著者
萩原 素之 井村 光夫
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.441-446, 1991-09-05
被引用文献数
3

水稲種子を湛水土壌中に播種すると, 出芽・苗立ちが不良となるが, 酸素発生剤であるCaO_2を種子に被覆して播種した場合には出芽・苗立ちが促進される. これは, CaO_2が嫌気状態の湛水土壌中で発芽している種子に酸素を供給するためと一般に理解されてきた. しかしCaO_2を被覆した種子でも, 出芽後は, 鞘葉を通じて湛水中または空中から酸素が供給されなければ, 本葉抽出が抑制されることが知られている. 本実験では, それ自身では酸素を発生しないが, 土壌を酸化するKNO_3の種子被覆が湛水土壌中に播種した水稲の出芽・苗立ちにおよぼす効果を調査した. KNO_3被覆種子では無被覆種子に比べて出芽・苗立ちが早まり, 出芽・苗立ち率も高まった. KNO_3の効果は温度が低い場合には, CaO_2とほぼ同等ないし, むしろより顕著な傾向であった. これらの結果は, 湛水土壌中に播種した水稲の出芽・苗立ち不良の主要な原因は湛水土壌中の酸素不足ではないことを示唆している. したがって, 出芽・苗立ちの促進に種子への酸素供給が必須かどうか, また, CaO_2がなぜ出芽・苗立ちを促進するのかがさらに詳細に調査される必要があろう.