著者
前防 昭男 松森 正温 森脇 優司 中野 孝司 山出 渉 安室 芳樹 鍋島 健治 波田 寿一 東野 一彌
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.457-461, 1985

ビルハルツ住血吸虫症は,血尿を主訴とする寄生虫疾患で,アフリカや中近東などの熱帯地方がその流行地である.今回,我々は,世界旅行中,熱帯地方滞在の際に感染したと考えられるビルハルツ住血吸虫症を経験したので報告する.患者は33才の日本人男性. 1976年より世界旅行に出発,アフリカ,東南アジア,アメリカ大陸などを旅行していた. 1983年1月,メキシコ滞在中に血尿に気づくも放置していた.同年5月,日本へ帰国後も血尿持続し,精査のため入院.尿沈渣にて多数の赤血球および寄生虫卵を認め,その虫卵よりビルハルツ住血吸虫症と診断した.血液学的には好酸球増加および血清IgEの高値を認めた.また,膀胱粘膜の生検にて粘膜内にも虫卵を認めた.治療として酒石酸アンチモン剤を投与し尿中の虫卵が陰性化し退院した.本症は,流行地では2000万~3000万人もの患者が存在してるにもかかわらず,本邦ではほとんど認めることのできないまれな輸入寄生虫疾患であるが,海外渡航が頻繁に行なわれるようになつた現在,特に本疾患流行地に滞在していた場合には,血尿を認めた時には鑑別すべき疾患の一つになりえる.
著者
中野 孝司 藤岡 洋 前田 重一郎 山口 桂 岩橋 徳明 田村 伸介 波田 寿一 東野 一彌
出版者
特定非営利活動法人 日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.327-332, 1990-06-20 (Released:2011-08-10)
参考文献数
16

悪性胸膜中皮腫と肺癌胸水貯留例との鑑別にCEAが役立つか否か検討した. 悪性胸膜中皮腫 (11例) の胸水CEAは低値であり, 結核性胸膜炎 (18例) 及び他の良性疾患 (21例) のそれとに差はなかった. 又, 肺癌各組織型 (腺癌34例, 小細胞癌18例, 扁平上皮癌8例, 大細胞癌5例) 及び転移性悪性胸膜腫瘍 (13例) のそれは中皮腫よりも有意に高値を示していた. 胸水CEAのcut-off valueを5.0ng/mlとすると腺癌でのpositive rateは82.4%, 小細胞癌28.6%, 扁平上皮癌62.5%, 大細胞癌83.3%, 転移性胸膜腫瘍43.8%であったのに比べ, 中皮腫は全例ともにcut-off level以下であった. 又, 悪性胸膜中皮腫の腫瘍組織CEA染色は全例陰性であり, 血清CEAは病期が進行しても全例ともに正常値内にあった. 以上の結果より, 本疾患のCEAは胸水及び血清ともに上昇しないと考えられ, この点が肺癌胸水貯留例, 殊に問題となる肺腺癌との鑑別に役立つと考えられる.
著者
井上 佳代 鍔本 浩志 金澤 理一郎 堀内 功 小森 慎二 田端 千春 中野 孝司 塚本 吉胤 廣田 誠一
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.106-111, 2011

悪性腹膜中皮腫(malignant peritoneal mesothelioma:MPM)と原発性腹膜癌(primary peritoneal carcinoma:PPC)は同じ腹膜中皮細胞由来であるが,病態や治療方針が異なり早期に鑑別する必要がある.またMPMはPPCに比してまれで本邦の年間女性死亡者数は30人に満たず,肉眼的に大網に限局した早期のMPMの報告は海外を含めて数件が報告されているのみである.今回経腟的腹水穿刺を行い,腹水細胞診を免疫染色することでMPMを診断し,MPMに適応した術式が選択できた症例を経験したので報告する.症例は32歳,経産婦.月経不順にて前医を受診し腹水貯留を指摘されたため当科紹介となった.血清CA125は129 IU/ml,経腟超音波検査にて両側付属器およびダグラス窩腹膜は正常で,腹部造影CT検査にて肥厚した大網の脂肪組織が淡く造影された.消化管内視鏡検査にて異常なく,PET/CT検査にて18F-fluorodeoxygrucose (FDG)の有意な集積は認めなかった.ダグラス窩穿刺により淡褐色粘性腹水を採取し細胞診に提出したところ,重積性を示すマリモ状細胞集塊を認め,calretinin,CK5/6,D2-40による免疫化学染色法にていずれも陽性であった.これよりMPMと診断し腹腔鏡下に腹腔内を観察したところ,黄褐色で不整に肥厚した大網以外に異常を認めず大網生検を行った.生検組織によりMPMと確定診断した後に肉眼的完全摘出を目標として大網亜全切除術を行った.術後に化学療法を勧めたが拒否され, 6ヵ月後に全身倦怠感を認めPET/CT検査を施行したところ腹腔内に多発腫瘍を認めた.現在,pemetrexedとcisplatinによる全身化学療法を行っている.〔産婦の進歩63(2):106-111,2011(平成23年5月)〕
著者
大槻 剛巳 中野 孝司 長谷川 誠紀 岡田 守人 辻村 亨 関戸 好孝 豊國 伸哉 西本 寛 福岡 和也 田中 文啓 熊谷 直子 前田 恵 松崎 秀紀 李 順姫 西村 泰光
出版者
日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.543-552, 2011 (Released:2011-06-24)
参考文献数
73
被引用文献数
1

The research project entitled “Comprehensive approach on asbestos-related diseases” supported by the “Special Coordination Funds for Promoting Science and Technology (H18-1-3-3-1)” began in 2006 and was completed at the end of the Japanese fiscal year of 2010. This project included four parts; (1) malignant mesothelioma (MM) cases and specimen registration, (2) development of procedures for the early diagnosis of MM, (3) commencement of clinical investigations including multimodal approaches, and (4) basic research comprising three components; (i) cellular and molecular characterization of mesothelioma cells, (ii) immunological effects of asbestos, and (iii) elucidation of asbestos-induced carcinogenesis using animal models. In this special issue of the Japanese Journal of Hygiene, we briefly introduce the achievements of our project. The second and third parts and the third component of the fourth part are described in other manuscripts written by Professors Fukuoka, Hasegawa, and Toyokuni. In this manuscript, we introduce a brief summary of the first part “MM cases and specimen registration”, the first component of the fourth part “Cellular and molecular characterization of mesothelioma cells” and the second component of the fourth part “Immunological effects of asbestos”. In addition, a previous special issue presented by the Study Group of Fibrous and Particulate Substances (SGFPS) (chaired by Professor Otsuki, Kawasaki Medical School, Japan) for the Japanese Society of Hygiene and published in Environmental Health and Preventive Medicine Volume 13, 2008, included reviews of the aforementioned first component of the fourth part of the project. Taken together, our project led medical investigations regarding asbestos and MM progress and contributed towards the care and examination of patients with asbestos-related diseases during these five years. Further investigations are required to facilitate the development of preventive measures and the cure of asbestos-related diseases, particularly in Japan, where asbestos-related diseases are predicted to increase in the next 10 to 20 years.
著者
長谷川 誠紀 田中 文啓 岡田 守人 中野 孝司
出版者
日本肺癌学会
雑誌
肺癌 (ISSN:03869628)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.93-96, 2008-04-20
被引用文献数
5 4

背景.平成18年度文部科学省科学技術振興調整費「アスベスト関連疾患への総括的取り組み」の一環として,我が国における悪性胸膜中皮腫に対する集学的治療の現状を調査した.対象と方法.2002年1月〜2006年12月の5年間に悪性胸膜中皮腫に対して胸膜肺全摘術(EPP)を完遂した症例のみを対象とした.アンケートは本プロトコールへの参加表明施設とJCOG参加施設の計69施設に送付し,うち61施設から返答を得た.結果.対象5年間にEPPを完遂した症例は計171例,男性/女性154例/17例,右/左91例/80例,年齢14〜78歳,平均59歳.手術後30日以内の死亡は1例(間質性肺炎),在院死は6例(腫瘍再発4例.MRSA膿胸1例,肺梗塞1例).シスプラチンを含む術前化学療法を行った症例は38例,うち12例ではシスプラチンを含む術前化学療法と術後片側全胸郭照射を完遂した.術後生存期間の中央値は23ヶ月であった.結論.我が国の悪性胸腹中皮腫に対するEPPは症例数の増加と安全性の改善が確認された.しかし,集学的治療のfeasibilityに関しては現時点でなお十分なデータが存在しない.