著者
芳野 純 臼田 滋
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.651-655, 2012 (Released:2013-01-30)
参考文献数
18
被引用文献数
9 4

〔目的〕理学療法における臨床能力評価尺度(Clinical Competence Evaluation Scale in Physical Therapy: CEPT)の開発と信頼性を検証すること.〔方法〕CEPTは先に実施した質的研究を参考に53項目とした.対象はすべて理学療法士で,経験年数3年未満の被指導者,その主指導者と副指導者各30名で計90名であった.被指導者と主指導者の検者内信頼性と,主指導者と副指導者間の検者間信頼性を検証した.〔結果〕CEPTの得点は,自己評価である被指導者の点数が,主指導者と副指導者評価より低値であった.項目毎および合計点について,被指導者と主指導者ともに中等度から高い検者内信頼性を認めたが,検者間信頼性は低い結果となった.〔結論〕53項目からなるCEPTを開発し,中等度から高い検者内信頼性が認められた.
著者
大谷 知浩 宮田 一弘 篠原 智行 臼田 滋
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.587-593, 2021 (Released:2021-08-20)
参考文献数
33

〔目的〕入院患者のFalls Efficacy Scale-International(FES-I)の臨床的有用性を検証した.〔対象と方法〕整形外科疾患患者84名を対象に,10 m歩行を獲得した時点において退院時の状態を予測したFES-Iの信頼性や妥当性,および転倒恐怖感の予測精度を検討した.〔結果〕FES-I合計得点の級内相関係数(ICC)(1,1)は0.83と高値であり,生活空間や健康関連QOLと有意な弱い負の相関関係を認めた.また,退院時の転倒恐怖感に影響する因子として10 m歩行獲得時のFES-Iのみが有意な関連要因であり,退院時の転倒恐怖感を判別するFES-Iのcut off値は41点であった.〔結語〕歩行獲得早期に退院時の状態を予測したFES-Iであっても,一定の有用性が示唆された.
著者
芳野 純 二渡 玉江 大谷 健 臼田 滋
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.410-416, 2010-10-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
22
被引用文献数
10

【目的】資格取得後の理学療法士が,自立して理学療法業務を行うために必要な能力を明確にする。【方法】職員指導経験がある理学療法士15名に対して,指導している理学療法士がどのような能力を獲得したときに,理学療法士として自立したと感じるか等の質問をインタビューにより聴取した。インタビュー結果を,質的研究である内容分析を用い分析した。【結果】分析の結果,50のサブカテゴリーと,「理学療法実施上の必要な知識」,「臨床思考能力」,「医療職としての理学療法士の技術」,「コミュニケーション技術」,「専門職社会人としての態度」,「自己教育力」,「自己管理能力」の7つのカテゴリーが形成された。【結論】職員指導経験がある理学療法士は幅広い能力の獲得を望んでいることが分かった。7つのカテゴリーは教育目標分類学による3つの領域を満たしており,理学療法士が自立して業務を行うための到達目標について,一つの目安を示すことができた。
著者
宮田 一弘 朝倉 智之 篠原 智行 臼田 滋
出版者
公益社団法人 日本リハビリテーション医学会
雑誌
The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine (ISSN:18813526)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.555-564, 2021-05-18 (Released:2021-07-15)
参考文献数
23
被引用文献数
1

目的:Mini-Balance Evaluation Systems Test(Mini-BESTest)とBerg Balance Scale(BBS)の臨床的に意義のある最小変化量(MCID)に関するシステマティックレビューを行った.方法:3つのデータベースとハンドサーチにて検索および収集し,Mini-BESTestとBBSのMCIDを報告している論文を特定した.受信者動作特性(ROC)曲線以外の方法でMCIDを決定している論文は除外した.結果:検索の結果,Mini-BESTestでは21編,BBSでは87編の論文が抽出され,取り込みおよび除外基準を満たしたのはMini-BESTestが4編,BBSが6編であった.ROC曲線下の面積が0.7以上であったMCIDはMini-BESTestが1.5~4.5点,BBSが3.5~6点の範囲であった.バイアスリスクの評価の結果,18点満点のうちMini-BESTestが10~16点,BBSが9~14点の範囲であった.結論:Mini-BESTestで1.5~4.5点,BBSで3.5~6点の得点変化には,複数の患者集団において臨床的な意味があり,介入効果の判断や目標設定をする際の基準となる可能性がある.臨床で用いる際には,疾患,病期,介入期間,人種などを考慮したうえで用いる必要がある.
著者
芳野 純 佐々木 祐介 臼田 滋
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.495-499, 2008 (Released:2008-10-09)
参考文献数
7
被引用文献数
4 3

[目的]回復期リハビリテーション病棟退院後患者のADLの変化の特徴と影響を与える関連因子を解明する。[対象]回復期リハビリテーション病棟より自宅退院した患者117名。[方法]退院後のADLに影響を与えると思われる因子,退院時および退院1ヵ月後のFIM運動項目を調査し,統計学的に分析した。[結果]退院時と比較すると退院1ヵ月後のFIM運動項目は有意に低下していた。各項目では,セルフケアが有意に低下しており,排泄コントロールは有意に向上していた。退院時のFIM運動項目が50~69点(半介助群)の患者および通所系サービス利用者が有意に低下していた。[結語]回復期リハビリテーション病棟退院患者は,退院1ヵ月後においてADLが低下する恐れがあり,低下を予防する必要性がある。
著者
竹内 伸行 田中 栄里 桑原 岳哉 臼田 滋
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.53-61, 2006-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
45
被引用文献数
3

Modified Tardieu Scale(MTS)は,関節可動域(Range of Motion ; ROM)と筋の反応の質(Quality of Muscle Reaction ; QMR)を測定する痙縮評価指標で,測定肢位と筋の伸張速度が規定されている特長がある。欧米ではMTSを用いた研究報告は多いが,信頼性や臨床的有用性を検討した報告は散見される程度である。国内ではMTSを用いた報告は見当たらない。今回,脳血管障害片麻痺患者の麻痺側足関節底屈筋を対象に,①ROMとQMRの検者内,検者間信頼性(n = 13),②筋をゆっくり伸張した時のQMRと速く伸張した時のQMRの関連性(n = 28),③QMRとModified Ashworth Scale(MAS)の関連性(n = 30)の検討を行った。本研究の目的は,これらの結果からMTSの臨床的有用性を検討することである。測定肢位は背臥位で,膝伸展位と膝屈曲位とし,足関節底屈筋を他動的に伸張して測定した。筋の伸張速度は,MTSの規定速度であるV1(できるだけゆっくり)とV3(できるだけ速く)を用いた。結果,①ROMの信頼性は,検者内,検者間共にICC = 0.98〜0.99,QMRの信頼性は検者内がκ = 0.73〜1.00,検者間がκ = 0.71〜1.00であり,高い信頼性を認めた。②V1のQMRとV3のQMRの関連性は,膝伸展位は弱い正の相関に止まり(rs = 0.39),膝屈曲位は相関を認めなかった(rs = 0.08)。③V1のQMRとMASの関連性は両肢位共に強い正の相関(rs = 0.89〜0.90)を認めたが,V3のQMRとMASの関連性は両肢位共に弱い正の相関(rs = 0.34〜0.38)に止まった。本研究結果では,MTSの高い検者内,検者間信頼性を認めた。さらにQMRは伸張速度を変えることで非反射性要素と反射性要素を考慮した評価が可能と考えられた。MTSは,痙縮評価指標として臨床的有用性が高いと示唆された。
著者
宮田 一弘 臼田 滋
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.315-319, 2014 (Released:2014-05-22)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

〔目的〕運動前に筋と神経を対象とした2種類の異なる電気刺激が運動パフォーマンスとピンチ力に与える影響を検討することである.〔対象〕健常成人8名とした.〔方法〕木球を掌で回す課題を用い,事前に練習を行いパフォーマンスが安定したところで電気刺激を加えた.電気刺激は,筋刺激(母指球筋,周波数100 Hz,120秒)と末梢神経刺激(正中・尺骨神経,周波数10 Hz,60分)を実施した.電気刺激前後での回転数とピンチ力を測定した.〔結果〕両刺激とも電気刺激前と比較し刺激後に有意な回転数の増加が認められ,変化率を比較すると筋刺激が有意に高値を示した.一方,ピンチ力に変化は認められなかった.〔結語〕短時間の筋刺激は末梢神経刺激に比べて運動パフォーマンスを向上させる方法として有用である可能性が示唆された.
著者
田村 俊太郎 小林 真 斉藤 康行 朝倉 智之 臼田 滋
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.621-627, 2020 (Released:2020-10-20)
参考文献数
29

〔目的〕転倒・転落アセスメントシートを妥当性と簡便さを備えた評価へと改訂すること.〔対象と方法〕1309人の入院患者を対象とした.転落アセスメントシートと転倒の有無からリスク因子の抽出と重みづけを行い,改訂転倒・転落スコアを算出し,その予測精度求めた.改訂スコアに対しては潜在ランクによる危険度の分類を行った.〔結果〕転倒の因子は39項目から7項目となった.予測精度は従来のスコアが感度88.5%,特異度43.0%,Area under the curve(AUC)0.700であり改訂スコアが感度65.6%,特異度71.0%,AUC 0.718であり潜在ランクごとの転倒数には有意差が認められた.〔結語〕改訂スコアによる転倒予測と,潜在ランク理論による危険度の分類は妥当である.
著者
山路 雄彦 渡邉 純 浅川 康吉 臼田 滋 遠藤 文雄 坂本 雅昭 内山 靖
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.G0540, 2005

【目的】<BR>2002年度より理学療法における客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination)(以下、理学療法版OSCE)を開発・実施し、その有用性を報告してきた。理学療法版OSCEは評価を中心としたものであるが、運動療法、物理療法、ADL指導など治療を含めた内容でのOSCEも必要である。本研究では、治療場面を含めた理学療法版advanced OSCEの基本的構築および学外評価者の試行の妥当性を検討することを目的とする。<BR>【方法】<BR>課題は大腿骨頸部骨折と左片麻痺を有する対象者の4課題とした。課題1は徒手筋力テストと筋力増強運動、課題2はトランスファーと物理療法、課題3は立位評価と平行棒内歩行練習、課題4はトランスファーと更衣動作(上衣)として、評価と治療を組み合わせて構成した。評価者は学内評価者(本専攻教員)8名と学外評価者(本学以外養成校の教員)3名、模擬患者は4名で実施した。学外評価者3名は、ステーション1、ステーション3、ステーション4に配置し、学内評価者と共に同一学生を評価した。対象は、総合臨床実習直前の本専攻4年生23名とし、平成15年7月24日に実施した。運営はマニュアルを用いて行った。なお、学外評価者とは事前の打ち合わせは行わず、当日にマニュアルを配布して簡単な説明を実施して試験に加わった。平均点、課題別一致率、同一ステーション・同一課題における一致率を算出し比較、検討を行った。<BR>【結果および考察】<BR>総合点の平均は、400点満点中300.7点であり、評価を中心とした前年度の313.7点と有意な差は認めなかった。課題別一致率は、課題1:66.6%、課題2:55.7%、課題3:60.9%、課題4:60.2%であった。同一ステーション・同一課題別一致率では3ステーション4課題で59.0%、52.0%、54.9%、55.6%であった。これは理学療法版advanced OSCEの難易度は従来のものと変わらないものの、評価者個人の治療感の相違から評価が一致しない可能性が高いことによるものと考えられる。今後、評価基準の見直しとともに個々の治療感の相違を緩衝することが必要であると考える。また、同一ステーション・同一課題別一致率では学外評価者の配置された3ステーション中2ステーションで、学内評価者、学外評価者に有意な差を認めなかった。このことは、理学療法版advanced OSCEにおいても準備を整えれば学外の複数の評価者でも学生を客観的に評価することができることを示唆していた。
著者
篠原 智行 内田 恵理 臼田 滋
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.413-417, 2007 (Released:2007-08-18)
参考文献数
23
被引用文献数
5 4

起き上がりは空間内での運動の切り替えが多く,空間知覚や体性感覚と関連していると考えられる。そこで脳卒中片麻痺患者26名を対象に起き上がり所要時間,Wechsler Adult Intelligence Scale-Revisedの積み木テスト,Stroke Impairment Assessment Scaleの感覚および腹筋力テスト,Brunnstrom stage,体幹可動域,改訂長谷川式簡易知能評価スケールを評価し,これらの関連性について検討した。起き上がり所要時間測定の級内相関係数は0.86と高い信頼性が得られた。起き上がり最小時間,平均時間と積み木テストおよび感覚検査には有意な弱い負の相関が認められ,起き上がりと空間知覚および体性感覚との関連が示唆された。
著者
宮田 一弘 小泉 雅樹 岩井 優香 小林 正和 臼田 滋
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.118-126, 2016 (Released:2016-04-20)
参考文献数
33

【目的】Balance Evaluation Systems Test(以下,BESTest),Mini-BESTest,Brief-BESTest およびBerg Balance Scale(以下,BBS)の得点分布の特性と転倒予測精度を比較することである。【方法】57名の入院患者(脳卒中者と骨折者)を対象とした。退院時に3 つのBESTest とBBS を測定し,退院後6 ヵ月間の転倒の有無を調査した。評価指標の得点分布と転倒予測精度を検討した。【結果】BBS のみに天井効果を認め,歪度からBBS の分布に偏りを認めた。転倒予測精度について,Area under the curve と感度でMini-BESTest が最も高く,特異度ではBBS が最も高かった。【結論】Mini-BESTest は,その得点分布が比較的均一で,中等度の転倒予測精度を有し,動作課題項目も少ないことから有用性の高い評価であることが示唆された。
著者
井所 拓哉 臼田 滋
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1476, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】体幹はヒトの機能的動作における姿勢制御に大きな役割を果たしている。脳卒中後の運動機能障害は四肢と同様に体幹においても生じており,近年の脳卒中患者を対象としたランダム化比較試験において体幹機能障害への課題特異的介入により,その改善効果は立位バランス能力や移動能力へも転移することが報告されている(Saeys et al., 2012)。脳卒中後の体幹機能障害は歩行速度やTimed Up and Go(TUG)といった移動能力の時間因子と関連することが報告されているが(Verheyden et al., 2006),歩行の質との関係については不明である。本研究の目的は脳卒中片麻痺患者における体幹機能障害と3軸加速度計を用いた歩行指標との関連性について検討することである。【方法】対象は脳卒中片麻痺患者12名(年齢62.4±6.1歳,男性8名,女性4名,脳梗塞8名,脳出血4名,発症後10.5±3.6日)とした。評価項目として,体幹機能はTrunk Impairment Scale(TIS)で評価し,その他に下肢筋力は徒手筋力計(μ-tas F-1,アニマ)を使用して麻痺側,非麻痺側の膝関節屈曲,伸展,足関節背屈,底屈の等尺性筋力を測定し,立位バランス能力はShort Form Berg Balance Scale(SF-BBS),移動能力はTUGと10m歩行テストをそれぞれ測定した。さらに腰部に3軸加速度計(WAA-006,ATR-promotions,sampling rate 200Hz)を装着し,10m歩行テスト中の体幹加速度を計測した。体幹加速度から得られる定量的な歩行指標として,10m歩行中の中央5歩行周期分の加速度信号データを用いて前後成分の特徴的な波形から歩行周期を同定し,歩行変動性の指標として歩行周期時間の変動係数と1平均歩行周期時間シフトした波形との自己相関係数を3軸方向で算出した。さらに歩行の円滑性の指標として周波数解析により得られるharmonic ratio(HR)を3軸方向で算出した。統計学的解析として,TIS合計点および下位項目の静的座位バランス項目,動的座位バランス項目,協調運動項目,麻痺側,非麻痺側の下肢筋力合計値,SF-BBS,TUG,歩行速度と体幹加速度から得られた歩行指標間でのPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を求めた。統計学的解析の有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は研究実施施設における臨床研究倫理委員会の承認を得て実施した。対象者に対しては書面および口頭にて研究内容を説明し,署名にて同意を得た。【結果】各指標の測定結果は平均±標準偏差,TISおよびSF-BBSは中央値(第一四分位数,第三四分位数)で表した。TIS合計点16(14,20)点,下肢筋力は麻痺側3.03±1.28Nm/kg,非麻痺側3.83±1.23Nm/kg,SF-BBS 20(17,25)点,TUG 15.8±8.3秒,歩行速度0.71±0.27m/sであった。体幹加速度から得られた歩行指標は,歩行周期時間変動3.6±1.8%,自己相関係数は前後成分0.66±0.17,側方成分0.47±0.20,鉛直成分0.54±0.24,HRは前後成分2.20±1.25,側方成分2.02±0.75,鉛直成分2.63±1.72であった。体幹加速度から得られた歩行指標との関連性において,TIS協調運動項目は歩行周期時間変動および3軸全ての自己相関係数とHRとの間に有意な相関を認めた(|r|=0.584-0.822,P<0.05)。TUGは歩行周期時間変動,鉛直成分の自己相関係数,前後成分のHRとの間に有意な相関を認めた(|r|=0.626-0.733,P<0.05)。歩行速度は歩行周期時間変動,3軸全ての自己相関係数,前後成分と鉛直成分のHRとの間に有意な相関を認めた(|r|=0.609-0.915,P<0.05)。麻痺側,非麻痺側下肢筋力,SF-BBSは体幹加速度から得られる歩行指標との間に有意な相関を認めなかった。【考察】本研究の結果より,脳卒中後の体幹機能障害や移動能力の時間因子が歩行の変動性や円滑性と有意な相関関係を示したのに対して,立位バランス能力や従来,歩行の時間因子と関連性が報告されている下肢筋力は,歩行の変動性や円滑性と有意な関連を示さなかった。これは脳卒中後の体幹機能の改善が歩行安定性の獲得に寄与し,さらには移動の時間的パフォーマンス向上へとつながり得る可能性を示唆している。本研究の限界として,研究デザインは横断的研究であり,対象は発症後早期に歩行可能な比較的,軽症の不全片麻痺者に限られていた。今後は重症例も含めた縦断的な調査により因果関係を検証する必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究から脳卒中患者における歩行の変動性や円滑性に体幹機能障害が影響していることが示された。これは脳卒中後の歩行機能障害への介入の糸口を検討する上で,臨床的に有用な情報を示したと考えられる。
著者
冨田 洋介 新谷 和文 臼田 滋
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ba0286, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 中枢神経損傷に伴う上位運動ニューロン症候群は、陽性徴候と陰性徴候に分類される。伝統的に痙縮は拮抗筋の筋力低下や協調運動障害をきたすとの考えから、痙縮の抑制が重要視された。しかし近年、痙縮は拮抗筋の筋力低下あるいは協調運動障害とは関連が無く、また陽性徴候よりも陰性徴候の方が運動パフォーマンスに関連するとの報告がある。したがって本研究は脳卒中患者と脊髄疾患患者にて陽性徴候と陰性徴候との関連性を検討し、上位運動ニューロン症候群に関する理解を深め、理学療法介入の参考とすることを目的とした。【方法】 対象は当院に入院中の脳卒中患者15名 (68.1±9.1歳)、脊髄疾患患者16名(67.6±10.6歳)とした。測定肢は脳卒中群では麻痺側、脊髄疾患群では利き足(ボールを蹴る側)とした。痙縮はAnkle Plantar Flexors Tone Scale(APTS)のStretch Reflex(SR)を用い、0から4の5段階で評価した。当指標は数値が大きいほど神経学的な筋緊張が亢進した状態を意味する。足関節背屈筋力は背臥位にてベルトにて固定したHand Held Dynamometer(μTAS F-1,アニマ社製)を使用し、3回測定を行いその平均を代表値とした。協調運動障害は、椅子座位にてFoot Pat Test(FPT)、単純反応時間(Simple Reaction Time: SRT)、リズム課題の3種をデジタルカメラ(EX-FC100, CASIO社製)にて測定した。FPTは足関節底背屈をできるだけ速く行い10秒間で足底面が床に触れた回数を指標とした。SRTはメトロノーム(DB-30, Roland社製)の音が鳴ってから足底面が床から離れるまでに要した時間を指標とした。リズム課題は3条件(0.8Hz、1.6Hz、2.4Hz)の各リズムでメトロノームの音に合わせて足関節を底背屈(タップ)し測定した。リズム誤差(指定のリズムから各タップに要した時間の平均を減じた値の絶対値)、リズム変動(各タップに要した時間の変動係数)を 3条件において各々算出した。SRの結果と足関節背屈筋力、SRT、FPT、リズム誤差、リズム変動との関連性の検討にはSpearmanの順位相関係数を算出した。統計処理はIBM SPSS Statistics(Version 19、SPSS Japan社)を使用し、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には書面と口頭で説明を行い、自筆あるいは御家族の代筆により書面に同意を得た。なお本研究は榛名荘病院倫理審査委員会にて承認を受けた。【結果】 SRは脳卒中群では膝伸展位にて0が6名、1が5名、2が2名、3が1名、4が1名、膝屈曲位にて0が5名、1が5名、2が1名、3が2名、4が2名、脊髄疾患群では膝伸展位にて0が6名、1が7名、2が3名、3が0名、4が0名、膝屈曲位にて0が5名、1が5名、2が5名、3が0名、4が1名だった。脳卒中群と脊髄疾患群それぞれ、足関節背屈筋力は6.0±4.3kg、7.6±2.4kg、SRTは0.34±0.07秒、0.28±0.05秒、FPTは19.5±11.8回、29.3±6.9回、リズム誤差は0.8Hzでは0.05±0.07秒、0.01±0.01秒、1.6Hzでは0.03±0.04秒、0.02±0.03秒、2.4Hzでは0.10±0.14秒、0.03±0.07秒、リズム変動は0.8Hzでは0.11±0.07、0.07±0.02、1.6Hzでは0.15±0.13、0.07±0.03、2.4Hzでは0.24±0.17、0.09±0.03だった。痙縮と足関節背屈筋力、SRT、FPT、リズム誤差、リズム変動の相関係数は脳卒中群ではSRとFPTは膝屈曲位がrs=-0.70(p<0.01)、膝伸展位がrs=-0.64(p<0.05)といずれも中等度の相関を示し、その他の指標と有意な関連性は認めなかった(rs=-0.23~0.34)。一方、脊髄疾患群では膝屈曲位SRと2.4Hzリズム誤差がrs=0.52(p<0.05)と中等度の相関を示し、その他の指標と有意な関連性は認めなかった(rs=-0.24~0.26)。【考察】 脳卒中群・脊髄疾患群において足関節背屈筋力はその拮抗筋である下腿三頭筋の痙縮の程度とは関連を認めず、両者は独立した事象であるといえる。また痙縮と協調運動障害の関連性は脳卒中群と脊髄疾患群では異なることが明らかとなったが、これは痙縮の分布や協調運動障害の程度が両群で異なること、また注意・認知機能や感覚障害の関与などが考えられる。加えて本研究は、中枢神経疾患患者の足関節協調運動障害をFPT、SRT、リズム変動、リズム誤差という異なる観点から評価した。これらの方法は簡便に時間的協調運動障害を多面的に評価できると考える。【理学療法学研究としての意義】 脳卒中患者、脊髄疾患患者の足関節において、痙縮による筋力、協調運動障害への関与は限定的だった。したがってこれらの対象には協調性向上や筋力向上を目的とした痙縮抑制治療の効果は低いと考える。
著者
臼田 滋 内山 靖 原田 和宏 松葉 好子 青山 誠 永冨 史子 半田 一登
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】日本理学療法士協会は平成24年度厚生労働省老人保健健康増進等国庫補助金事業として「病期・職種を問わず使用できるリハビリテーション評価指標作成事業」を実施した。本演題では,本事業のデルファイ法を用いた評価指標項目の精選と試作したリハビリテーション評価指標を報告する。【活動報告】病期・職種・疾患の違いに関わらず,患者・利用者の状態像を縦断的に評価するために必要な評価指標項目を精選するために,3回の調査で構成されるデルファイ法を用いた。対象は,臨床経験年数が10~20年の理学療法士120名,作業療法士60名,言語聴覚療法士20名の計200名で,関与する病期と勤務地域に偏りが生じないように配慮した。round1では事前に提示した評価指標120項目に対する必要度(5段階Likert scale)と追加項目を調査した。round2とround3では前回の調査結果を提示した上で,必要度を調査した。それぞれ対象の70%,80%以上が必要と回答した項目を精選した。3回の有効回答率は91.5%,84.5%,81.0%であった。round1にて92項目が追加され,round2で50項目,round3で最終的に22項目が精選された。10分以内に評価でき,結果を多職種で共有できること目指し,最終的に活動・参加の8項目(実行状況と能力),心身機能の7項目の計15項目から構成される評価指標を試作した。各項目について0~4点の5段階評定を採用した。【考察】評価指標項目を科学的な手続きを経て精選し,評価指標を試作することができた。多角的な検証を踏まえ,簡便に患者・利用者の状態像を把握でき,病期や疾患を問わず多職種間で共有しやすい指標となった。今後は,病期別,疾患別の検証や,縦断的な検証が必要である。【結論】デルファイ法を用いて病期・職種を問わず使用できるリハビリテーション評価指標を試作した。
著者
大角 哲也 新谷 和文 臼田 滋
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.151-155, 2013 (Released:2013-06-25)
参考文献数
16

〔目的〕脳卒中患者におけるDual-Taskの指示の仕方の違いによるパフォーマンスへの影響を検討すること.〔対象〕歩行が自立または監視下で可能な脳卒中患者47名とした.〔方法〕Dual-Taskは10 m歩行テストと3桁の数字の逆唱の同時遂行とし,指示の仕方を「歩行と逆唱の両方に同じぐらい集中して下さい」(Dual-Task Complex:DTC)と「主に逆唱に集中して下さい」(Dual-Task Backward digit span:DTB)の2種類で計測した.〔結果〕DTCに比較してDTBにて歩行速度,ケイデンスが低下し,逆唱の回答数,正答数が増加した.〔結語〕脳卒中患者を対象に転倒予測や歩行能力の評価指標としてDual-Taskを用いる場合には,指示の仕方を明確に規定する必要がある.