著者
濱島 ちさと
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.212-218, 2016 (Released:2018-06-27)
参考文献数
13

「過剰診断」はマンモグラフィ検診の評価に絡み,乳がん検診では重要な検討課題となっているが,すべてのがん検診に生じる不利益である。「過剰診断」とは,がん検診を行うことで,本来は生命予後には影響しないがんを発見することを意味する。がん検診を受診することがなければ,こうしたがんは発見されない。過剰診断により,不必要な精密検査や治療の増加を招く可能性がある。無症状者を対象とするがん検診では,「過剰診断」の可能性が高く不利益が大きいが,「過剰診断」はすべての医療サービスが共通に抱える問題である。「過剰診断」は検診方法ばかりではなく,対象集団の人種やリスク要因も影響する。また,検査の感度,検診の開始・終了年齢,検診間隔も影響要因となる。 過剰診断の推計にはいくつかの方法があるが,現段階では標準化された方法は定まっていない。地域相関研究,時系列研究,コホート研究などの観察研究や無作為化比較対照試験のデータを用いることができる。この他,モデル評価が行われている。 頻回に検診を行うことで過剰診断が増加し,過剰治療を誘発する。がん検診による過剰診断を可能な限り減少させるためには,検診回数を最小限とすることが望ましい。
著者
田島 知郎 石井 明子 石津 和洋 葉梨 智子 近藤 泰理
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.105-112, 2007-03-30 (Released:2008-07-25)
参考文献数
25

ロシアと中国での大規模臨床試験で, 乳房自己検査 (BSE) が無効と結論されたとの理解が広がり, わが国でも戸惑いが続いている。乳癌死リスク低下効果が検証できなかったとされる両研究であるが, BSE発見乳癌はコントロール群よりも早期の傾向で, また指摘すべき問題点が他にもある。まずBSE発見乳癌のサイズであるが, ロシアの研究ではT1以下がわずかであったのに対し, 中国の研究では48.8%で, この両方を一括解釈して, わが国に持ち込むことには疑問がある。また中国の研究では, BSE群とコントロール群との間に背景因子の違い, あるいは試験介入による健康状態への影響による総死亡数の差が約10%もあり, 両群比較の妥当性が問われる。さらに両研究の著者はマンモグラフィの優位性, BSE推奨だけで済まない医療側の責任, BSE普及と精検の費用などの問題も提起しており, 結果的にもBSE自体というよりも乳癌検診のあり方やBSE教示法の方が研究の主な目的であったとも言えよう。これまでの多数の非無作為試験の結果からも, BSE発見乳癌は早期の傾向で, 確実な技法の実践による予後改善が期待される。わが国には視触診, マンモグラフィ, 超音波を検診対象の全女性に, 質を保証して提供できるだけの設備, 専門医, 専門技師がまだ不足している一方で, BSEのメリットを最大限に生かせる素地があり, 乳癌啓発の入り口であり, 他の検査を補完する役割も果たすBSEを手放せない。
著者
富永 愛
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.90-94, 2013-03-25 (Released:2015-05-01)
参考文献数
5

医療訴訟は年間700件以上になり,医療に関わる私たちは日本全国どこでも訴訟のリスクを無視できなくなっている。乳癌の臨床も例外ではない。視触診,マンモグラフィ,乳腺エコーを行っていたにもかかわらず見つけられなかった際には,「癌を見落とした」といわれる可能性がつきまとう。 しかし,一方で乳がん検診の受診率が向上するほど,適切に診断を行える医師数は不足し,乳癌を専門としない医師による読影や視触診は増加せざるを得ない。この矛盾のなかで,訴訟リスクを回避するために私たちはどうすればよいか。ここでは特に,これから検診に関わる乳腺エコーに焦点を当て,エコー所見が決め手になって,医療機関側の責任(精査義務違反)が認められた二つの判決を分析し,今後の乳がん検診と見落としのリスクについて問題提起を行いたい。また,今後,専門医制度の充実にともなって生じうる,学会の精度管理責任についても乳癌検診学会の役割と法的責任の観点から提言を行う。
著者
森本 忠興 笠原 善郎 角田 博子 丹黒 章
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.337-346, 2014-10-20 (Released:2016-10-20)
参考文献数
19
被引用文献数
2 5

2009年の米国予防医学専門委員会(USPSTF)の勧告では,乳癌検診の評価は,利益(死亡率減少効果)のみでなく,不利益(偽陽性,偽陰性,過剰診断,被曝,精神的影響等)も考慮する必要があり,検診の利益と不利益のバランスを考慮すべきであるとされている。欧米の乳癌検診における無作為比較試験(RCT)の結果から,死亡率減少効果は40~69歳の年齢層で15~32%ある。不利益のうち,過剰診断以外の偽陽性,偽陰性,要精検率等を如何に抑えるか,つまり検診の精度管理が重要である。一方,癌検診の不利益のうちの過剰診断が欧米で話題になっているが,過剰診断とは,その人の寿命に影響を及ぼさない癌を発見・診断することである。各種の癌検診における過剰診断は,神経芽細胞腫,前立腺癌,胸部CT で発見される肺癌,甲状腺癌などが知られている。多くの欧米データから,検診発見乳癌の10~30%程度に過剰診断があるとされる。早期乳癌なかでも非浸潤癌等の一部の病変は,過剰診断に繋がる可能性が大きく,また高齢者ではより過剰診断の可能性を考慮すべきである。本邦のマンモグラフィ検診は,欧米の受診率70~80%に比較して20~30%と低い。日本においては,不利益を理解した上で,死亡率減少効果という利益を求めて,精度管理のなされたマンモグラフィ検診受診率の向上(50%以上)に努めるべきである。とくに対策型検診では,死亡率減少効果のエビデンスに基づいたガイドラインに沿った検診を施行すべきである。さらに,過剰診断となり得る乳癌の臨床病理学的研究,日本における過剰診断のデータ蓄積が求められる。過剰診断に対しては,過剰な精密検査・過剰治療の回避のために,経過観察群watchful waiting の設定による対処も考えられる。また,受診者との不利益に関わる共同意思決定も必要であり,過剰診断と思われる乳癌の治療は,受診者とのinformed decisionの上で行うべきである。
著者
森本 忠興
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.211-231, 2009-10-30 (Released:2010-07-15)
参考文献数
41
被引用文献数
10 10

欧米では,乳癌死亡率の低下が見られる。この要因は,マンモグラフィ検診の普及により早期乳癌が増加したことやEBMに基づいた標準的全身療法の確立があげられている。一方,本邦では,女性乳癌死亡・罹患率ともに増加している。本稿では,本邦の乳癌検診の過去の経緯と現状,精度管理システムを紹介し,欧米のマンモグラフィ検診についても述べた。さらに本邦乳癌検診の問題点を指摘し,今後の具体的な施策,すなわち受診率向上(50%目標),対象者の適正年齢枠,自治体・住民への啓発運動,財政的支援,各種検診の精度管理を含めた法的整備の必要性,40歳代のデンスブレストへの対策等について述べた。
著者
阿部 力哉 近藤 誠 久道 茂
出版者
Japan Association of Breast Cancer Screening
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.145-157, 1995

近藤 誠<BR>慶應義塾大学医学部放射線科<BR>乳がん検診の意義があるというためには, 次の5つの項目をすべて充たす必要があります。すなわち, (1) 乳がんの性質が検診に適していること (性質上, 早期発見・早期治療による乳がん死亡減が合理的に予想されること), (2) 検診により乳がん死亡が減ること (いわゆる有効性), (3) 他の死因を含めた総死亡数が減少すること, (4) 検診による不利益がないこと, (5) 不利益がある場合には, 上記 (3) の程度との比較衡量, です。しかし, (1) から (5) までの点はいずれも否定されます。詳しくは, 拙書「それでもがん検診うけますか」 (ネスコ/文藝春秋), 大島明氏 (大阪がん予防検診センター) の「癌検診は果して百害あって一利なしか……近藤誠氏の著書を読んで」 (メディカル朝日95年2月号), および私の「癌検診・百害あって一理なし」 (同95年3月号) を読んでください。<BR>ここではすべての論点に触れるのは不可能ですから, (1) 乳がんの性質が検診に適しているかどうかについて考えてみますが, まず, 乳がんと病理診断される病変のなかには, 放置しても人の命を奪わない「がんもどき」と, 「本物のがん」とがあります!その場合, がんもどきは定義上, どこまでいっても致死性でない病変ですから, 早期発見が無意味なことは当然です。が, 本物のがんに対しても, 検診は理論上無意味なのです!というのも, 本物の乳がんが人の命を奪う原因のほとんどは転移ですから, 検診に意味があるがんは, 早期発見時点ではまだ転移が生じてなくて, そのまま放置すると転移が生じるもの, ということになります。ところが転移が生じる時点は, 数々の証拠からは, 早期発見できる大きさになるはるか以前, と考えられるので, それでは検診は無意味です。<BR>また, がんの本質からも, 乳がんは検診に適していないといえます。というのも, がんは遺伝子の異常をその本質とするので, 個々のがん細胞は同じ遺伝子異常をそなえており, それゆえ転移に関しても同じ性質をもっているはずだからです。発見されたがんが転移する性質をもっているなら, その性質は1個のがん細胞が発生したときから, 個々の細胞にそなわっていると考えるのが素直です。そしてがん細胞は早期発見できる大きさになるまでに, 二分裂を約30回繰り返しています (細胞数は10億個になる) から, 転移する性質のがんでは, 発見した時点までに, もう転移が成立している, と考えるほうが自然です!他方, 早期発見したがんに転移がない場合, 30回もネズミ算を繰り返すうちにも転移できなかったわけですから, それ以降も, 仮に放置しておいてももう転移しないと考えられるでしょう。このように, 乳がんは (そして他臓器のがんも), その本質からも性質からも, 検診に適している (検診で死亡数を減らせる) とは考え難いわけです。<BR>久道 茂<BR>東北大学医学部公衆衛生学<BR>がん検診は早期発見, 早期治療によって, がん死亡率を減少させることを目的としている。厚生省成人病死亡率低減目標策定検討会がまとめた目標は, 40歳から69歳の壮年層の死亡率を平成元年を基点として2000年までに, 胃がん, 子宮がんの半減, 肺がん, 乳がん, 大腸がんの上昇を下降に転じさせるとした。<BR>がん検診にはそれを行う条件がある!死亡率, 罹患率の高いこと, 集団的に実施可能な検診方法であること, 精度の高いスクリーニング法であること, 早期発見による治療効果が期待できること, 費用効果・便益のバランスがとれていること, 死亡率の減少効果があること, 一次スクリーニングだけでなく, 精度検査も含めて一連の検診体系で安全であること, などである。<BR>がん検診に関する研究の方法には手順がある。検診を実施する前に行うスクリーニングテストの精度, 実施可能性, 安全性, 信頼性, 有効性および費用の検討である!その方法として, ケースコントロール研究, 長期のコホート研究, 時系列研究などがある。重要なのは, 実施前から研究計画の手順を踏んでたてておくことである!<BR>がん集検には得失の両面がある。「百害あって一利なし」というキツイ言葉もあるが, がん検診の最大の得 (gain) は早期発見による救命効果である!一方, 失 (loss) は見逃しや偶発症などがある。これらの得失に関してきちんと評価しなければならない。<BR>評価の方法には事前評価, 平行評価および振り返り評価があるが, 別な視点から, 検診を受けたグループが当該がんの死亡数と率が確かに減少したのかを評価する疫学的評価がある。次に, スクリーニングの精度検討や安全性などの検討を行う技術的評価がある。それから経済的評価, システム評価などがある。国際的にはUICC (国際対癌連合) ががんのスクリーニングの評価に関する定期的な会議を行っている!第6回会議 (1990年) では, 世界各地で行われているがん検診を再評価して1冊の本にまとめている。
著者
津金 昌一郎
出版者
日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 = Journal of Japan Association of Breast Cancer Screening (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.4-15, 2010-03-30
参考文献数
17
被引用文献数
1

米国では乳がん死亡の減少が見られ,乳がん検診の重要性が示唆されているが,最近の統計データでは,罹患率の減少も観察されている。これは,乳がんリスクとなるホルモン補充療法の利用減少の影響と考えられている。日本では乳がん罹患,死亡ともに増加している。欧米との違いは,閉経後の乳がんが比較的少ないことだが,米国に移住した日本人の間では閉経後も増加が見られる。初潮・閉経・出産など女性の生殖要因が大きいが,疫学データからは生活習慣との関わりも考えられる。<br>国際的な評価では,閉経前後にかかわらず飲酒は乳がんのリスク要因であり,授乳は予防要因である。肥満に関しては,閉経後の確実な乳がんのリスクだが逆に閉経前の乳がんをほぼ確実に予防する。また,運動が閉経後の乳がんの予防をするのはほぼ確実であるが,閉経前に関しては可能性を示唆するにとどまる。<br>肥満の乳がんへの影響は,極端な肥満の少ない日本人では小さいと考えられる。飲酒については,ほとんど毎日飲む女性の割合は少ないものの,やはりリスクであるということが示されつつある。身体活動の乳がん予防効果を示す日本人の研究はほとんどないが,全般的な健康には良いと言えよう。イソフラボン摂取については,大豆製品をよくとる日本人では,特に閉経後の乳がんを予防してきた可能性が示される。また,受動喫煙と乳がんとの関連を示す研究があるが,特に閉経前では,受動喫煙だけでなく喫煙もやはりリスクである可能性がある。
著者
植松 孝悦 笠原 善郎 鈴木 昭彦 高橋 宏和 角田 博子
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.27-33, 2020 (Released:2020-04-06)
参考文献数
26
被引用文献数
1

自覚症状のある乳癌の早期診断は,その乳癌患者の予後と生存率を改善させる。そのためには,乳癌の初期症状を早く自覚して速やかに医師を受診するという乳房の健康教育の普及が重要であり,この正しい保健医療行動が確実に進行乳癌の減少をもたらす。ブレスト・アウェアネスは,乳房を意識した生活習慣を通して,乳房に変化を感じたら(乳癌の初期症状を早く自覚する)速やかに医師を受診するという正しい保健医療行動をとるための健康教育であり,乳がん検診の理解とその受診勧奨を目的とした啓発活動である。ブレスト・アウェアネスを実践することで,マンモグラフィ偽陰性の場合でも,早期に乳癌を発見し速やかに診断と治療が可能となる。つまり,ブレスト・アウェアネスの普及が,対策型乳がん検診の高濃度乳房問題に対する具体的な対応策の一つである。さらにブレスト・アウェアネスの推奨は,若年性乳癌の早期発見のための具体的な方策にもなる。ブレスト・アウェアネスは乳がん教育を実践するための具体的なキーワードであり,これから教育現場で行われるがん教育でも積極的に取り入れられるべき内容と思われる。ブレスト・アウェアネスの普及に器機の整備や購入の必要性はない。よって,その体制を整えることは比較的容易であり,速やかに全国一律で実施することが可能である。ブレスト・アウェアネスは,効率的かつ効果的な乳癌対策であり,乳がん検診と並ぶもう一つの乳癌医療政策の柱として,わが国も積極的に導入すべきである。
著者
富永 祐民
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.7-12, 1996-04-10 (Released:2011-03-02)
参考文献数
15
被引用文献数
2 1
著者
森本 忠興
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.41-46, 2012-03-20 (Released:2014-10-30)
参考文献数
5

本邦では,マンモグラフィ検診受診率は二十数%と低く,乳癌死亡は増加している。一方,欧米では,早くからマンモグラフィ検診が導入され,受診率70~80%に及び,1980年代後半以降から乳癌死亡率の低下がみられている。本邦と欧米のマンモグラフィ検診受診率の差は,本邦の乳癌検診の進め方にあったと考えられる。本稿では,本邦の乳癌検診の歴史のなかで,1991年2月に日本乳癌検診学会が設立された経緯,発展状況,今後の課題等について述べた。今後,本邦では,受診率向上,マンモグラフィのアナログからデジタル化移行,ソフトコピー診断(モニター診断),40歳代のデンスブレストに対する超音波検診,MRI 画像診断の進歩等,多くの課題がある。本学会が2010年に任意団体からNPO 法人格を得たことを契機に,本学会のさらなる発展を期待したい。
著者
佐久間 浩
出版者
日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.74-78, 2007-03-30 (Released:2008-07-25)
参考文献数
4
被引用文献数
4 3

わが国の乳癌罹患者数を40,000人, その10%が非浸潤癌であると仮定すると, 浸潤癌は36,000人となる。これらがすべて腫瘤径2cm以下で見つかり適切な治療がされれば, その10年生存率は90%であるから乳癌死は3,600人に止まるはずである。しかし現在乳癌死は10,000人を超えている。この差を埋めるために, どのような点に注意して超音波検診を行うべきかを考察する。まず, 浸潤癌はほぼ全例が腫瘤を形成する。そして超音波は腫瘤の描出を得意とする。熟練者であれば径0.5cmの腫瘤が描出可能である。さらに径1cmの腫瘤となれば0.5cmの腫瘤の4倍の面積の像として描出される。したがって検診の現場においても, 発見すべき腫瘤径は2cmではなく1cmに目標設定をしてもその達成は十分に期待できる。また, 超音波では浸潤癌のみならず非浸潤癌の発見も期待できる。非浸潤性乳管癌の約35%は腫瘤 (嚢胞内腫瘍, 充実性腫瘤) を形成するので超音波による発見は可能である。それ以外では扁平低エコー像を呈するものが約40%と最も頻度が高い。よってこのパターンを見つける目を養うことが, 非浸潤性乳管癌の発見能を飛躍的に向上させるカギとなる。直径1cmの腫瘤像と扁平低エコー像の発見に努めれば, 超音波検診で乳癌死を減らすことは可能である。
著者
中込 博 古屋 一茂 大森 征人 井上 慎吾 飯野 善一郎 依田 芳起 小林 正史 飯塚 恒
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.185-190, 2012-06-20 (Released:2014-12-05)
参考文献数
15
被引用文献数
3 4

過去の受診歴より継時的に腫瘤径の比較測定が可能であった30例(腫瘤21例,石灰化病変9例)の患者を対象に,腫瘍倍加時間(DT; doubling time)を算出した。検診の検出限界を5mmと考えたとき,腫瘍径5mmの病変が発見できず2年後の検診では2cmになる乳癌の腫瘍倍加時間は120日と計算される。120日より早いDTを持つ乳癌は2年毎の検診では転移を生じる病変になる可能性が高いと考え,その特性を組織型およびホルモンレセプター(HR),Her2発現によるsubtype別に検討した。120日以下のDTを示す病変は腫瘤性病変43%(9/21),石灰化病変44%(4/9)に認められた。Subtype別には,HR陰性Her2陰性の乳癌3例においてDT 60日前後と非常に速い増殖速度を示した。化生を伴う乳癌が2例含まれていた。HR陰性Her2陽性およびHR陽性Her2陽性の乳癌で,DTは112±10日,128±48日と早いことが認められた。HR陽性Her2陰性の乳癌19例において,DT 867±679日とばらつきが認められた。120日以下の症例は5例(26%)に認められ,粘液癌が3例,通常型乳癌が2例が含まれていた。HR陽性Her2陰性の乳癌において,検診の間隔は2年が妥当であるが,HR陰性Her2陰性およびHer2陽性の乳癌においては,さらに短期間での検診が必要と思われた。
著者
白岩 美咲 遠藤 登喜子
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.122-127, 2016 (Released:2018-06-27)
参考文献数
11

マンモグラフィ(MG)は,乳がん検診において死亡率減少効果がある有用なmodality であるが,40歳代については,乳がん発見の感度が50歳以上の年代と比較すると低いこと,偽陽性率が高いことも知られている。この一因に,40歳代の乳腺濃度が高いことがあり,対策として超音波検診の導入とともにデジタルMG(DMG)の活用が考えられる。DMG は,米国のtrial で,50歳以下の女性,不均一高濃度・高濃度乳房で精度が高いことが報告されている。日本でも近年,MG のデジタル化とモニタ診断が急速に進んでおり,2015年の日本乳がん検診精度管理中央機構MG 指導者研修会のアンケートでは,DMG が95%,モニタ診断経験が79%であった。一方,モニタ診断経験者の画素サイズ認識率は75%であり,また全国のMG 読影認定医のDMG ソフトコピー診断講習会受講率は13%であった。米国では,DMG 読影医にはDMG の講習受講が必須とされているが,日本ではその規定はない。読影医個人の検診精度管理指標もなく,読影医がDMG の特徴を理解して,その利点を引き出す読影ができているか,知るすべはない。40歳代のMG 検診に対する日米の動向の紹介とともにDMG・モニタ診断を活用した精度の高いMG 読影のために,いま何が必要なのか,具体的な読影の方法やDMG の新技術であるDigital breast tomosynthesis の話題を含めて,検討したいと思う。
著者
津金 昌一郎
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.4-15, 2010-03-30 (Released:2011-04-15)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

米国では乳がん死亡の減少が見られ,乳がん検診の重要性が示唆されているが,最近の統計データでは,罹患率の減少も観察されている。これは,乳がんリスクとなるホルモン補充療法の利用減少の影響と考えられている。日本では乳がん罹患,死亡ともに増加している。欧米との違いは,閉経後の乳がんが比較的少ないことだが,米国に移住した日本人の間では閉経後も増加が見られる。初潮・閉経・出産など女性の生殖要因が大きいが,疫学データからは生活習慣との関わりも考えられる。国際的な評価では,閉経前後にかかわらず飲酒は乳がんのリスク要因であり,授乳は予防要因である。肥満に関しては,閉経後の確実な乳がんのリスクだが逆に閉経前の乳がんをほぼ確実に予防する。また,運動が閉経後の乳がんの予防をするのはほぼ確実であるが,閉経前に関しては可能性を示唆するにとどまる。肥満の乳がんへの影響は,極端な肥満の少ない日本人では小さいと考えられる。飲酒については,ほとんど毎日飲む女性の割合は少ないものの,やはりリスクであるということが示されつつある。身体活動の乳がん予防効果を示す日本人の研究はほとんどないが,全般的な健康には良いと言えよう。イソフラボン摂取については,大豆製品をよくとる日本人では,特に閉経後の乳がんを予防してきた可能性が示される。また,受動喫煙と乳がんとの関連を示す研究があるが,特に閉経前では,受動喫煙だけでなく喫煙もやはりリスクである可能性がある。
著者
森谷 卓也
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.95-97, 2019 (Released:2019-10-01)
参考文献数
3

2018年5月に『乳癌取扱い規約(第18版)』が発刊された。今回の改訂では国内外の分類との整合性を図ることに重きが置かれ,WHO 分類(第4版,2012年)を強く意識し両者の読み替えが可能となるよう対応表が作成された。また,切除検体の病理学的記載事項チェックリストや索引を設け,使いやすさを重視した。病理組織学的分類では,上皮性腫瘍の良性腫瘍と悪性腫瘍の間に異型上皮内病変の説明が加わった。悪性腫瘍では微小浸潤癌が追加された。浸潤性乳管癌は腺管形成型・充実型・硬性型・その他の4型に分けるが,単なる用語の置き換えではなく,コンセプト自体が変化した。また,乳管内成分優位の浸潤性乳管癌も記載することを求めた。特殊型は,化生癌などで組み換えがなされ,篩状癌など新たな組織型が加わるとともに,混合型のカテゴリーも設けた。病理編第2部では,推奨固定法,センチネルリンパ節転移の表記法,断端評価法,病理学的グレード分類の記載について解説や変更がなされた。ホルモン受容体のAllred score,HER2に対するISH 法も新たに記載された。組織学的治療効果の判定基準については図譜が強化され,評価法の説明も詳しくなった。今後は新規約に準じた症例蓄積による分類法の検証や,次の改訂に向けた課題抽出が必要である。さらに,日本独自の概念・分類法については,本邦からの国際発信がなされることが望まれる。
著者
小石 彩 岩瀬 拓士 堀井 理絵 秋山 太
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.342-345, 2015 (Released:2018-06-15)
参考文献数
26

乳癌検診で発見される病変のうち,悪性の可能性が否定できない病変に対しては穿刺による組織生検がしばしば行われる。しかし,その病理結果においても良悪性の鑑別が困難な症例をときに経験する。そのような場合に,臨床医がどのように対応すべきか明らかにすることを目的として,当院における検診後の鑑別困難症例を抽出し,病理学的所見で分類,その転帰を調べた。 2006年1年間に当院病理で針生検の診断を行った952件のうち,良悪性の鑑別が困難と診断された病変の数は30病変,そのうち検診で発見されたものは23病変であった。検体が少ない,あるいは変性しているため,確定診断が困難であったもの2例と良性病変内にDCIS が入り込んでいた1例を除外した20例(2.1%)が境界病変に相当した。その20例を病理学的に分類し,その転帰をカルテ上で調査した。境界病変のうちFEA(flat epithelial atypia)に相当する平坦型病変8例からは2例,ADH(atypical ductal hyperplasia)に相当する過形成型病変7例からは4例が後に癌と診断された。いずれもDCISか微小浸潤癌だった。境界病変からのちに癌の診断にいたる症例は確かに存在するが,慎重な経過観察をして,マンモグラフィや超音波検査で変化が出現したときに再生検すれば,早期癌の状態で診断できると思われた。
出版者
特定非営利活動法人 日本乳癌検診学会
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.245-247, 2016 (Released:2018-06-27)

本シンポジウムでの『過剰診断』の定義は「生命予後に関わらない癌を検出して治療すること」であるが,病理診断領域での『過剰診断overdignosis』とは「良性病変を悪性と診断すること」であり,誤診を意味する。用法の違いにより混乱を生ずるのではと危惧する。『過剰診断』に相当する乳癌は? ですぐに思い浮かぶのは平坦型・低乳頭型の低核異型で,ER(+)PgR(+)HER2(0)のDCIS である。間質に浸潤しても管状癌様の低悪性度の浸潤癌となり,なかなか生命予後に影響を及ぼさないものと推察される。ここで考慮が必要なのは,宿主の年齢・状態,針生検での診断である。高核異型トリプルネガティブ面疱型DCIS でも条件によっては『過剰診断』乳癌となり得る。針生検標本の組織像が病変全体像(間質浸潤の有無,病変の広がり,組織像の多様性)をどれくらい反映しているかが問題である。『過剰診断』防止法は,1)検診を行わないグループの設定,2)検出基準の引き上げ,3)生検適応基準の引き上げ,4)癌の診断基準の引き上げ,5)癌の治療適応基準の引き上げ,であろう。4)が病理学的因子であるが,前立腺癌のように浸潤癌のみを癌と診断することの是非についても考察したい。