著者
井上 佳代 鍔本 浩志 金澤 理一郎 堀内 功 小森 慎二 田端 千春 中野 孝司 塚本 吉胤 廣田 誠一
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.106-111, 2011

悪性腹膜中皮腫(malignant peritoneal mesothelioma:MPM)と原発性腹膜癌(primary peritoneal carcinoma:PPC)は同じ腹膜中皮細胞由来であるが,病態や治療方針が異なり早期に鑑別する必要がある.またMPMはPPCに比してまれで本邦の年間女性死亡者数は30人に満たず,肉眼的に大網に限局した早期のMPMの報告は海外を含めて数件が報告されているのみである.今回経腟的腹水穿刺を行い,腹水細胞診を免疫染色することでMPMを診断し,MPMに適応した術式が選択できた症例を経験したので報告する.症例は32歳,経産婦.月経不順にて前医を受診し腹水貯留を指摘されたため当科紹介となった.血清CA125は129 IU/ml,経腟超音波検査にて両側付属器およびダグラス窩腹膜は正常で,腹部造影CT検査にて肥厚した大網の脂肪組織が淡く造影された.消化管内視鏡検査にて異常なく,PET/CT検査にて18F-fluorodeoxygrucose (FDG)の有意な集積は認めなかった.ダグラス窩穿刺により淡褐色粘性腹水を採取し細胞診に提出したところ,重積性を示すマリモ状細胞集塊を認め,calretinin,CK5/6,D2-40による免疫化学染色法にていずれも陽性であった.これよりMPMと診断し腹腔鏡下に腹腔内を観察したところ,黄褐色で不整に肥厚した大網以外に異常を認めず大網生検を行った.生検組織によりMPMと確定診断した後に肉眼的完全摘出を目標として大網亜全切除術を行った.術後に化学療法を勧めたが拒否され, 6ヵ月後に全身倦怠感を認めPET/CT検査を施行したところ腹腔内に多発腫瘍を認めた.現在,pemetrexedとcisplatinによる全身化学療法を行っている.〔産婦の進歩63(2):106-111,2011(平成23年5月)〕
著者
堀内 功 澤井 英明 小森 慎二 赤谷 昭子 香山 浩二
出版者
兵庫医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

TNSALP遺伝子のゲノムDNAをPCR法にて増幅した。ゲノム遺伝子は12エクソンに分かれているため、PCR法に用いるプライマーはそれぞれのエクソンについて合成する必要がある。しかも細胞1個にはTNSALP遺伝子は1対(2個)しか含まれていないため、これを遺伝子増幅するためには増幅対象領域についてPCR反応を繰り返して2度行ういわゆるnested PCR法が必要となる。この方法に必要なTNSALP遺伝子のプライマーの塩基配列はすでに報告されているので、これらの情報を用いて、細胞1個より増幅可能な条件を検討した。増幅された遺伝子がTNSALPであるかどうかについてはそれぞれの増幅された遺伝子内に存在する制限酵素部位が、既知のTNSAPLの遺伝子配列と一致するかどうかで判断した。同じ増幅法であっても細胞融解の方式によって増幅の程度の差が出ることが判明した。すなわち蛋白融解酵素を用いたものよりもアルカリ溶解法を用いた方が正確な増幅が期待できることがわかった。しかし、allele drop out(ADO)と呼ばれる、2本の染色体のうちの1本がうまく増幅されない減少についての検討を次に行った。低アルカリホスファターゼ症は常染色体劣性遺伝形式をとる疾患であるので、ADOがあっても正常のalleleの増幅がみられれば、少なくとも保因者であり、罹患はしていないと診断できる。しかし、あまりにADOの頻度が高いと、正確な診断という意味では問題が生じる。文献上はいずれの方法が良いかについては相反する報告があり、増幅する遺伝子によって違いがあるものと考えられた。そこでADOの頻度を検討して、さらに増幅率を加味して検討した結果、TNSALP遺伝子の増幅についてはアルカリ溶解法を用いた方が、増幅効率とallele drop outの率から考えて、良いと考えられた。