著者
赤谷 昭子 澤井 英明 鍔本 浩志
出版者
兵庫医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

「背景」成熟精子表面には、雄性生殖臓器特異抗原CD52(mrtCD52)が存在し、臨床的に精子抗体が原因で起こる不妊症は、このCD52の糖鎖が責任抗原であることがあきらかにされている。本課題では、動物実験によりmrtCD52抗原の免疫が同種メスに抗体産生を誘導することができるか、またこれを避妊ワクチンに応用することができるかを検討した。「方法」マウス雄性生殖組織(輸精管)より、mrtCD52を精製した。♂および♀マウスに完全フロインドアジュバントとともに皮下投与(全身免疫)した。また粘膜免疫として、コレラトキシンBをアジュバントとして経鼻投与した。抗体の産生はELISA、western blot法、蛍光抗体法により評価した。抗体の生物作用として、精子不動化試験、in vitro受精阻害実験、交配実験を行った。「結果」♂♀マウスの全身免疫により、mrtCD52に反応する抗体が産生された。また、経鼻投与によっても血中に抗体が検出された。いずれの抗体もCD52のペプチド部分には反応せず、糖部分が免疫原性を持つことがわかった。またこれらの抗体は、補体の存在下でマウス精子を不動化した。In vitro受精および免疫♀マウスの妊娠は阻害しなかった。「結論」mrtCD52には同種あるいは自己抗体を産生する糖鎖抗原が存在することが明らかになった。これによってヒト不妊症で報告されていた精子に対する同種抗体の産生を、マウスで実証した。免疫動物の妊娠阻害には至らなかったが、抗体が不動化作用を持つことから、避妊ワクチンの開発には、雌性生殖器器官に効果的に発現する抗体、分泌型IgAの産生を高めることが今後重要と考えられる
著者
加藤 徹 山本 麻未 笠間 周平 伊藤 善啓 池田 ゆうき 坂根 理矢 鍔本 浩志 芳川 浩男 澤井 英明
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.161-167, 2013

抗NMDA受容体脳炎は,若年女性に好発する非ヘルペス性辺縁系脳炎の1つで,卵巣奇形腫関連傍腫瘍性脳炎である.今回われわれは卵巣成熟嚢胞性奇形腫を有する抗NMDA受容体脳炎の再発症例を経験した.症例は35歳で,20歳のときに原因不明の脳炎を発症し,約2カ月間の入院の既往歴があった.その後26歳で妊娠した際に卵巣成熟嚢胞性奇形腫と診断され,妊娠中に腹式左卵巣嚢腫摘出術が施行された.それ以降は健常に過ごしていたが,今回突然の発熱と精神症状を発症した.その後,意識障害を認め脳炎が疑われたため,当院へ紹介となった.当院神経内科へ入院後にけいれん重積発作を起こし,気管内挿管されICU入室となった.入院時に施行したCTで骨盤内に卵巣腫瘍が指摘された.抗NMDA受容体脳炎が疑われ当科へ紹介となり,緊急で腹式両側付属器切除術を施行した.摘出標本の病理診断は成熟嚢胞性奇形腫であった.手術後は昏睡状態が続いたが約1カ月後に開眼し,その後徐々に意識状態は改善し,入院から116日目に独歩で退院となった.入院時に採取した血液と髄液の検体より抗NMDA受容体抗体を検出し,診断確定に至った.退院後は外来において経過観察中で脳炎の再発は認めていない.卵巣成熟嚢胞性奇形腫は頻度の高い疾患であるが,このような疾患を引き起こすこともあり,卵巣奇形腫の症例では詳細な既往歴の聴取で過去の脳炎や,中枢神経に関した既往歴の有無を確認することが重要である.〔産婦の進歩65(2):161-167,2013(平成25年5月)〕
著者
井上 佳代 鍔本 浩志 金澤 理一郎 堀内 功 小森 慎二 田端 千春 中野 孝司 塚本 吉胤 廣田 誠一
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.106-111, 2011

悪性腹膜中皮腫(malignant peritoneal mesothelioma:MPM)と原発性腹膜癌(primary peritoneal carcinoma:PPC)は同じ腹膜中皮細胞由来であるが,病態や治療方針が異なり早期に鑑別する必要がある.またMPMはPPCに比してまれで本邦の年間女性死亡者数は30人に満たず,肉眼的に大網に限局した早期のMPMの報告は海外を含めて数件が報告されているのみである.今回経腟的腹水穿刺を行い,腹水細胞診を免疫染色することでMPMを診断し,MPMに適応した術式が選択できた症例を経験したので報告する.症例は32歳,経産婦.月経不順にて前医を受診し腹水貯留を指摘されたため当科紹介となった.血清CA125は129 IU/ml,経腟超音波検査にて両側付属器およびダグラス窩腹膜は正常で,腹部造影CT検査にて肥厚した大網の脂肪組織が淡く造影された.消化管内視鏡検査にて異常なく,PET/CT検査にて18F-fluorodeoxygrucose (FDG)の有意な集積は認めなかった.ダグラス窩穿刺により淡褐色粘性腹水を採取し細胞診に提出したところ,重積性を示すマリモ状細胞集塊を認め,calretinin,CK5/6,D2-40による免疫化学染色法にていずれも陽性であった.これよりMPMと診断し腹腔鏡下に腹腔内を観察したところ,黄褐色で不整に肥厚した大網以外に異常を認めず大網生検を行った.生検組織によりMPMと確定診断した後に肉眼的完全摘出を目標として大網亜全切除術を行った.術後に化学療法を勧めたが拒否され, 6ヵ月後に全身倦怠感を認めPET/CT検査を施行したところ腹腔内に多発腫瘍を認めた.現在,pemetrexedとcisplatinによる全身化学療法を行っている.〔産婦の進歩63(2):106-111,2011(平成23年5月)〕