著者
亀田 幸成
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

分子超励起状態、特に多電子励起状態は、Born-Oppenheimer近似と一電子平均場近似の2つが同時に成り立ちにくくなるという点で、非常に興味深いが、これまで実験によりこの電子状態からの反応を調べた例はほとんどない。本研究課題の可視・紫外蛍光放出断面積測定は、イオン化反応によって埋もれて見えなりやすい超励起状態経由の反応を捉える上で有利な方法である。本年度は、メタン分子について、これまでの測定法をさらに改良することにより、解離断片からの蛍光の放出断面積を相対値で無く絶対値として得ることを可能とした。これにより、超励起状態の電子状態による解離過程の違いについて、定量的に議論することが可能になった。すなわち超励起状態からの中性解離において、低励起エネルギー側に現れた1電子励起状態に比べて、より高い励起エネルギーで見られた2電子励起状態からの解離過程が、多電子励起状態の生成断面積から考えていた以上の寄与を示すことを、Balmer-β蛍光の放出断面積スペクトルのエネルギー依存性から示した。この成果は、J.Phys.B誌に投稿した。このような多電子励起状態の寄与が他の分子においても見られるか興味深い。本年度はさらに、メタンと同じ10電子系列分子としてアンモニアおよび水について、超励起状態経由の中性解離過程を、蛍光断面積測定法により測定した。それぞれの分子の個性を反映して、メタンと全く同じ傾向ではないが、いずれの分子でも多電子励起の寄与が見出された。アンモニアでは、励起エネルギー20-40eVにおいて測定したBalmer-β蛍光の放出断面積スペクトル中に、2つの2電子励起状態由来のピークを観測した。これらの結果は、国内および国際学会において発表された。