著者
福井 隆雄 木村 聡貴 門田 浩二 五味 裕章
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.407, pp.37-42, 2006-11-28
参考文献数
5
被引用文献数
1

停止しているエスカレータに乗り込む際に違和感を持つことは多くの人々が経験する現象の1つである.従来は,停止していると認識しているにも関わらず,「動いているエスカレータ用」の運動プログラムが乗り込む前から働き,予測と実際の感覚フィードバックの不一致のため違和感が生じると説明されてきた.また,最初の段差が他に比べて低いといった構造的な不均一性によって違和感が生じるのではないかとも考えられた.本研究では,稼働中のエスカレータ,停止中のエスカレータ,段差の構造をエスカレータに似せた木製階段への運動における運動学的特性を比較検討した.その結果,停止エスカレータに乗り込むまでは,「止まっているエスカレータ」として適切に認識し運動していることが示された.そして,停止エスカレータに乗込んだ後に,身体が前の方に急激に傾く振る舞いが観察された.これは,木製階段では見られず,停止しているエスカレータ固有のものであった.このことから,停止しているエスカレータに乗り込んでから,「動いているエスカレータ用」の運動プログラムが潜在的に駆動されている可能性が示された.また,違和感については停止しているエスカレータ,木製階段への運動における内観評定を行った.内観評定については,木製階段においてはほとんど違和感が生じなかったのに対し,停止しているエスカレータでは乗り込み後,違和感と相関する行動指標が同定された.違和感は構造的不均一性により引き起こされるものではないことが示された.