著者
井澤 鉄也
出版者
電気通信大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

長期間の身体トレーニング(TR)は脂肪細胞の脂肪分解反応を増強させる.この現象は脂肪細胞のサイクリックAMP(cAMP)以降の酵素であるタンパクキナーゼ(PK)やホルモン感受性リパーゼ(HSL)の活性が増強するためであると考えられている.しかしながら,PKやHSL自身の活性はTRによって増強せず,未だその実体は捉えられていない.脂肪分解反応はcAMP以外にもCa^<2+>やカルモジュリン(CaM)によっても修飾されている.本研究においてはTRによる脂肪分解増強効果をCa^<2+>/CaM系とPKとの関係を検討した.TRによってラット脂肪細胞の脂肪分解反応は著明に増強した.TRラットおよびその対照群の脂肪分解反応はCaM阻害剤であるW-7で有意に抑制された.その抑制作用はTR群において有意に大きかった.このことからTRによる脂肪分解反応の増強機構にCa^<2+>/CaM系に大きく修飾されている可能性が示唆された.そこでさらにPK活性に及ぼすW-7の影響を検討した.細胞抽出液中のcAMPによるPK活性はTR群で低下する傾向にあった.このcAMPによるPK活性はW-7によって両群共に有意に抑制されたが,その抑制率はTR群(31.5%)で対照群(18.9%)に比較して有意に大きかった.このことから,TR群の脂肪細胞のcAMPによるPK活性の調節はCa^<2+>/CaM系に大きく依存していることが明らかになった.また,TRラットの脂肪細胞では細胞内Ca^<2+>濃度が有意に高く,これがCa^<2+>/CaMにより大きく修飾されているPK活性の調節に役だっている可能性も示唆された.