著者
工藤 浩 井出 浩希 中林 玄一 後藤 貴宏 若栗 良 岩田 尚宏 黒木 嘉人
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.59-66, 2019-01-25 (Released:2019-02-13)
参考文献数
14
被引用文献数
3

目的:重度嚥下機能障害を有する高齢者診療における完全側臥位法の有用性について検討した.方法:2015年2月から2017年10月に当院に入院し,嚥下機能障害が疑われNSTが介入した142例(全例嚥下内視鏡検査(VE)施行)中,従来の誤嚥予防対策では安全な経口摂取は困難な重度嚥下機能障害と診断された65歳以上の高齢者47例に完全側臥位法を導入した.完全側臥位法導入が安全な経口摂取と転帰に及ぼす影響について,完全側臥位法未実施群(対照群)と比較検討した.結果:平均年齢は85±8.3歳,男女比は32:15,初回VEで全例に重度の嚥下機能障害(兵頭スコア8.16±2.0点)を認めた.完全側臥位法導入後,栄養療法,リハビリテーションの併用により,血中Alb値,Barthel indexの改善も認め,対照群と比較し,経口栄養での退院が有意に増加(26.5→53.2%)した.退院症例25例中13例は再び座位姿勢でも安全に食事摂取が可能となった.死亡退院21例の死因病名は老衰10例が最も多かった.完全側臥位群では老衰による終末期の症例でも安全な経口摂取が可能となり,対照群と比較し死亡までの平均欠食期間が有意に短縮(17.3→7.3日)した.退院後に在宅でも完全側臥位法を継続し,再入院することなく1年後に自宅で穏やかな最期を迎えられた症例も経験した.結論:完全側臥位法は重度嚥下機能障害をもつ高齢者の安全な経口摂取に高い効果を認めた.安全な食事摂取が栄養状態の改善,リハビリによる機能強化にもつながり,経口栄養での退院増加に寄与した.完全側臥位法は特別な器具,手技を必要とせず簡便で負担の少ない手法であり,言語聴覚士が不在の市中病院や在宅,重症患者でも容易に継続できることが確認された.本手技が嚥下機能障害を有する高齢者診療におけるブレイクスルーとなり得る可能性が示唆された.
著者
井出 浩希 工藤 浩 杉森 一仁 松原 美由紀
出版者
一般社団法人 日本静脈経腸栄養学会
雑誌
日本静脈経腸栄養学会雑誌 (ISSN:21890161)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.1267-1271, 2015 (Released:2015-12-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

【目的】大腿骨近位部骨折術後患者において、入院期間中の摂食嚥下機能の低下に影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。【対象及び方法】当院にて大腿骨近位部骨折に対し手術を施行した26例を対象とした。摂食嚥下機能は入院期間中の食形態を指標とし、食形態が変化しなかった群 (A群) と、食形態の調整または水分にトロミが必要となった群 (B群) について検討した。【結果】A群に比べ B群は入院時 CRP値 (p=0.04) 、施設からの入院割合 (p=0.03) が有意に高かった。入院時血清アルブミン (Alb) 値、入院時 Body Mass Index (BMI) には統計学的有意差を認めなかったが (いずれも p=0.08) 、B群で低い傾向がみられた。【結論】施設からの入院例、炎症を認める症例、入院時 Alb、BMIが低値で低栄養が疑われる症例は、入院期間中に摂食嚥下機能が低下しやすく注意が必要であると考える。
著者
松井 亮太 高 礼子 苗代 時穂 的場 加代子 柳澤 優希 井出 浩希 金沢 一恵
出版者
一般社団法人 日本臨床栄養代謝学会
雑誌
学会誌JSPEN (ISSN:24344966)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.277-282, 2019 (Released:2020-06-15)
参考文献数
7

症例は80歳代女性で右片麻痺あり.来院2日前より38℃の発熱を認め,当院内科を受診.誤嚥性肺炎の診断で入院となった.入院時に意識障害を認め,禁飲食で静脈栄養と抗生剤治療を開始した.加療後は意識レベルの改善を認め,入院後6日目に改訂水飲みテストを実施したところ,前傾座位で判定3,右下完全側臥位法で判定5だった.入院後7日目の嚥下造影検査では,前傾座位で嚥下後の下咽頭残留を認め,右下完全側臥位法では嚥下後の中下咽頭残留を認めるが追加嚥下でも誤嚥は認めず,右下完全側臥位法でペースト食摂取を開始した.発熱なく経過し,入院後14日目に前傾座位で嚥下造影検査を施行したところ,嚥下後の咽頭残留を認めず,以後は普通型車椅子で経口摂取の方針とした.退院調整を行い,入院後28日目に自宅退院となった.今回,急性期に完全側臥位法で早期より安全に経口摂取を開始し,座位での摂取へ切り替えが行えた症例を経験したので報告する.