著者
久道 茂
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.101, no.11, pp.1175-1182, 2004 (Released:2005-05-13)
参考文献数
21

エビデンス (科学的根拠) に基づく医療の重要性がいわれて久しい. 医学・医療は人間を対象とする科学であり実践である. 科学的根拠のない医療を人間に応用するのは倫理的とはいえない. 臨床医学に科学性を求めるとすれば, 臨床疫学の応用が必須である. 臨床疫学とは, 医学における科学的観察とその解釈のための方法論の一つであり, 臨床医学で出てきた問題に対して疫学的原理と方法を適用するものといわれている. しかし, 人間を対象とする臨床医学では, 「科学性を高めようとすると倫理性を低くすることが多く, 倫理性を高めれば科学性を損なう傾向が出てくる」. この矛盾に目を向け熟慮すべきである.
著者
阿部 力哉 近藤 誠 久道 茂
出版者
Japan Association of Breast Cancer Screening
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.145-157, 1995

近藤 誠<BR>慶應義塾大学医学部放射線科<BR>乳がん検診の意義があるというためには, 次の5つの項目をすべて充たす必要があります。すなわち, (1) 乳がんの性質が検診に適していること (性質上, 早期発見・早期治療による乳がん死亡減が合理的に予想されること), (2) 検診により乳がん死亡が減ること (いわゆる有効性), (3) 他の死因を含めた総死亡数が減少すること, (4) 検診による不利益がないこと, (5) 不利益がある場合には, 上記 (3) の程度との比較衡量, です。しかし, (1) から (5) までの点はいずれも否定されます。詳しくは, 拙書「それでもがん検診うけますか」 (ネスコ/文藝春秋), 大島明氏 (大阪がん予防検診センター) の「癌検診は果して百害あって一利なしか……近藤誠氏の著書を読んで」 (メディカル朝日95年2月号), および私の「癌検診・百害あって一理なし」 (同95年3月号) を読んでください。<BR>ここではすべての論点に触れるのは不可能ですから, (1) 乳がんの性質が検診に適しているかどうかについて考えてみますが, まず, 乳がんと病理診断される病変のなかには, 放置しても人の命を奪わない「がんもどき」と, 「本物のがん」とがあります!その場合, がんもどきは定義上, どこまでいっても致死性でない病変ですから, 早期発見が無意味なことは当然です。が, 本物のがんに対しても, 検診は理論上無意味なのです!というのも, 本物の乳がんが人の命を奪う原因のほとんどは転移ですから, 検診に意味があるがんは, 早期発見時点ではまだ転移が生じてなくて, そのまま放置すると転移が生じるもの, ということになります。ところが転移が生じる時点は, 数々の証拠からは, 早期発見できる大きさになるはるか以前, と考えられるので, それでは検診は無意味です。<BR>また, がんの本質からも, 乳がんは検診に適していないといえます。というのも, がんは遺伝子の異常をその本質とするので, 個々のがん細胞は同じ遺伝子異常をそなえており, それゆえ転移に関しても同じ性質をもっているはずだからです。発見されたがんが転移する性質をもっているなら, その性質は1個のがん細胞が発生したときから, 個々の細胞にそなわっていると考えるのが素直です。そしてがん細胞は早期発見できる大きさになるまでに, 二分裂を約30回繰り返しています (細胞数は10億個になる) から, 転移する性質のがんでは, 発見した時点までに, もう転移が成立している, と考えるほうが自然です!他方, 早期発見したがんに転移がない場合, 30回もネズミ算を繰り返すうちにも転移できなかったわけですから, それ以降も, 仮に放置しておいてももう転移しないと考えられるでしょう。このように, 乳がんは (そして他臓器のがんも), その本質からも性質からも, 検診に適している (検診で死亡数を減らせる) とは考え難いわけです。<BR>久道 茂<BR>東北大学医学部公衆衛生学<BR>がん検診は早期発見, 早期治療によって, がん死亡率を減少させることを目的としている。厚生省成人病死亡率低減目標策定検討会がまとめた目標は, 40歳から69歳の壮年層の死亡率を平成元年を基点として2000年までに, 胃がん, 子宮がんの半減, 肺がん, 乳がん, 大腸がんの上昇を下降に転じさせるとした。<BR>がん検診にはそれを行う条件がある!死亡率, 罹患率の高いこと, 集団的に実施可能な検診方法であること, 精度の高いスクリーニング法であること, 早期発見による治療効果が期待できること, 費用効果・便益のバランスがとれていること, 死亡率の減少効果があること, 一次スクリーニングだけでなく, 精度検査も含めて一連の検診体系で安全であること, などである。<BR>がん検診に関する研究の方法には手順がある。検診を実施する前に行うスクリーニングテストの精度, 実施可能性, 安全性, 信頼性, 有効性および費用の検討である!その方法として, ケースコントロール研究, 長期のコホート研究, 時系列研究などがある。重要なのは, 実施前から研究計画の手順を踏んでたてておくことである!<BR>がん集検には得失の両面がある。「百害あって一利なし」というキツイ言葉もあるが, がん検診の最大の得 (gain) は早期発見による救命効果である!一方, 失 (loss) は見逃しや偶発症などがある。これらの得失に関してきちんと評価しなければならない。<BR>評価の方法には事前評価, 平行評価および振り返り評価があるが, 別な視点から, 検診を受けたグループが当該がんの死亡数と率が確かに減少したのかを評価する疫学的評価がある。次に, スクリーニングの精度検討や安全性などの検討を行う技術的評価がある。それから経済的評価, システム評価などがある。国際的にはUICC (国際対癌連合) ががんのスクリーニングの評価に関する定期的な会議を行っている!第6回会議 (1990年) では, 世界各地で行われているがん検診を再評価して1冊の本にまとめている。
著者
辻 一郎 ソバジェ カトリーヌ 久道 茂
出版者
日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.341-343, 2001-05-25
被引用文献数
3