著者
井尻 哲也 中澤 公孝
出版者
日本神経回路学会
雑誌
日本神経回路学会誌
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.124-131, 2017

近年,北海道日本ハムファイターズの大谷投手やレンジャーズのダルビッシュ有投手に代表されるように,一部のプロ野球投手は初速160km/h 程の速球を投げるようになった.この場合,投じたボールは打者の打撃点まで0.4秒未満で到達する.バットスイングに要する時間や,ヒトが外界の視覚情報を認識してから動作を開始するまでに要する時間を考量すると,複雑な意思決定をする時間は到底ないように思われる.しかしそのような状況下においても,プロ野球の打者は速球と変化球に対応したり,ボール球を見逃したりといった応答を(確率は高くないにせよ)実現することができる.どのようなメカニズムがこのようなパフォーマンスを下支えしているのかを理解することにより,打撃トレーニングの在り方が大きく変わる可能性がある.本解説では,野球の打撃に代表される素早い打撃動作におけるタイミング制御に注目し,タイミング制御の正確性を高めるための要因について議論する.
著者
横山 光 中澤 公孝
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.128-134, 2021-02-18 (Released:2021-04-14)
参考文献数
18

健常者の正常歩行や神経疾患患者の異常歩行の背景にある神経機序の解明は病態理解や効果的なリハビリテーション医療へつながる.本稿では,正常・異常歩行の神経生理学的理解のためにわれわれが進めている筋電図や脳波を用いた研究を概説する.前半は筋シナジーや大脳皮質活動の歩行位相に応じた変調など各神経領域の活動について,後半は脳情報デコーディングによる筋制御様式の検討や大脳皮質と筋の結合性解析など領域間の関連性についての最新の知見を解説し,最後に当該分野における今後の展望を述べる.
著者
中澤 公孝 西村 幸男 荒牧 勇 野崎 大地
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究は「ヒトの中枢神経が有する障害後の再編能力を解明すること」を最終目的とし、①パラアスリートの脳の構造的・機能的再編を明らかにすること、②モチベーションが脳構造と可塑性に与える影響を明らかにすること、を大目した。当該年度は前年度に引き続き、下肢切断と脊髄損傷の研究を継続するとともに、先天性上肢欠損、高次脳機能障害、脳性麻痺を対象とした研究を実施した。下肢切断に関しては、断端周囲筋を収縮させる際の同側運動野の活動が運動経験に関連して増大することが明らかとなった。この結果は、パラアスリートに観察された同側運動野の活動を説明するものであり、高レベルの義足操作に同側運動野活動が貢献することを示唆する。脊髄損傷者の脳構造・機能解析も進み、完全対麻痺者において特異的脳部位の構造的特徴が明らかとなった。この結果は、障がい後の代償反応と使用依存的可塑性発現によって説明することができる。先天性上肢欠損は一例ではあるが、先天的障害に対する代償反応としての下肢支配領域の特異的拡張を見出し、学術的価値が高いことから国際誌に掲載された。高次脳機能障害者に対しては上肢トレーニングに伴う機能的変化と脳構造・機能の変化を縦断的に調べた。その結果、上肢機能改善と共に脳支配領域の拡張、半球間抑制の低下、皮質脊髄路興奮性の上昇などを認めた。脳性麻痺については、パラリンピック金メダリストの解析を進め、水泳トレーニングによる脳再編、脊髄反射の関与に関する新たな知見が得られたことから学術的価値が認められ、国際誌に掲載された。
著者
安田 従生 谷岡 利裕 中澤 公孝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

これまで、酸化ストレスと酸素摂取能力(体力レベル)の関連性は、侵襲的な方法(血液、筋組織等)で評価されてきた。その間、唾液等を用いた非侵襲的な方法も試みられていたが、精度の高い定量的分析が困難であった。しかしながら、近年、唾液を用いた非侵襲的な方法でミトコンドリアDNAコピー数の検出が高い精度で可能になりつつあり、学校体育・スポーツ現場で応用できる機会が到来している。その点で、DNA損傷・修復能力と酸素摂取能力に基づいた唾液中ミトコンドリアDNAコピー数の定量化により、生徒の体力レベルやストレス耐性を迅速にかつ簡易的に特定することができれば、部活動水準を至適レベルで設定することが可能となる。
著者
中西 智也 中川 剣人 小林 裕央 中澤 公孝
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11790, (Released:2020-09-10)
参考文献数
26

【目的】スポーツ歴のある脊髄完全損傷者を対象として,一次運動野の上肢筋脳機能地図をfunctional magnetic resonance imaging(以下,fMRI)法により作成し,機能地図の拡張,および経過年数,運動年数との関係を明らかにすること。【方法】脊髄完全損傷者7 名,健常者6 名を対象としてfMRI 撮像中に上肢筋収縮課題を行い,脳賦活量の定量化および経過年数・運動年数と相関のある脳領域を算出した。【結果】脊髄損傷群において,手指筋収縮時の脳賦活量が健常者群よりも大きかった。また,上腕周囲筋収縮時の脳賦活量は脊髄損傷者群内でも差が見られたが,運動年数との正の相関が見られた。【結論】脊髄損傷後の一次運動野では,障害由来的に手指筋脳機能地図が拡張し,使用頻度依存的に上腕周囲筋脳機能地図が拡張しうる。本結果は,脊髄損傷受傷後に高強度の身体活動が神経学的にも推奨される根拠となりうる。
著者
草深 あやね 小林 裕央 三木 豪 桑田 真澄 工藤 和俊 中澤 公孝 若尾 真治
出版者
一般社団法人 日本機械学会
雑誌
シンポジウム: スポーツ・アンド・ヒューマン・ダイナミクス講演論文集 2018 (ISSN:24329509)
巻号頁・発行日
pp.A-32, 2018 (Released:2019-05-25)

The purpose of this study was to verify the precision of different simulation methods to extrapolate vertical pitch location with the use of some dynamic parameters at ball release measured by TrackMan, and to determine dynamic parameters to predict pitch location. Ball trajectory was calculated by the equation of motion with three different numerical analysis methods (Euler, Runge-Kutta, Dormand Prince) and the vertical pitch location was compared with the measured values. The total number of pitches was 137 pitches. Dormand Prince method showed the smallest errors (5.8 ± 1.4 cm) compared with Euler (6.8 ± 1.4 cm) and Runge-Kutta (6.7 ± 1.4 cm) methods, indicating Dormand Prince was the highest precision method to extrapolate pitch location, but all methods could extrapolate it below the size of ball. Simulation with Dormand Prince method and multiple regression analysis revealed that elevation pitching angle and ball velocity more predicted vertical pitch location rather than other parameters. Furthermore, regression equation structured by these parameters could predict the pitch location with error by less than 10.0 cm (9.5 cm). These results indicate that the elevation pitching angle and ball velocity, i.e. velocity vector of ball, affected the determination of pitching location.
著者
河島 則天 太田 裕治 谷崎 雅志 中澤 公孝 赤居 正美
出版者
日本義肢装具学会
雑誌
日本義肢装具学会誌 (ISSN:09104720)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.222-227, 2003-07-01 (Released:2010-02-25)
参考文献数
11

脊髄損傷者用の交互歩行装具 (Advanced Reciprocating Gait Orthosis: ARGO) に膝関節屈曲-伸展動作を実現するための動力機構を装備した. 第12胸髄完全損傷者による試歩を行ったところ, 通常のARGO使用時の歩行速度, 股関節運動を減ずることなく歩行遊脚期における膝関節動作が実現され, この動作に伴って膝関節の動作に関与する下肢麻痺筋の活動電位の振幅・位相に変化が認められた. 本研究の結果は, 脊髄損傷者の装具歩行における膝関節動作の実現が, 麻痺筋およびそれを支配する脊髄運動ニューロンの活動励起による神経生理学的な効果を生ずる可能性を示唆するものであった.
著者
中澤 公孝 LAVENDER Andrew P LAVENDER Andrew
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

加齢に伴って筋神経系機能は徐々に低下する。それらは高齢者の転到確率の増大に関連することは間違いない。加齢に伴う筋神経系機能の低下を抑止するためには定期的運動が有効である。しかし、神経系、とりわけ大脳運動野のトレーナビリティー、可塑性が加齢に伴ってどの程度変化するのかが十分に明らかになっていないため、有効な運動処方は未だ確立されていない。本研究はそのような観点から、加齢に伴う大脳皮質運動野の可塑性の変化およびそれに対する運動の効果を明らかにすることを目的とする。この目的に接近するために、高齢者を対象とし、有酸素運動トレーニングが運動野の可塑性に与える効果を調べる。当該年度は(1)有酸素運動トレーニングが大脳運動野の可塑性に与える効果を明らかにするために、経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いPAS(paired associative sitimulation)による大脳皮質可塑性の変化を調べるとともに、関連する実験として、(2)大脳皮質の血流に慢性的影響を与えると考えられる喫煙習慣と大脳運動野可塑性との関係に関する実験を計画した。その結果、(1)については有酸素運動の急性的効果を調べる実験を行い、一過性の運動によって大脳皮質可塑性が改善されることを示唆る結果を得た。また(2)については喫煙群で大脳皮質の可塑性が低いことが明らかとなり、現在論文を投稿中である。これらの結果は、大脳皮質運動関連領野の可塑性は当該領域の酸素運搬能力など血流に関連し、これを改善することで向上することを示唆するものである。なお(1)の実験については、12週間の有酸素運動トレーニングの効果を調べる実験を計画し、一部開始したが、震災により中断を余儀なくされた。外国人特別研究員の研究期間はまだ半年余り残しており、実験を再開する予定である。