著者
井上 佳代子
出版者
公益財団法人 医療科学研究所
雑誌
医療と社会 (ISSN:09169202)
巻号頁・発行日
vol.12, no.3, pp.1-23, 2003-12-10 (Released:2012-11-27)
参考文献数
13

人間信頼工学の手法を用いて,医療事故防止のための総合リスク分析システムを開発し,2病院で施行した。1.リスク算定看護業務量調査を行い,インシデントレポート(以下IR)と照らし合わせ,各看護業務におけるFailure rate(以下FR)を算出した。個々の看護業務のFRは,10-5-10-3。筋肉注射,インスリンの皮下注射,輸血など,看護業務量は少ないが,FRの高い業務を抽出した。また,夜間のFRは日中の1.5倍であり,業務量を加味した相対リスクは3-4倍であった。患者要因において,問題行動のある患者や透析患者は,入院患者数は少ないがFRの高い要因であった。2.エラー分析IRからHuman errorの根本にある組織要因を抽出するmodelを作成した(各IRから,病院内のエラー-直接誘因-組織要因のつながりを見出し連関鎖と名づけた)。2病院で連関鎖を比較し病院による組織要因の違いを明らかにした。3.リスク予測・対策立案ある要因の患者がある医療行為をある期間受けるときのリスク予測図を作成した。また,対策を立てる優先順位の高い業務とその組織要因を抽出できる図を作成した。今回開発した総合リスク分析システムにより,看護業務勤務シフト,患者要因によりリスクの大きさが異なることが判明した。また,病院のもっ組織文化によりエラーの種類も異なり,病院独自の分析と対策の立案が必要であることが明らかになった。
著者
井上 佳代 鍔本 浩志 金澤 理一郎 堀内 功 小森 慎二 田端 千春 中野 孝司 塚本 吉胤 廣田 誠一
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.106-111, 2011

悪性腹膜中皮腫(malignant peritoneal mesothelioma:MPM)と原発性腹膜癌(primary peritoneal carcinoma:PPC)は同じ腹膜中皮細胞由来であるが,病態や治療方針が異なり早期に鑑別する必要がある.またMPMはPPCに比してまれで本邦の年間女性死亡者数は30人に満たず,肉眼的に大網に限局した早期のMPMの報告は海外を含めて数件が報告されているのみである.今回経腟的腹水穿刺を行い,腹水細胞診を免疫染色することでMPMを診断し,MPMに適応した術式が選択できた症例を経験したので報告する.症例は32歳,経産婦.月経不順にて前医を受診し腹水貯留を指摘されたため当科紹介となった.血清CA125は129 IU/ml,経腟超音波検査にて両側付属器およびダグラス窩腹膜は正常で,腹部造影CT検査にて肥厚した大網の脂肪組織が淡く造影された.消化管内視鏡検査にて異常なく,PET/CT検査にて18F-fluorodeoxygrucose (FDG)の有意な集積は認めなかった.ダグラス窩穿刺により淡褐色粘性腹水を採取し細胞診に提出したところ,重積性を示すマリモ状細胞集塊を認め,calretinin,CK5/6,D2-40による免疫化学染色法にていずれも陽性であった.これよりMPMと診断し腹腔鏡下に腹腔内を観察したところ,黄褐色で不整に肥厚した大網以外に異常を認めず大網生検を行った.生検組織によりMPMと確定診断した後に肉眼的完全摘出を目標として大網亜全切除術を行った.術後に化学療法を勧めたが拒否され, 6ヵ月後に全身倦怠感を認めPET/CT検査を施行したところ腹腔内に多発腫瘍を認めた.現在,pemetrexedとcisplatinによる全身化学療法を行っている.〔産婦の進歩63(2):106-111,2011(平成23年5月)〕