著者
田代 英之 井所 拓哉 星 文彦
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.131-137, 2014-06-20 (Released:2017-06-27)
被引用文献数
12

【目的】慢性期脳卒中者の地域における移動能力と歩行機能,身体活動の関係についてあきらかにし,移動能力のレベルを決定づける歩行機能について知見を得ることを目的とした。【方法】地域在住の慢性期脳卒中者54名を対象とし,移動能力はFunctional Ambulation Classification of the Hospital at Sagunto(以下,FACHS),歩行機能は快適・最大歩行速度(以下,CWS,MWS),6分間歩行距離(以下,6MWD),身体活動はLife-Space Assessment(以下,LSA)を評価し,各項目間の関係とFACHSにより分類された各群間の各項目の差,各群を分類する歩行機能評価指標とそのカットオフ値を検討した。【結果】FACHSとCWS,MWS,6MWD,LSAとの間に有意な相関関係を認めた。また,地域内歩行群とそれ未満の群でCWS,MWS,6MWDに有意差を認め,地域内歩行者となるためのカットオフ値はCWSで0.61m/s,MWSで0.71m/s,6MWDで213mであった。【結論】慢性期脳卒中者において,地域における移動能力は歩行機能や身体活動と相関関係を認め,歩行機能は地域における移動能力のレベルを決定づける要因となることが示唆された。
著者
井所 拓哉 山鹿 隆義 栗原 秀行 篠原 純史 秋山 淳二 石黒 幸司
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
pp.272, 2011 (Released:2011-08-03)

【目的】 National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)はt-PAの適応判断に用いられ,また在院日数や転帰,ADLとの関連性が報告されており急性期脳卒中リハビリテーションにおいて有用な包括的評価尺度である.しかし,ADL予後予測への応用を検討した報告は少なく,NIHSSからどのように判断するかは定かではない.本研究の目的はNIHSSを用いた急性期評価からADLの中でも重要な歩行自立の予後予測精度,判別基準について検討することである.【方法】 対象は2010年1月から10月に入院した脳卒中患者69例(平均年齢69.9±12.1歳,男性45例,女性24例,脳梗塞39例,脳出血30例).脳卒中病変がテント上以外,病前ADLがmodified Rankin Scale≧3,リハビリテーション治療継続に影響を与える重篤な合併症を有する者は対象から除外した.発症3日以内のNIHSSと急性期または回復期病院の最終退院時のFunctional Independence Measure(FIM)移動項目(歩行)の得点を後方視的に調査した.データの取り扱いについては,当院における個人情報管理の指針を遵守した. 統計学的解析として,歩行自立度はFIM歩行6点以上を自立群,5点以下を非自立群に分け,これら2群を従属変数,NIHSSおよび属性データ(年齢,性別,脳卒中病型,麻痺側)を独立変数としてロジスティック回帰分析(強制投入法)を行った.またNIHSSによる歩行自立の予測能を調べるためにROC曲線(Receiver Operating Characteristic Curve)を作成し,予測精度の指標であるROC曲線下面積(Area Under the Curve:AUC),カットオフ値を求めた.【結果】 対象者の急性期,回復期病院を合わせた入院期間は平均71.9±50.8日,NIHSSは中央値5(範囲1-39),歩行自立群は46例(66.7%)であった.ロジスティック回帰分析の結果,NIHSSのみが歩行自立の可否に関連する有意な独立変数であった(P = 0.0001).ROC曲線から求められたAUCは0.854(P = 0.009),Youden indexで算出した歩行自立のNIHSSカットオフ値は≦9(感度91.3%,特異度78.3%)であった.【結論】 脳卒中患者における発症早期NIHSSからの歩行能力の予後予測について検討した.ROC曲線解析より得られたカットオフ値から歩行自立可否を判別することで,概ね良好な予測精度を有することが示された.NIHSSは発症早期からの予後予測として歩行自立を判断するための評価尺度として有用と考えられた.
著者
井所 拓哉 臼田 滋
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1476, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】体幹はヒトの機能的動作における姿勢制御に大きな役割を果たしている。脳卒中後の運動機能障害は四肢と同様に体幹においても生じており,近年の脳卒中患者を対象としたランダム化比較試験において体幹機能障害への課題特異的介入により,その改善効果は立位バランス能力や移動能力へも転移することが報告されている(Saeys et al., 2012)。脳卒中後の体幹機能障害は歩行速度やTimed Up and Go(TUG)といった移動能力の時間因子と関連することが報告されているが(Verheyden et al., 2006),歩行の質との関係については不明である。本研究の目的は脳卒中片麻痺患者における体幹機能障害と3軸加速度計を用いた歩行指標との関連性について検討することである。【方法】対象は脳卒中片麻痺患者12名(年齢62.4±6.1歳,男性8名,女性4名,脳梗塞8名,脳出血4名,発症後10.5±3.6日)とした。評価項目として,体幹機能はTrunk Impairment Scale(TIS)で評価し,その他に下肢筋力は徒手筋力計(μ-tas F-1,アニマ)を使用して麻痺側,非麻痺側の膝関節屈曲,伸展,足関節背屈,底屈の等尺性筋力を測定し,立位バランス能力はShort Form Berg Balance Scale(SF-BBS),移動能力はTUGと10m歩行テストをそれぞれ測定した。さらに腰部に3軸加速度計(WAA-006,ATR-promotions,sampling rate 200Hz)を装着し,10m歩行テスト中の体幹加速度を計測した。体幹加速度から得られる定量的な歩行指標として,10m歩行中の中央5歩行周期分の加速度信号データを用いて前後成分の特徴的な波形から歩行周期を同定し,歩行変動性の指標として歩行周期時間の変動係数と1平均歩行周期時間シフトした波形との自己相関係数を3軸方向で算出した。さらに歩行の円滑性の指標として周波数解析により得られるharmonic ratio(HR)を3軸方向で算出した。統計学的解析として,TIS合計点および下位項目の静的座位バランス項目,動的座位バランス項目,協調運動項目,麻痺側,非麻痺側の下肢筋力合計値,SF-BBS,TUG,歩行速度と体幹加速度から得られた歩行指標間でのPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を求めた。統計学的解析の有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は研究実施施設における臨床研究倫理委員会の承認を得て実施した。対象者に対しては書面および口頭にて研究内容を説明し,署名にて同意を得た。【結果】各指標の測定結果は平均±標準偏差,TISおよびSF-BBSは中央値(第一四分位数,第三四分位数)で表した。TIS合計点16(14,20)点,下肢筋力は麻痺側3.03±1.28Nm/kg,非麻痺側3.83±1.23Nm/kg,SF-BBS 20(17,25)点,TUG 15.8±8.3秒,歩行速度0.71±0.27m/sであった。体幹加速度から得られた歩行指標は,歩行周期時間変動3.6±1.8%,自己相関係数は前後成分0.66±0.17,側方成分0.47±0.20,鉛直成分0.54±0.24,HRは前後成分2.20±1.25,側方成分2.02±0.75,鉛直成分2.63±1.72であった。体幹加速度から得られた歩行指標との関連性において,TIS協調運動項目は歩行周期時間変動および3軸全ての自己相関係数とHRとの間に有意な相関を認めた(|r|=0.584-0.822,P<0.05)。TUGは歩行周期時間変動,鉛直成分の自己相関係数,前後成分のHRとの間に有意な相関を認めた(|r|=0.626-0.733,P<0.05)。歩行速度は歩行周期時間変動,3軸全ての自己相関係数,前後成分と鉛直成分のHRとの間に有意な相関を認めた(|r|=0.609-0.915,P<0.05)。麻痺側,非麻痺側下肢筋力,SF-BBSは体幹加速度から得られる歩行指標との間に有意な相関を認めなかった。【考察】本研究の結果より,脳卒中後の体幹機能障害や移動能力の時間因子が歩行の変動性や円滑性と有意な相関関係を示したのに対して,立位バランス能力や従来,歩行の時間因子と関連性が報告されている下肢筋力は,歩行の変動性や円滑性と有意な関連を示さなかった。これは脳卒中後の体幹機能の改善が歩行安定性の獲得に寄与し,さらには移動の時間的パフォーマンス向上へとつながり得る可能性を示唆している。本研究の限界として,研究デザインは横断的研究であり,対象は発症後早期に歩行可能な比較的,軽症の不全片麻痺者に限られていた。今後は重症例も含めた縦断的な調査により因果関係を検証する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究から脳卒中患者における歩行の変動性や円滑性に体幹機能障害が影響していることが示された。これは脳卒中後の歩行機能障害への介入の糸口を検討する上で,臨床的に有用な情報を示したと考えられる。