著者
井上 武夫 子安 春樹 服部 悟
出版者
一般社団法人 日本結核病学会
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.83, no.7, pp.507-512, 2008-07-15
参考文献数
5
被引用文献数
4

〔目的〕菌陽性患者を初発患者とするニ次患者の実態を知る。〔対象と方法〕1989年から2003年までの15年間に,愛知県7保健所4支所で新登録された10,088名の結核患者登録票を再点検し,感染経路を同じくする2名以上の発病者からなるクラスタ一を選別し,菌陽性患者を初発患者とする二次患者の新登録患者に占める割合をクラスター所属二次患者率(CSR),菌陽性患者の中に占める菌陽性の初発患者+二次患者の割合をクラスター率とした。〔結果〕二次患者は417名,全体のCSRは4.1%であり,塗抹陽性3,332名の3.5%,他陽性2,139名の3.8%,菌陰性3,158名の5.4%,肺外結核1,459名の3.4%であり,菌陰性のCSRは他の3群より高かった(p<0.01~p<0.001)。年齢階級別CSRは,10歳未満425%,10代30.3%,20代11.2%,30代7.4%,40代4.6%,50代3.2%,60代2.4%,70代1.8%,80代1.3%,90代0.6%であり,10代と20代(p<0.001),20代と30代(p<0.05),30代と40代(p<0.05)との問に有意差を認めた。男性のCSRは2.9%で女性の6.3%と比べ有意に低かった(p<0.001)。クラスター率は8.8%で,10代と20代(37.1%対21.1%,p<0.001)および40代と50代(16.4%対8.5%,p<0.001)の間に有意差を認めた。〔考察〕CSRは登録10年前までに菌陽性患者と濃厚に接触していることが確認された患者の割合を示すものであり,見知らぬ患者からの感染および感染後長期間経てからの発病が少ないほどCSRは高くなる。〔結論〕CSRは年齢,性別,登録時菌所見と密接に関係しており,若年者,女性,菌陰性肺結核で高い。クラスター率は年齢が若いほど高い。
著者
井上 武夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.111-116, 2000-03-31

ベアティフィカアグリアスの後翅裏面には黒色斑が列をなし,外縁から第2列目の黒色斑は円形で内部に白色または青色の小斑点をともない,眼とひとみに例えられている.第2室から7室までの眼状紋には1個,1b室の眼状紋には2個の白色斑点が通常認められる.眼状紋の大きさは各個体では7個がほぼ同じであるが,亜種間では異なり,ベアータ亜種とスタウディンゲリ亜種は小さく,ベアティフィカ亜種とストゥアルティ亜種では大きい.白や青の小斑点をもたない極めて小さな眼状紋をペルー産4頭の雄に認めたので報告する.写真1-4は1996年7月15日にサティポ近郊のシャンキで採集された雄で,後翅赤色斑は基部に限られ,典型的なベアータ亜種である.7個の眼状紋はかなり小さいが,1b室と2室の眼状紋は特に小さい.ベアータ亜種では1b室の眼状紋が2個に分離している個体を半数に認めるが,この個体では一個の黒点しか認めない.拡大写真では左右の1b室眼状紋の辺縁に白色鱗粉が認められるが,中心部には認めない.第2室の眼状紋は7個の中では最も小さい.右側の拡大写真では黒線が交差しているだけで,円とは遠くかけはなれた形状をしている.左側のは虫が描かれたようで,円形とは言い難い形状をしている.写真5-8は1996年8月5日にチャンチャマーヨ(中部ジャングル地帯)コロラド河流域で採集された雄で,後翅赤色斑は基部に限られ,典型的なベアータ亜種である.7個の眼状紋はかなり小さいが,2,4,6室の眼状紋は特に小さい.1b室の眼状紋は2個に分離しており各々に青色小斑を認める.第2室の眼状紋は7個の中では最も小さい.右側の拡大写真では2-4室の眼状紋の辺縁に白色鱗粉が認められるが,中心部には白も青も認めない.左側の2室眼状紋には白の小斑が中心近くに認められるが,4室の白色鱗粉は眼状紋の辺縁にのみ見られる.写真9-12は1994年2月4日にペバス近郊アンピヤック河流域で採集された雄で,後翅鮮紅色斑は第4列黒色斑の内側まで拡がり,中室には2個の黒色斑の痕跡が認められ,典型的なベアティフィカ亜種である.2-4室の眼状紋は他と比べ2分の1以下であり,ひとみを認めない.右側の拡大写真ではやや大きい2室の眼状紋中心に,少数の青色鱗粉からなるひとみが認められる.3,4室の眼状紋の辺縁には白色鱗粉が認められるが,中心部には白も青も認めない.左側では4室眼状紋中心近くに白と青の鱗粉各1個が認められる.2室と3室の眼状紋には白も青も認めない.写真13-16は1985年8月21日にイキトス近郊イタヤ河流域で採集された雄で,後翅黄色斑は第3列黒色斑の内側まで拡がり,中室には黒色斑の痕跡が認められず,典型的なストゥアルティ亜種である.1b室の眼状紋は他と比べ3分の1以下であり,ひとみを1個しか認めない.右側の拡大写真では1b室の眼状紋は中央部でくびれ,外則部分には青色鱗粉に縁どられた白小斑が認められ,内側部分にも青色鱗粉が1個認められる.左側では1b室眼状紋は中央でほぼ2個の眼状紋に2分され,外側眼状紋には青色鱗粉に縁どられた白小斑が認められる.内側眼状紋は外側の半分以下の大きさしかなく,中心部分には白も青も認めない.しかし,その下部には白の切れ込みがあり,その上に青の鱗粉1個が認められるところから,通常の眼状紋が中心線で上下に2分され,下部が消失したと推測できる.ベアティフィカアグリアスの7個の眼状紋の形状は亜種間ではかなり異なる.著者が所有する137頭のベアータ亜種,36頭のスタウディンゲリ亜種,195頭のベアティフィカ亜種,107頭のストゥアルティ亜種をカラー写真にして比較した.1b室の眼状紋が2個に分離している個体は,各々全体の54%,39%,4%,4%であった.1b室の2個のひとみが全く認められない個体の比率は各々8%,6%,0%,0%であった.1b室のひとみが1個しか認められない個体の割合は各々6%,8%,0%,1%であった.眼状紋の形状は前2亜種間,後2亜種間では類似しており,異常型の出現頻度も似通っていたことから,各々は同一グループに属すと考えられる.後2亜種グループでは肉眼的にひとみを認めない個体は稀であるが,報告した第3と第4の個体以外では,写真を拡大すると眼状紋の中心に青色小斑を認めた.また,このグループで1b室にひとみが1個しかない個体は報告した第4の個体以外になく,極めて稀な変異と考えられる.7個の眼状紋の大きさが個体内で大きく異なることは極めて稀である.ベアータ亜種,スタウディンゲリ亜種の2亜種では,産地によって眼状紋の大きさは異なるが,ベアティフィカ亜種,ストゥアルティ亜種の2亜種のものよりかなり小さい.報告した第1と第2の個体の最小眼状紋の大きさは大差ないが,第3,第4の個体の最小眼状紋に比しかなり小さいのは,亜種グループが異なるためである.報告した4頭は,7個の眼状紋のいくつかが極めて小さく,その中心部に白や青の鱗粉を認めない点で稀な変異体であり,亜種を越えてparvulaocelli var.nov.と命名した.
著者
井上 武夫 新井 久保
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.207-213, 1997-11-30

黄色と赤色はベアータアグリアス裏面の基本色ではあるが,ペルー産の表面に現われることは稀であり,後翅前縁第7室に黄色斑をともなうA.b.stuarti var.fulvescens Rebillardが唯一記載されているにすぎない.著者らは1984年以来ペルー国内で500頭以上のベアータアグリアスを収集してきたが,雌1頭,雄7頭の前翅前縁に黄色または赤色紋を認めた.写真1,2は1987年9月22日にイキトスで採集された雌で,前翅前縁と第12翅脈との間の第12室,および第11,12翅脈間の第11室に黄褐色紋が認められる.拡大写真では多数の黄褐色鱗粉が第11,12室に認められ,中室にも広く散見される.また,第10翅脈上にも少数認められる.写真17はその裏面であり,後翅基部の黄褐色斑は大きくA.b.stuarti f.micaela(Biedermann)と同定できる.写真3,4は1986年8月3日にイキトスで採集された雄で,前翅前縁第11室に黄褐色紋が認められる.拡大写真では多数の黄褐色鱗粉が第11室に認められ,第10,12室と中室,および第10翅脈上にも認められる.写真18はその裏面であり,後翅基部の黄褐色斑は大きくA.b.stuarti f.micaelaと同定できる.写真5,6は1987年1月31日にイキトスで採集された雄で,前翅前縁基部に黄褐色紋が認められる.拡大写真では多数の黄褐色鱗粉が第12室基部に認められ,少数は第11室,および第12翅脈上にも認められる.写真19はその裏面であり,後翅基部の黄褐色斑は大きくA.b.stuarti f.micaelaと同定できる.写真7,8は1993年8月にイキトスで採集された雄で,前翅前縁第11,12翅脈が黄褐色になっている.拡大写真では多数の黄褐色鱗粉が第11,12翅脈上に認められ,第9,10翅脈上にも散見される.また,前縁と第12室基部にも多数認められる.写真20はその裏面であり,後翅基部の黄褐色斑は大きくA.b.stuarti f.micaelaと同定できる.写真9,10は1993年9月にヤバリ河で採集された雄で,前翅前縁基部に黄褐色紋が認められる.拡大写真では多数の黄褐色鱗粉が第11,12室基部,および第11,12翅脈上に認められる.写真21はその裏面であり,後翅基部の黄褐色斑は大きくA.b.stuarti f.micaelaと同定できる.写真11,12は1991年11月13日にペバスで採集された雄で,前翅前縁基部に赤色紋が認められる.拡大写真では多数の赤色鱗粉が前縁と第12翅脈上基部に認められ,少数は第11,12室にも認められる.第11,12室には青色鱗粉も認められる.写真22はその裏面であり,後翅基部の鮮紅色は大きく,中室内に退色した黒色斑を認め,A.b.beatifica var.incarnata Michaelと同定できる.写真13,14は1996年10月1日にアタラヤで採集された雄で,前翅前縁第11室に赤色紋が認められる.拡大写真では多数の赤色鱗粉が第11室に認められ,第10,12室と中室にも認められる.第11室基部には青色鱗粉が認められる.写真23はその裏面であり,後翅基部の赤色斑は中室基部まで拡がっておりA.b.beata f.staudingeri Michaelと同定できる.写真15,16は1996年9月5日にサティポで採集された雄で,前翅前縁第11室に赤色紋が認められる.拡大写真では多数の赤色鱗粉が第11室に認められ,第10,12室と中室にも認められる.第11室基部には青色鱗粉が認められる.写真24はその裏面であり,後翅基部の赤色斑は小さくA.b.beata Staudingerと同定できる.以上,ペルー産ベアータの5変異体のうちA.b.beata f.pherenice Fruhstorferを除く4変異体の前翅前縁に黄色または赤色紋を認めた.ブラジル産のA.b.hewitsonius Batesには前翅前縁に大きな黄色斑が出現することは周知の事実であるが,ペルー産では知られていなかった.A.phalcidon fournierae var.viola Fasslを連想して,著者らはこれら8頭をpseudoviolaと呼んでいる.
著者
井上 武夫 子安 春樹 服部 悟
出版者
一般社団法人 日本結核病学会
雑誌
結核 (ISSN:00229776)
巻号頁・発行日
vol.81, no.11, pp.645-650, 2006-11-15
参考文献数
12
被引用文献数
4

〔目的〕結核感染における男女比の実態を知る。〔対象と方法〕1989年から2003年までの15年間に,愛知県の3保健所1支所で薪登録された3,174名の肺結核患者登録票を再点検し,感染経路を同じくする複数の発病者からなるクラスターを選別した。クラスター内の最初の登録者を初発患者とし,それ以後の登録者を二次患者とし,初発患者と二次患者の登録期間を10年以内とした。塗抹陽性初発患者を感染源とし,その二次患者を家族内と家族外に分け,男女比を求めた。〔結果〕感染源は100名で,男女比3.3,その二次患者は153名,男女比1.0であった(p<0.001)。家族内感染の男女比は家族外感染と比べ,感染源でも(2.5vs21.0,p<0,05),二次患者でも(0.8vs2.2,p<0.011)低かった。家族内感染の二次患者の男女比は,夫婦間発病でO.4,夫婦以外で1.0であった(p<0.05)。家族外感染で,職場感染の二次患者の男女比は7.0,職場以外では0.8であった(p<0.01)。〔考察〕感染源は男性が多く,夫婦間発病の二次患者は必然的に女性が多い。ある地域における家族内男女数はほぼ同数であり,男女各1名からなる夫婦を除く家族内男女数もほぼ同数であり,二次患者が男女ほぼ同数ということは,家族内感染での発病率に男女差がないことを示唆する。〔結論〕家族内感染は家族外感染より男女比が低い。
著者
井上 武夫 林 典子 津田 克也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.103-108, 2004 (Released:2014-08-29)
参考文献数
7

目的 平成 7 年に始まった愛知県瀬戸市の乳幼児期 BCG 接種技術改善努力が,小学 1 年のツ反陽性率に及ぼす影響を針痕数との関連で明らかにする。方法 平成12年,13年,14年の小学 1 年生3,409人のツ反発赤径と針痕数を計測した。BCG 未接種児童は除外した。結果 一人あたり平均針痕数は,平成12年1.8個,13年3.1個,14年6.3個であった。針痕を 1 個でも認めた児童は,平成12年25.1%, 13年38.1%, 14年70.5%であった。平成13年は12年に比べ,平成14年は13年に比べてそれぞれ有意に高率であった(P<0.001)。 ツ反陽性率は,平成12年32.5%, 13年36.5%, 14年63.7%であった。平成12年と13年とは有意差がなく,平成14年は12年および13年に比べ有意に高率であった(P<0.001)。 針痕なしの児童の陽性率は,平成12年29.4%, 13年33.1%, 14年56.1%,針痕ありの児童の陽性率はそれぞれ41.8%, 42.0%, 66.9%であり,針痕ありの児童の陽性率は針痕なしの児童より有意に高かった(P<0.005~P<0.001)。平成14年の針痕なしの陽性率は,12年および13年の針痕ありの陽性率より有意に高かった(P<0.001)。 針痕数 1~9 個と10個以上の陽性率は,平成12年40.2%と46.3%, 13年34.0%と55.7%, 14年63.9%と70.7%であった。平成14年の針痕 0 個の陽性率は12年の10個以上の陽性率より高値であった。 ツ反発赤径 5 mm 以上10 mm 未満(旧疑陽性)の児童は,平成12年32.8%, 13年30.2%, 14年20.0%であった。平成14年は12年および13年に比べて有意に低率であった(P<0.001)。 ツ反発赤径 5 mm 未満(旧陰性)の児童は,平成12年34.6%, 13年33.3%, 14年16.3%であった。平成14年は12年および13年に比べて有意に低率であった(P<0.001)。結論 乳幼児期の BCG 接種技術改善により小学 1 年のツ反陽性率を大きく高め,ツ反発赤径 5 mm 未満の旧陰性群を大きく減少させることができる。針痕数よりも針痕の残る児童の割合の方が全体の陽性率との関連が強い。平成14年は針痕なしの児童も高い陽性率を示したことから,管針を強く押すだけでなく,生菌を多く接種するための改善がなされたと推測できた。
著者
井上 武夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.63-64, 1997-06-15
参考文献数
3

ペルーでは,ミイロタテハ用トラップとして人糞,腐敗した牛血などを使用してきたため,雌が採集されることは極めて稀であり,Agrias beata beata f.beatifica Hewitsonの雌変異体は報告がない.著者はロレト州イキトス周辺での雌採集を目的に,1987年からバナナトラップの使用をひろめてきた.1996年10月14日に採集された雌A.b.beata f.beatificaは前翅長47mm,前翅表面基部と後翅中央に大きな青色斑が認められる(Figs 1,3).また,前後翅ともに緑色帯の内側には青色鱗粉が認められる.後翅の青色斑は1b室から3室および中室まで拡がり,緑色帯内側の青色とは連続していない.裏面後翅には基部から第3列黒色斑内側まで拡がる黄土色の斑紋が認められる(Fig.2).第4列からの黒色斑は痕跡として淡くなっており,A.b.beata f.beatificaの特徴を示している.後翅青色斑を伴う雌Agrias beataはペルー産として3変異体,ブラジル産として3変異体が報告されてる.ペルー産はともに山地性別亜種のもので,アマゾン低地のロレト州からは報告がない.本個体はマラニョン河下流のナウタ近郊ベサイダで採集された,初のA.b.beata f.beatifica雌変異体と考えられる.
著者
井上 武夫
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.103-105, 1985-06-20

ペルー産のミイロタテハ属の雌は雄に比べ極めて数が少ない.他方,ブラジルでは雌雄ほぼ同数が採集されている.両者の相異は使用するトラップが異なるためと言われているが,それを実証した者はいない.著者は1984年9月24日から10月2日までブラジルでバナナトラップを用いて5♂,3♀のミイロタテハを採集し,同じ方法でイキトス,ティンゴマリアにて,A. sardanapalusとA.beataの雌を各1頭採集した.このような著者の経験から,ペルーにおいても従来いわれてきたような雌雄の著しい不均等は必ずしもないと考えられる.