民への祝福であった.また「目」については,ヘブライ原語〓〓〓(eēnayim)は854回も使われており,この語の頻出度が高いことは人間生活において目がいかに重要な役割をもっていたかを示す.人類の堕落が「目」をとおしてはじまったものであり,そしてその目を神にむけなければならないという聖詩人の叫びは,詩篇において絶頂に達している. また,聖書が言語の器官である「口」を,「言語」の意味において用いていることは,抽象概念を具体的なものを用いて表現するヘブル人の特徴を示す好例として興味がある.沈黙は口に手を当てること(ヨブ40:4),大胆に語る自由は「口を開く」(エペ6:19)と表現された. 詩篇の中に「手」「目」「口」の頻度が高いのは,聖詩人たちは,両手を高くさしのべ,目を上に見はり,そしでのどが張り裂けんばかりに,神を讃美し,また歎きを赤裸々に訴えたのであろう.そしてその生き生きとしたかれらの祈る姿がありありと浮かんで来るようである.