著者
三木 貴弘 高﨑 博司 寒川 美奈 竹林 庸雄
出版者
一般社団法人 日本脊椎脊髄病学会
雑誌
Journal of Spine Research (ISSN:18847137)
巻号頁・発行日
vol.12, no.6, pp.825-830, 2021-06-20 (Released:2021-06-20)
参考文献数
32

腰痛は世界や本邦において大きな問題となっており,非特異的腰痛は7割程度が4~6週で改善すると言われている一方で,残りの30%ほどは慢性化する.慢性化する非特異的腰痛において,構造的或いは機能的な問題に加えて,心理社会的因子が慢性化や改善の遅延化の原因であることが広く知られている.そこで,生物心理社会モデルに基づいて非特異的腰痛を考えることが必要である.また,腰痛をひとつの病態として捉えるのではなく,特徴ごとにsubgroup化し,それにより特異的な介入の方向性を見極めるclassificationやstratified careの概念が発展している.生物心理社会モデルに基づく非特異的腰痛に対する理学療法マネジメントは罹患期間により異なる戦略が取られ,慢性期においてはより多面的な戦略が必要である.近年提唱されている新たな介入として,“Making Sense of Pain”,“Exposure with Control”,“Lifestyle Change”の三つの構成からなる多面的な介入方法であるcognitive functional therapy(CFT)があり,一定の有効性が報告されている.腰痛における8割が手術の必要がない非特異的腰痛であることからも,理学療法の進化は腰痛に苦しむ人達の大きな一助となる可能性がある.
著者
寒川 美奈 山中 正紀 片寄 正樹 大西 祥平
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C1024, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】 スキーは,日本で最も楽しまれているスポーツのうちの1つである.そのなかでフリースタイルスキー(モーグル)は競技としては新しく,コブ斜面を一気に滑走し,2回のエアー(ジャンプ)を組み合わせて行うという種目であり,スキー競技の中でも危険度が高いスポーツであるといえる. 今回,2003年10月14日から11月1日までスイスにて行われた全日本フリースタイルスキーモーグルチームの合宿に理学療法士として参加する機会を得た.その際実施したメディカルチェックの結果,7名中7名にてOber test陽性,うち3名に膝蓋腱炎(内側)の既往があった.1名は,チェック実施時にも同部の疼痛を有していた. 我々はフリースタイルモーグルスキー選手にみられた膝蓋腱炎の発生メカニズムについて考察し,若干の知見を得られたので報告する.【症例】 27歳女性.モーグルスキー歴9年.4年程前よりスキー練習中膝蓋腱内側に疼痛有し,超音波及び電気治療などを受けていたが,増大時にはステロイド注射にてコントロールしていた.2002年12月右MCL損傷後,膝蓋腱の疼痛増大していた.2003年10月初期評価実施.両Frog eye.右Patella下位.筋力右膝関節伸展筋,両股関節外転筋,内転筋低下.Ober test陽性.大腿四頭筋柔軟性に左右差あり.片脚スクワットでknee in傾向.膝蓋骨可動性低下.圧痛は膝蓋骨下内側部にあり,運動開始時,あるいは疲労を感じてくると疼痛出現.自発痛はなかった.これらの評価に基づき,超音波,腸脛靭帯や大腿四頭筋に対するストレッチング,膝蓋骨に対するモビライゼーション,3 point Straight Leg Raising,片脚スクワット,片脚バランスなどを指導した.また腱炎に有効とされる遠心性収縮を用いての筋力強化も行った.練習後には,必ずアイシングを行わせた.【結果】 合宿中であったにもかかわらず,疼痛をコントロールすることができた.疼痛は膝蓋骨下内側部にのみ限局して存在したが,他部位に広がることはなかった.膝蓋骨の可動性も増大した. 【考察】 疼痛をコントロールできた理由として,アイシング実施による炎症の最小限化,膝蓋骨の可動性が増大,遠心性収縮を利用した筋力強化などを用いたためと考えられた. スキー滑走姿勢が常に体幹前傾,股関節屈曲・膝関節屈曲位であるため,腸脛靭帯は短縮しやすい肢位であるといえる.その際下肢は外旋位をとり,膝蓋骨は外側変位となり,膝蓋腱内側部にストレスが加わると考えられた.したがって,今後は本症例だけではなく同様の受傷を回避するために,他選手にも腸脛靭帯のストレッチングを意識的に実施させるべきであると考えられた.
著者
栗原 元子 寒川 美奈 菅野 宏介 奥秋 保
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0377, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】変形性股関節症は,股関節構成体に慢性かつ進行性に変化を生じ,疼痛や関節可動域制限などの症状を呈することで,日常生活動作にも制約を生じてくる疾患である。変形性股関節症患者に対する保存療法実施の際に,機能評価が同程度の結果であっても患者によって現状の受け止め方が異なり,評価と実際が異なるように感じられることもある。変形性股関節症患者の性格特性を調査した報告(弓ら,2010年)では,半数以上がモーズレイ性格テストにおける9つの類型のうち外向性が高く神経症的傾向が低い類型であると認められたものの,評価と性格特性の関連については示されていない。主観的な評価である健康関連QOL(Quality of Life:以下QOL)結果と第三者を介した評価の相関性が高くないとの報告(岩名ら,2007年)もある。また,保存療法を行う変形性股関節症患者の健康関連QOLと性格特性の関連につて調べられた報告はまだみられない。そこで本研究では,変形性股関節症患者の健康関連QOLと性格特性の関連について調査した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究計画はヘルシンキ宣言に基づき,所属の承認を得てから実施した。対象者には研究の趣旨および方法,研究への参加の任意性と個人情報の保護について書面および口頭で説明を行い,書面による同意を得てから行った。【方法】対象者は,当院受診中の変形性股関節症患者のうち,短距離歩行には歩行補助具を必要とせずに自力での通院が可能で,本研究に同意を得られた10名(女性10名,平均年齢69.2±8.3歳)とした。健康関連QOLの指標としてWestern Ontario and McMaster Universities osteoarthritis index LK3.1(以下WOMAC),性格特性の検査として日本版NEO-FFI(NEO Five Factor Inventory:以下NEO-FFI)を用いて自己記入式により評価した。また,健康関連QOLと他者評価の関連について検証するため,日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下JOAスコア)を測定した。NEO-FFIは,素点から得られた傾向(かなり低い,低い,平均,高い,かなり高い)を用いて解析した。両側の変形性股関節症患者については,JOAスコアは,左右のうち低い方の得点を用いた。また,歩行と日常生活動作の合計点(以下ADL)と疼痛の点数も別に算出した。WOMACの各下位尺度の点数とNEO-FFIの各次元の傾向,NEO-FFIの各次元の傾向とJOAスコアの各点数,WOMACとJOAスコアの疼痛,WOMACにおける日常行動困難度とJOAスコアのADLそれぞれの関連性について,Spearmanの順位相関係数を用いて検討した。統計解析ソフトは,R-3.0.2(Windows版)を用い,有意水準を5%未満とした。【結果】WOMACの点数は,疼痛5.2±2.8点,こわばり1.7±1.3点,日常行動の困難度15.1±8.1点であった。NEO-FFIの各次元の傾向については,神経症傾向が低い5名,平均5名,外向性傾向は低い2名,平均4名,高い4名,開放性傾向が低い5名,平均4名,高い1名,調和性傾向については低い3名,平均3名,高い2名,かなり高い2名,誠実性ではかなり低い1名,低い2名,平均5名,かなり高い2名であった。JOAスコアについては63.5±10.9点,疼痛19.0±5.7点,ADL29.0±6.1点であった。また,NEO-FFIの高外向性とJOAスコアおよびJOAスコアの疼痛において高い相関(ρ=0.77-0.82)を認めた。【考察】性格特性の外向性とJOAスコアに関連性があったことから,他者評価と性格特性に関連がある可能性が示唆された。一方,健康関連QOLと性格特性には関連が認められなかった。他者評価は第三者を介する評価であるが,健康関連QOLは自己記入式であり,評価方法の相違が性格特性との関連に影響したと考えられた。他者評価の場合,評価される側の性格によって評価時の表出が実際と異なる可能性もあると思われる。また,性格特性が他者評価には影響するといわれるが,健康関連QOLには影響しないことが,臨床の場で評価と実際が異なるように感じる一因かもしれない。本研究結果においては対象者が少なく,性格検査の結果は5次元からなり,1次元からでは性格特性を解釈しきれないことがあり,今後症例数を増加し更なる検討が必要であると思われた。【理学療法学研究としての意義】臨床場面において,変形性股関節症患者に対する第三者を介した評価は,外向性が高い傾向であると評価が高くなるというような性格特性の影響を受ける可能性が考えられた。また,主観的な健康関連QOLに着目する重要性についても示唆する結果であると思われる。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0512, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。
著者
寒川 美奈 山中 正紀 片寄 正樹 大西 祥平
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C1024-C1024, 2004

【はじめに】<BR> スキーは,日本で最も楽しまれているスポーツのうちの1つである.そのなかでフリースタイルスキー(モーグル)は競技としては新しく,コブ斜面を一気に滑走し,2回のエアー(ジャンプ)を組み合わせて行うという種目であり,スキー競技の中でも危険度が高いスポーツであるといえる.<BR> 今回,2003年10月14日から11月1日までスイスにて行われた全日本フリースタイルスキーモーグルチームの合宿に理学療法士として参加する機会を得た.その際実施したメディカルチェックの結果,7名中7名にてOber test陽性,うち3名に膝蓋腱炎(内側)の既往があった.1名は,チェック実施時にも同部の疼痛を有していた.<BR> 我々はフリースタイルモーグルスキー選手にみられた膝蓋腱炎の発生メカニズムについて考察し,若干の知見を得られたので報告する.<BR>【症例】<BR> 27歳女性.モーグルスキー歴9年.4年程前よりスキー練習中膝蓋腱内側に疼痛有し,超音波及び電気治療などを受けていたが,増大時にはステロイド注射にてコントロールしていた.2002年12月右MCL損傷後,膝蓋腱の疼痛増大していた.2003年10月初期評価実施.両Frog eye.右Patella下位.筋力右膝関節伸展筋,両股関節外転筋,内転筋低下.Ober test陽性.大腿四頭筋柔軟性に左右差あり.片脚スクワットでknee in傾向.膝蓋骨可動性低下.圧痛は膝蓋骨下内側部にあり,運動開始時,あるいは疲労を感じてくると疼痛出現.自発痛はなかった.これらの評価に基づき,超音波,腸脛靭帯や大腿四頭筋に対するストレッチング,膝蓋骨に対するモビライゼーション,3 point Straight Leg Raising,片脚スクワット,片脚バランスなどを指導した.また腱炎に有効とされる遠心性収縮を用いての筋力強化も行った.練習後には,必ずアイシングを行わせた.<BR>【結果】<BR> 合宿中であったにもかかわらず,疼痛をコントロールすることができた.疼痛は膝蓋骨下内側部にのみ限局して存在したが,他部位に広がることはなかった.膝蓋骨の可動性も増大した. <BR>【考察】<BR> 疼痛をコントロールできた理由として,アイシング実施による炎症の最小限化,膝蓋骨の可動性が増大,遠心性収縮を利用した筋力強化などを用いたためと考えられた.<BR> スキー滑走姿勢が常に体幹前傾,股関節屈曲・膝関節屈曲位であるため,腸脛靭帯は短縮しやすい肢位であるといえる.その際下肢は外旋位をとり,膝蓋骨は外側変位となり,膝蓋腱内側部にストレスが加わると考えられた.したがって,今後は本症例だけではなく同様の受傷を回避するために,他選手にも腸脛靭帯のストレッチングを意識的に実施させるべきであると考えられた.