著者
五神 真
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は、インクジェット印刷技術を用いて作製した多層人工構造によってテラヘルツ電磁波領域における三次元メタマテリアルを実現し、新たな機能光学素子の開拓を行うことを目的とする。初年度においては、インクジェットプリンティング技術を用いて作製した金属メタマテリアルが、確かに三次元的な効果を有する人工光学素子として旋光性を有することを実験的に示した。本年度においては、等方的な光学応答を実現するための、面内異方性の除去についての検討を進めた。インクジェット印刷技術の場合、ユニットセル内のパターンの書き順と、パターン全体の書く順番の両方が異方性に寄与してしまうことを見出し、その影響を最小化するためのインクジェット描画のプロシージャを検討した。これにしたがって実際に試料を作製し、THz偏光回転測定を行うことによって、確かに異方性の除去に効果的であることを実験的に示した。しかしながら、多層化した場合の位置ずれから生じる異方性は除去できておらず、これは今後の検討課題である。また、本年度は、このような三次元メタマテリアルの特性を、回路制御技術を用いて能動的に制御する手法についての検討、及び設計を行った。実際に産業利用されているシリコンプロセスを用いて、単位構造毎にトランジスタを組み込んだ多層金属メタマテリアル構造を設計し、試作を進めている。この試作の結果をふまえ、本研究で検討した有機トランジスタを用いたインクジェットプリンティング技術との融合について検討を進め、三次元アクティブメタマテリアルの実現に関しても検討を進めている。
著者
五神 真 吉岡 孝高
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

A. 光励起半導体励起子・電子正孔系における量子凝縮相の解明と制御(A-1) 準熱平衡状態励起子系の安定化された自発的BECの観測:希釈冷凍機温度において歪トラップした亜酸化銅1sパラ励起子の中赤外誘導吸収イメージングを実現し、更に励起子発光の精密分光を両立する実験系を組み立てた。精密分光による励起子温度評価に基づき、励起子温度を100mK台に保ちながらBEC転移密度を超える高密度領域での吸収イメージングを実行した。更に励起子発光の時間分解実験も進め、注目している低温高密度下の特異な発光の振る舞いに関わる重要な知見が得られている。(A-2) 非平衡励起子系の量子縮退:一般化されたドルーデ応答モデルに基づく理論計算から、ダイヤモンド高密度電子正孔系における誘電応答の緩和レートの周波数依存性を明らかにした。緩和レートは低周波側で減少し、極低温で発現が予測されている電子正孔BCS状態のギャップ周波数においては、ギャップエネルギーのレート尺度より十分に小さくなることを明らかにした。この結果は、フェルミ縮退した電子正孔系における量子多体現象を誘電応答測定で探索可能であることを示唆している。B. レーザー角度分解光電子分光による光励起状態のの新検出手法開拓光電子分光測定において、試料まわりの物質に起因した静電場を低減することで低い運動エネルギーを持つ光電子の放出角度をより正確に把握することに成功した。試料としてトポロジカル絶縁体Bi2Se3を用い、ピコ秒モード同期Ti:Sレーザーの四倍波を入射して角度分解光電子分光を行った。次に、同レーザーの第二高調波を半導体GaSeに照射して光励起し、直後に光電子放出用の第四高調波を照射することで、GaSeのバンド間励起に由来した伝導帯の電子分布を低温下9Kにおいて観察することに成功した。このとき連続光を試料に照射し続けることで試料の帯電を抑制した。
著者
五神 真 宮野 健次郎 十倉 好紀 永長 直人 宮野 健次郎 宮下 精二 鹿野田 一司 内田 慎一 内野倉 国光 花村 栄一
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究(COE)
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、固体中の電子が、そのスピンと電荷さらに格子系の自由度を通じて互いに強い相関を保ちながら運動することによって生じる多彩な物質相に注目し、その多体量子系としての物理学と外場や光による相の制御を利用した新しいエレクトロニクスを開拓することであった。遷移金属酸化物、有機系固体、半導体など幅広い物質系を対象とし、物質開発、物性測定、レーザー分光、X線光学さらに理論を互いに連携させながら研究を推進した。その結果、従来の物性物理学研究では伝導や磁性といった低エネルギーの物性と光領域の高エネルギーの物性が同じ土俵の上で議論される機会はなかったが、この両者の融合を図ることで、独自の研究領域を世界に先駆けて創始することができた。これにより、従来の一体問題の発想では捉えられない新規の現象を次々に発見し、それをきっかけとして、強相関電子系の磁気的性質、伝導、光学応答、非線形光学応答に関する知見とそれを記述する理論研究が格段に進歩した。本研究により、高品質の遷移金属酸化物結晶作製技術の確立、テラヘルツ領域から紫外線領域にわたる超高速分光技術の確立などの技術基盤整備をメンバーの強い連携のもとで進めた。これらを用いて、光誘起金属絶縁体転移の発見、金属絶縁体転移と超伝導機構の関連、軌道量子(オービトン)の発見、超高速光制御機能の発見などの成果を上げた。これらの成果は従来の半導体エレクトロニクスを超える次世代エレクトロニクスにつながる新しい工学を拓く成果であると言える。本研究によって、この東京大学の研究チームを世界的研究拠点としてアピールすることができた。この成果を踏まえ、国際研究拠点として本研究をさらに発展させるため平成13年4月に東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センターが発足した。