著者
井尻 哲也 中澤 公孝
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.124-131, 2017

近年,北海道日本ハムファイターズの大谷投手やレンジャーズのダルビッシュ有投手に代表されるように,一部のプロ野球投手は初速160km/h 程の速球を投げるようになった.この場合,投じたボールは打者の打撃点まで0.4秒未満で到達する.バットスイングに要する時間や,ヒトが外界の視覚情報を認識してから動作を開始するまでに要する時間を考量すると,複雑な意思決定をする時間は到底ないように思われる.しかしそのような状況下においても,プロ野球の打者は速球と変化球に対応したり,ボール球を見逃したりといった応答を(確率は高くないにせよ)実現することができる.どのようなメカニズムがこのようなパフォーマンスを下支えしているのかを理解することにより,打撃トレーニングの在り方が大きく変わる可能性がある.本解説では,野球の打撃に代表される素早い打撃動作におけるタイミング制御に注目し,タイミング制御の正確性を高めるための要因について議論する.