著者
阿部 力哉 近藤 誠 久道 茂
出版者
Japan Association of Breast Cancer Screening
雑誌
日本乳癌検診学会誌 (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.145-157, 1995

近藤 誠<BR>慶應義塾大学医学部放射線科<BR>乳がん検診の意義があるというためには, 次の5つの項目をすべて充たす必要があります。すなわち, (1) 乳がんの性質が検診に適していること (性質上, 早期発見・早期治療による乳がん死亡減が合理的に予想されること), (2) 検診により乳がん死亡が減ること (いわゆる有効性), (3) 他の死因を含めた総死亡数が減少すること, (4) 検診による不利益がないこと, (5) 不利益がある場合には, 上記 (3) の程度との比較衡量, です。しかし, (1) から (5) までの点はいずれも否定されます。詳しくは, 拙書「それでもがん検診うけますか」 (ネスコ/文藝春秋), 大島明氏 (大阪がん予防検診センター) の「癌検診は果して百害あって一利なしか……近藤誠氏の著書を読んで」 (メディカル朝日95年2月号), および私の「癌検診・百害あって一理なし」 (同95年3月号) を読んでください。<BR>ここではすべての論点に触れるのは不可能ですから, (1) 乳がんの性質が検診に適しているかどうかについて考えてみますが, まず, 乳がんと病理診断される病変のなかには, 放置しても人の命を奪わない「がんもどき」と, 「本物のがん」とがあります!その場合, がんもどきは定義上, どこまでいっても致死性でない病変ですから, 早期発見が無意味なことは当然です。が, 本物のがんに対しても, 検診は理論上無意味なのです!というのも, 本物の乳がんが人の命を奪う原因のほとんどは転移ですから, 検診に意味があるがんは, 早期発見時点ではまだ転移が生じてなくて, そのまま放置すると転移が生じるもの, ということになります。ところが転移が生じる時点は, 数々の証拠からは, 早期発見できる大きさになるはるか以前, と考えられるので, それでは検診は無意味です。<BR>また, がんの本質からも, 乳がんは検診に適していないといえます。というのも, がんは遺伝子の異常をその本質とするので, 個々のがん細胞は同じ遺伝子異常をそなえており, それゆえ転移に関しても同じ性質をもっているはずだからです。発見されたがんが転移する性質をもっているなら, その性質は1個のがん細胞が発生したときから, 個々の細胞にそなわっていると考えるのが素直です。そしてがん細胞は早期発見できる大きさになるまでに, 二分裂を約30回繰り返しています (細胞数は10億個になる) から, 転移する性質のがんでは, 発見した時点までに, もう転移が成立している, と考えるほうが自然です!他方, 早期発見したがんに転移がない場合, 30回もネズミ算を繰り返すうちにも転移できなかったわけですから, それ以降も, 仮に放置しておいてももう転移しないと考えられるでしょう。このように, 乳がんは (そして他臓器のがんも), その本質からも性質からも, 検診に適している (検診で死亡数を減らせる) とは考え難いわけです。<BR>久道 茂<BR>東北大学医学部公衆衛生学<BR>がん検診は早期発見, 早期治療によって, がん死亡率を減少させることを目的としている。厚生省成人病死亡率低減目標策定検討会がまとめた目標は, 40歳から69歳の壮年層の死亡率を平成元年を基点として2000年までに, 胃がん, 子宮がんの半減, 肺がん, 乳がん, 大腸がんの上昇を下降に転じさせるとした。<BR>がん検診にはそれを行う条件がある!死亡率, 罹患率の高いこと, 集団的に実施可能な検診方法であること, 精度の高いスクリーニング法であること, 早期発見による治療効果が期待できること, 費用効果・便益のバランスがとれていること, 死亡率の減少効果があること, 一次スクリーニングだけでなく, 精度検査も含めて一連の検診体系で安全であること, などである。<BR>がん検診に関する研究の方法には手順がある。検診を実施する前に行うスクリーニングテストの精度, 実施可能性, 安全性, 信頼性, 有効性および費用の検討である!その方法として, ケースコントロール研究, 長期のコホート研究, 時系列研究などがある。重要なのは, 実施前から研究計画の手順を踏んでたてておくことである!<BR>がん集検には得失の両面がある。「百害あって一利なし」というキツイ言葉もあるが, がん検診の最大の得 (gain) は早期発見による救命効果である!一方, 失 (loss) は見逃しや偶発症などがある。これらの得失に関してきちんと評価しなければならない。<BR>評価の方法には事前評価, 平行評価および振り返り評価があるが, 別な視点から, 検診を受けたグループが当該がんの死亡数と率が確かに減少したのかを評価する疫学的評価がある。次に, スクリーニングの精度検討や安全性などの検討を行う技術的評価がある。それから経済的評価, システム評価などがある。国際的にはUICC (国際対癌連合) ががんのスクリーニングの評価に関する定期的な会議を行っている!第6回会議 (1990年) では, 世界各地で行われているがん検診を再評価して1冊の本にまとめている。
著者
吉田 雅行 荻野 和功 小倉 廣之
出版者
Japan Association of Breast Cancer Screening
雑誌
日本乳癌検診学会誌 = Journal of Japan Association of Breast Cancer Screening (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.223-229, 2013-07-20
参考文献数
2

浜松医師会は平成16年度にマンモグラフィ検診導入,精度管理の一環で毎年報告しているが,その成績と課題から,乳がん検診の医師会(地域医療)の役割を考察した。【対象と方法】従来の医師会型で初年度50歳以上・偶数年齢・視触診+MLO,2年目以降40歳代・二方向撮影を追加した。二次読影はマンモグラフィ講習会B以上2名(1名はA)の合議制とし,無料クーポン券は平成21年より開始した。結果より課題を明らかにし,医師会員のアンケート調査から医師会(地域医療)の役割を検討した。【結果と考察】受診者数は初年度3,145人,2年目6,525人,21年度は無料クーポン券で倍増した。受診率も平成20年度16.8%から無料クーポン券で30%へ上昇し,23年度37.9%だが50%には遠い。『検診に二人誘って50%(ぱー)』ポスターで受診者教育を展開している。要精検率は初年度10.1%と高いが,徐々に低下し5~6%前後を維持している。乳がん発見率は初年度0.45%,その後0.20~0.29%と概ね良好である。しかし,精検未受診率未把握率は平成21年度以降30%以上で,精度管理上問題である。医師会,行政,検診実施者間の協議会が必要である。さらなる受診率向上には,病診連携と患者の健康管理を担う"かかりつけ医"に,受診勧奨と患者家族の啓発が期待される。【結語】旧浜松市の乳がん検診の課題は高い精検未把握率と低い受診率であり,精度管理の協議会開催と医師会員の"かかりつけ医"としての受診勧奨に期待される。
著者
塚本 徳子 角田 博子 菊池 真理 負門 克典 佐藤 博子 川上 美奈子 福澤 晶子 岡部 薫 向井 理枝 源新 めぐみ 平松 園枝 斎田 幸久
出版者
Japan Association of Breast Cancer Screening
雑誌
日本乳癌検診学会誌 = Journal of Japan Association of Breast Cancer Screening (ISSN:09180729)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.239-246, 2007-10-30
参考文献数
9
被引用文献数
3 2

わが国で現在乳癌検診の中心はマンモグラフィで行われているが, 高濃度乳房である閉経前女性に対して超音波検診が注目されている。超音波検診の成績は過去多くの報告があるが, 日本乳腺甲状腺診断会議 (JABTS) によりまとめられた超音波検診の要精査基準に従って精度管理され行われたシステムでの報告はまだない。われわれは技師が検査を行い, 医師がこの要精査基準に従って判定した3年間の検診成績をまとめ, この体制での乳房超音波検診の有用性について検討した。<br>乳房超音波検査延べ受診者は17,089名であり, 約90%が50歳未満であった。判定は, カテゴリー1が8,289名 (48.5%), カテゴリー2が8,183名 (47.9%), カテゴリー3以上の精査対象者が616名 (3.6%) となった。このうち73.4%にあたる452名の追跡が可能であり, 48名 (0.28%) が乳癌と診断された。手術症例46例の中で早期乳癌は37例 (80.5%) あり, そのうちマンモグラフィでは検出できなかったものは16例と43%を占めていた。<br>乳房超音波検診の診断に際し, 乳房超音波診断ガイドラインを診断基準に用いることで, 有所見率の高いと言われている超音波検査でも精査率を上げ過ぎることなく早期乳癌の検出に寄与することができた。