- 著者
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井上 宗宣
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.50, no.1, pp.14-18, 2014 (Released:2016-02-01)
- 参考文献数
- 11
- 被引用文献数
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フッ素は医薬品において重要な役割を果たしている元素である.毎年Academic Pressから出版されるAnnual Reports in Medicinal Chemistryの“To Market, To Market”の章には,新たに発売された医薬品の構造と薬効が記載されている.1991~2011年の間に売り出された新薬の統計をとると,21年間に645種の薬が発売され,そのうち92種にフッ素原子が含まれている.実に約14%が含フッ素医薬ということになる.また,2012年度世界の大型医薬品売上高ランキングトップ35以内に,プロピオン酸フルチカゾン(4位,抗喘息薬),ロスバスタチン(5位,高脂血症用薬),シタグリプチン(10位,糖尿病治療薬),アトルバスタチン(15位,高脂血症用薬),エファビレンツ(27位,抗HIV薬),エムトリシタビン(31位,抗HIV薬),セレコキシブ(34位,抗炎症薬)の7種類の含フッ素医薬が入っている(図1).抗体医薬などの高分子医薬を除外すると,トップ10以内のすべての低分子医薬(3種)にフッ素原子が含まれている.このように,フッ素は医薬品開発において水素,炭素,酸素,窒素,硫黄に続いてよく利用される元素である.当研究所では毎年フッ素相模セミナーを開催し,含フッ素医薬の全構造を紹介している.この講演資料はweb上で公開されている.本稿では,含フッ素医薬の歴史,構造的特徴,合成法に関して,近年のトレンドを含めて概説したい.