著者
小竹 諭 井野 拓実 大角 侑平 上原 桐乃 吉田 俊教 前田 龍智 鈴木 航 川上 健作 鈴木 昭二 森口 智也 大越 康充
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1393, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】扁平足や回内足に伴う下肢アライメント異常は膝関節のストレスを増加させる一因とされており,その治療として内側アーチサポート(medial arch support:以下MAS)の着用が有効であるとの報告が散見される。演者らはMASが有効であった下肢アライメント異常を伴う膝痛症例の運動学的解析を行い,MAS着用により歩行立脚期における脛骨の内旋変化量が減少し,これが膝痛改善の一因であると報告した。しかしMASが奏功する運動力学的メカニズムについては十分に解明されていない。本研究の目的は,下肢アライメント異常に起因する膝痛症例においてMAS着用による歩行の運動力学的変化を解明することである。【方法】平成20年8月から平成21年3月までの期間,運動後の膝痛を訴えて当院を受診した症例でMRIを施行したものは40例であった。そのうち理学所見とMRI所見から半月板損傷と靭帯損傷が否定された症例は35例であり,さらにknee-inと回内扁平足の下肢アライメント異常が両側に認められた症例が31例であった。それらの症例でMASが処方されたものが25例であった。そのうち経過観察が不可能であった7例を除外しかつ症状の改善が得られた18例中,動作解析を実施し得た11例22膝(男性5例,女性6例,年齢15.4±1.7歳)を対象とした。疼痛改善の指標としてVisual Analog Scale(以下VAS)を用いた。MAS着用により運動後のVASが平均6.9±1.2から3.3±2.6へと有意に改善していた。下肢アライメント異常は熟練した医師および理学療法士により視認されたknee-inや回内扁平足とした。Knee-inの定義は片脚スクワット時に前額面上において膝関節が足部の前後軸に対して内方に偏位するものとした。また,回内扁平足は荷重時に距骨下関節が過度に回内し,内側縦アーチが著しく低下するものとした。内側縦アーチ低下はWilliamsらの舟状骨高を用いて評価した。全症例において舟状骨高は正常値より低値を示した。研究で用いたMASは8mm高の内側縦アーチを原則としたが,第3中足骨頭部の中足骨パッドおよびヒールカップも追加された。計測は三次元動作解析システム(赤外線カメラ4台,床反力計2枚,各々120Hz)を用い定常歩行を計測した。ポイントクラスター法および逆動力学計算により外部モーメントを算出した。さらに床反力計により足圧中心位置を確認した。算出されたデータは一歩行周期を100%として規格化し,足関節と膝関節におけるモーメントのピーク値および平均値,そして足圧中心位置について,各々MAS着用とMAS着用なしで比較検討した(paired t-test,p<0.05)。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,倫理委員会の承認,また計測前に十分なインフォームド・コンセントを得て実施された。【結果】外部足関節外反モーメントはMAS着用により立脚中期において有意に減少した。また,そのピーク値も有意に減少した。外部膝関節内反モーメントはMAS着用により立脚中期において有意に増加し,またそのピーク値も有意に増加した。外部脛骨内旋モーメントはMAS着用により立脚中期において減少傾向であった。足圧中心位置は立脚期全体を通してMAS着用により11.9±2.8mm有意に内側へ移動した。【考察】本研究結果から,歩行立脚期においてMAS着用により外部足関節外反モーメントは減少し,外部膝関節内反モーメントは増加した。さらに,外部脛骨内旋モーメントは減少する傾向であった。また,MAS着用により足圧中心位置はより内側へ移動した。以上より床反力ベクトルの作用線は足関節中心へ近接し,かつ膝関節のより内側を通過したと推察され,この変化が関節モーメントの変化の主要因と考えられた。MAS着用による外部足関節外反モーメントの減少は足部の過回内を抑制し,また外部膝内反モーメント増加や外部膝内旋モーメント減少は,よりhigh demandingな動作においてknee-inのような下肢アライメント異常を抑制する可能性が考えられた。扁平足やknee-inなどの下肢アライメント異常によって膝蓋腱や膝周囲筋付着部は過度な張力を受ける。オーバーユースによるこれらの張力の蓄積は腱炎や腱周囲炎を惹起することが考えられる。MAS着用による運動力学的変化はこれらの張力の蓄積を軽減し,運動により生じる膝痛軽減に有効であることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】下肢アライメント異常に起因する膝痛症例においてMAS着用が膝痛の軽減に有効であるメカニズムは十分に解明されてこなかった。本研究はMAS着用により足関節のみならず膝関節においても運動力学的変化が生じることを示した。これはMASの有効性におけるメカニズムの一端を明らかにしたと考えられる。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0512, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。