著者
井上 智之 辻 義輝 藤田 聡美 吉村 直人 兵頭 正浩 高橋 博愛 初村 和樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Cb0509, 2012 (Released:2012-08-10)

【目的】 肩関節周囲炎は肩関節周囲組織の退行性変化を基盤とし、主に肩甲上腕関節の可動域制限をきたす疾患である。退行性変化の一つとして肩甲骨の可動性低下があげられるが、肩関節周囲炎発症後の肩甲骨の動きは代償動作が強く、本来の退行性による可動性の変化は見出せないことが多い。そこで今回、肩関節に疾患のない20歳代と50歳代の肩甲骨の動きを比較し、可動性の退行性変化を検証することで今後の理学療法に役立てようと考えた。【方法】 対象は肩関節に既往のない20歳代男性10名(平均年齢24.5±1.69)、50歳代男性10名(平均年齢54.8±2.14)、利き肩20肩を対象とした。測定方法は、被検者に端坐位にて利き肩上肢のみの安静坐位、屈曲90°、最大挙上、外転の肢位をとらせた。肢位は日本整形外科学会の関節可動域測定法に基づいて実施。肩甲棘三角、肩峰後角、肩甲骨下角、上腕骨内側上顆、上腕骨外側上顆にランドマークをつけ、各々の肢位で前額面、矢状面、水平面からデジタルカメラにて撮影し、画像処理ソフトImageJを用いて肩甲骨傾斜角度、移動角度量(各動作肢位時肩甲骨傾斜角度-安静時肩甲骨傾斜角度)を算出した。20歳代と50歳代の各肢位における肩甲骨傾斜角度と移動角度量をJSTAT for Windowsを使用し統計処理を行い、危険率5%未満で有意として比較検討した。【説明と同意】 対象者に本研究の趣旨を説明し、同意を得た上で行った。【結果】 1.肩甲骨傾斜角度について安静坐位での前額面にて20歳代7.2±7.4°、50歳代16.2±6.5°であり有意な肩甲骨の上方回旋を認めた。最大挙上・外転での矢状面にて、最大挙上:20歳代41.5±11.3°、50歳代26.0±9.1°であり有意な肩甲骨の後傾角度低下を認めた。外転:20歳代7.9±11.5°、50歳代-4.9±6.7°であり有意な肩甲骨前傾が認められた。2.肩甲骨移動角度量について 屈曲90°での前額面にて20歳代16.8±5.7°、50歳代10.3±4.7°。最大挙上での前額面にて20歳代45.6±9.4°、50歳代33.5±7.7°、矢状面にて20歳代52.9±10.7°、50歳代39.1±9.3°。外転での前額面にて20歳代32.2±7.9°、50歳代20.3±4.7°、矢状面にて20歳代19.4±13.0°、50歳代8.2±5.7°。屈曲90°・最大挙上・外転の肢位において有意に50歳代の肩甲骨移動量の低下を認めた。【考察】 結果より、肩甲骨傾斜角度については、退行性変化として肩甲骨が上方回旋位となることが認められた。これは加齢に伴う胸郭の変化や肩甲骨上方回旋に関与する筋の緊張が優位となっていることが考えられる。また肩甲骨移動角度量については、屈曲90°、最大挙上、外転ともに上方回旋の可動性低下、最大挙上、外転においては後傾の可動性低下が認められており、これは肩甲上腕リズムにおいて、肩甲上腕関節による肩関節運動が優位になっていることが考えられる。特に外転においては、20歳代では肩甲骨が後傾しているのに対し、50歳代では前傾している対象者が多く、これは外転時の肩峰下でのストレスが強くなることが考えられる。今回の結果より、肩甲骨の上方回旋・後傾の可動性に着目することで、肩関節周囲炎の治療や予防につながると考えられた。【理学療法学研究としての意義】 肩関節周囲炎は肩甲骨の可動性や協調性が低下することが引き金となり、結果として肩甲上腕関節の疼痛や可動域制限をきたす可能性は以前より言われている。退行性変化を考慮して理学療法を行うことで、肩関節周囲炎に対する理学療法の新たな展開につながり、早期回復の達成、より効果的な予防治療の実現に寄与すると考えられる。
著者
蕨 陽子 林 健太郎 森島 亮 井上 智之 清水 俊夫 高橋 一司
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.799-802, 2022 (Released:2023-01-20)
参考文献数
8

【目的】高齢COVID–19患者の回復期の摂食機能療法の効果と社会的意義について検討する.【方法】高齢者施設を感染経路とし,急性期治療後に当院へ転入院したCOVID–19連続14例の経過を後方視的に検討した.摂食機能療法は医師と看護師,理学療法士で開始し,隔離解除後に言語聴覚士が携わった.【結果】14例は年齢86±7(mean±SD, range 72–95)歳で,8例は認知症,2例は神経変性疾患を有した.COVID–19は86%で肺炎像を呈し,64%で酸素吸入を要した.発症から18.2±5.6(11–33)日経過した当院入院時,9例(63%)が摂食不能であった.入院後,5例は体力や意欲,認知機能が回復し摂食が回復したが,神経変性疾患2例は摂食嚥下機能が回復せず,認知症1例は先行期の問題が回復せず,残る1例は死亡した.【結論】神経変性疾患以外でCOVID–19から回復した高齢者の83%は摂食嚥下機能が回復した.神経難病診療を生かした隔離下での嚥下評価と摂食機能療法が高齢COVID–19患者の摂食嚥下機能回復に寄与し,予後の改善につながった.