著者
岡田 将人 京藤 拓未 金田 直人 佐々 遼介 三浦 拓也 大津 雅亮
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会誌 (ISSN:09120289)
巻号頁・発行日
vol.87, no.5, pp.467-474, 2021-05-05 (Released:2021-05-05)
参考文献数
18

This paper presents the application of a noncoated carbide drill having a sharp cutting edge and multistage point angle (drill A) for drilling carbon fiber reinforced thermoplastics (CFRTP). The cutting characteristics were evaluated by comparing the drill A with a diamond-coated carbide drill having a constant point angle (drill B). The influence of the contact state between the cutting edge and carbon fiber on the cutting force was evaluated using a CFRTP with a unidirectional fiber. The drill A exhibited a maximum thrust force at the drill rotation angle where the fiber orientation and cutting edge travel direction matched. It was found that the thrust force of the drill A was lower than that of the drill B at any drill rotation angle. Moreover, the thrust force of the drill A was always lower than that of the drill B during the drilling of the CFRTP with a plain-woven fabric. Additionally, the uncut fiber of the drilled hole obtained by the drill A was more satisfactory than that obtained by the drill B. The temperature of the area near the cutting point during the drilling was lower in the drill A than in the drill B. In the drill A, the thrust force tended to increase with the number of drilled holes. However, no considerable reduction in the drilled hole quality was observed at 200 holes.
著者
佐藤 圭汰 小俣 純一 遠藤 達矢 三浦 拓也 岩渕 真澄 白土 修 伊藤 俊一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0183, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに】肩こりは平成22年および25年の厚生労働省国民生活基礎調査において,男女ともに高い有訴率で,改善が急務とされる病態の一つである。その中でも,肩こり患者の僧帽筋の筋硬度は健常者と比較して有意に高値を示すという報告があり,理学療法介入による改善が期待できる一つの因子である。鎮痛効果を目的とした電気刺激療法は,一般的に経皮的神経電気刺激法(TENS)が用いられるが,今回はTENSと比較し皮膚抵抗が少ない高電圧電気刺激法(HVS)に着目した。HVSは鎮痛効果に加え,筋ポンプ作用による血液循環増大効果を持つことが報告されており,肩こり患者における僧帽筋の筋硬度を改善させる可能性がある。しかし,肩こり患者に対するHVSの効果は検討されていない。そこで本研究の目的は,肩こり患者に対するHVSの即時的効果と筋硬度に対する介入の意義を検証することである。【対象と方法】対象は同意を得た肩こりを有する成人女性15名(40.3±8.4歳,155.4±2.6cm,58.7±10.5kg)。HVSはPHYSIO ACTIVE HV(酒井医療社製)を用い,設定を周波数50Hz・パルス持続時間50μsecとして,対象者が不快に感じない電流強度で10分間実施した。筋硬度の測定は超音波画像診断装置Aixplorer(SuperSonic Imagine社製)を用いた。測定肢位は両上肢を体側につけた腹臥位として,僧帽筋上部線維の筋硬度を測定した。筋硬度はHVS前・直後・5分後,疼痛(VAS)はHVS前後に評価を実施した。統計的解析は治療前後の筋硬度変化に多重比較法,治療前後のVASに対応のあるt検定を用いた。有意水準は全て5%とした。【結果】僧帽筋の平均筋硬度はHVS前32.9±14.0kPa,直後30.0±11.2 kPa,5分後23.8±6.6 kPaで,HVS前・直後に比べて5分後に有意な低下を示した(p<0.05)。平均VASはHVS前52.6±22.8mm,HVS後31.8±21.3mmで,HVS前に比べHVS後に有意な低下を示した(p<0.01)。また,筋硬度の改善が疼痛の改善に寄与した者10名(66.7%)で,筋硬度の改善が疼痛の改善に寄与しない者2名(13.3%)であった。【結論】結果からHVSは筋硬度を低下させる効果を有し,肩こり患者の疼痛を改善する方法のひとつとなり得ることが示された。疼痛改善に用いる筋収縮後の弛緩期を利用した動的ストレッチは,血流改善による筋痛の緩和が報告されている。土井らは動的ストレッチ効果の持続時間を検証し,血液量が増加し筋温が上昇していくことで筋硬度の低下,筋伸張性が向上すると述べ,介入前に比べ直後,10分後と有意に効果が向上することを報告した。今回,HVSにより筋収縮が繰り返され,動的ストレッチと類似した効果が得られたため,筋硬度の改善,疼痛改善につながったと考える。しかし,筋硬度の改善が疼痛の改善に寄与しない者もみられた。肩こりの原因は多岐に渡るため,筋硬度に対するアプローチはあくまで肩こり患者の疼痛を改善させる方法の一つと考え,実施することが重要と考える。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 武田 直樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101189, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】体幹の安定性は従来,腹直筋や脊柱起立筋群などの体幹表層筋群の同時収縮により提供されると考えられてきた.しかしながら近年,これらの筋群の過剰な同時収縮はまた腰椎にかかる圧迫力を増加させ,腰痛発症のリスクとなり得るということも報告されており,体幹表層筋への依存は腰椎の安定性に対して負の影響をもたらす可能性が示唆されている.対して,腹横筋や腰部多裂筋を含む体幹深層筋群は直接的に,もしくは筋膜を介して間接的に腰椎に付着するため,その活動性を高めることで腰椎安定性を増加させることが可能であると言われている.しかしながら,増加した体幹深層筋群の活動性が表層筋群の活動性にどのような影響を与えるかについて同一研究内で報告したものは見当たらない.本研究の目的は,体幹深層筋群の活性化が表層筋群の活動性に与える影響について筋電図学的に調査することである.【方法】対象は,体幹や下肢に整形外科学的または神経学的既往歴の無い健常者6名(22.4 ± 1.1歳,166.9 ± 2.0 cm,60.5 ± 3.6 kg)とした.筋活動の記録にはワイヤレス表面筋電計(日本光電社製)を周波数1000 Hzで使用し,対象とする筋は右側の三角筋前部線維,腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋-腹横筋,脊柱起立筋,腰部多裂筋とした.実験プロトコルに関して,立位姿勢にて重量物(2,6 kg)を挙上させる課題を異なる条件にて実施した.条件は特に指示を出さずに行う通常挙上と,腹部引きこみ運動(Abdominal drawing-in maneuvers;ADIM)を行った状態での挙上の2つである.各条件において測定は計5回ずつ行い,得られた筋電データはband-pass filter(15-500 Hz)を実施した後にroot-mean-square(RMS)にて整流化した.全課題を終えた後に各筋における5秒間の最大等尺性収縮(MVIC)を取得し,これを用いて筋電データの標準化を行った.重量物挙上のonsetを加速度計にて決定し,その前後200 ms間の筋電データを解析に使用した.統計解析は各課題(2-N;2 kg-通常挙上,2-A;2 kg-ADIM挙上,6-N;6 kg-通常挙上,6-A;6 kg-ADIM挙上)の比較に一元配置分散分析(SPSS Advanced Statistics 17,IBM 社製)を使用し,post-hocにはFisher’s LSDを用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究の被験者には事前に書面と口頭により研究の目的,実験内容,考えられる危険性,データの取り扱い方法等を説明し,理解と同意を得られた者のみ同意書に署名し,実験に参加した.本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った.【結果】外腹斜筋は6-A挙上時,6-N挙上と比較して有意に活動量が減少し(p<0.05), 2-N挙上と比較して6-N挙上では有意に活動量が増加した(p<0.05).内腹斜筋-腹横筋では2,6 kgのそれぞれでADIM挙上時,通常挙上と比較して有意に活動量が増加した(p<0.05).脊柱起立筋では6-A挙上時,6-N挙上と比較して有意に活動量が減少し(p<0.05), 2-N挙上と比較して6-N挙上では有意に活動量が増加した(p<0.05).腹直筋および腰部多裂筋においては有意差は認められなかった.【考察】ADIMを行った状態での挙上課題において,外腹斜筋および脊柱起立筋では筋活動量の減少が認められた.このことは重量物挙上による体幹動揺に抗するための体幹表層筋群への努力要求量が減少したことを示唆するかもしれない.この努力要求量の減少は,ADIMにより体幹深層筋群が活性化され,これに伴う体幹安定性の増加がもたらしたものと推察される.実際に内腹斜筋-腹横筋ではADIM挙上時に有意にその活動量が増加している.腹直筋や腰部多裂筋において有意な差が認められなかったことについては,主に体幹伸展モーメントを必要とする本研究の課題特性が影響したものと考えられる.体幹深層筋群の筋活動計測に対してはこれまでワイヤー筋電計などの手法が用いられてきたが,本研究結果はそれら先行研究と同様の結果が得られたため表面筋電においても体幹深層筋群の活動性を捉えることが可能であると示唆された.また,体幹表層筋群の同時収縮は腰椎に対して力学的負荷増加といったリスクを伴う可能性があるため,その活動性を減少させる体幹深層筋群の活性化は腰椎の安定性に対して重要な働きを持つものと考えられる.この体幹深層筋群の活性化による腰椎安定性増加は,将来的な腰痛発症を予防するという観点から臨床家が取り組むべき課題であると思われる.【理学療法学研究としての意義】本研究により,体幹深層筋群の活性化が体幹表層筋群の活動性を減少させることが示唆された.本所見は将来的な腰痛発症を防ぐためにも重要な知見であり,腰痛に対するリハビリテーションの一助となるものと考える.
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0512, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。
著者
三浦 拓也 山中 正紀 武田 直樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2229, 2011

【目的】近年,慢性腰痛症において脊椎に直接付着する体幹深部筋群,特に腹横筋の機能不全が注目されている.また,この腹横筋の機能不全に対して過去に行われた介入研究では疼痛の変化や質問紙でのみ評価しているものが多く,筋厚の変化といった形態学的な視点からみたエクササイズ(ex.)の効果や,より機能的な肢位における腹横筋の活動に与える影響について検討している研究は見当たらない.そこで本研究の目的は,超音波画像を使用して慢性腰痛症例に対する体幹安定化ex.が腹横筋の筋厚や疼痛,機能障害レベルに及ぼす効果を究明することとした.<BR>【方法】3か月以上続く慢性腰痛を有する本学学生19名を対象とし,介入期間中に体幹安定化ex.を行うex.群と,対照としてのcontrol.群の2群に群分けし,被験者をランダムに割りつけた(ex.群:12名,con.群:7名).介入期間は10週間とし,開始前(baseline),中期(5週目;5 wks),終了後(10週目;10 wks)にそれぞれ3回計測を行った.期間中使用する体幹安定化エクササイズはAbdominal Drawing-in Maneuvers(ADIM)とし,10秒保持を10回繰り返すことを目標として1日15分,週3回行った.また,被験者にはエクササイズ実施日などを記入するためのself check sheetを配布し,最終日に回収した.con.群には期間中に体幹安定化ex.を実施しないよう指示した.次に,計測手順として,まず始めに各質問紙表(Oswestry Disability Index 2.0;ODI 2.0,Roland Morris Disability Score;RMD,McGill Pain Questionnaire;MPQ,VAS)に回答してもらい,その後,背臥位,座位,立位,Active Straight Leg Raise(ASLR)といった異なる4姿勢における腹横筋の筋厚(安静時,動作時)を,各々3回ずつ,超音波画像により計測した.ASLRは計測側に対して同側,対側での下肢挙上を行った.計測機器はEsaote社製MyLab25(リニアプローブ,12MHz)を用いた.データ処理は各群,各姿勢,各時点における腹横筋筋厚の3回計測の平均,また各質問紙のスコアを算出した.筋厚,筋厚変化率に関する統計解析は反復測定による一元配置分散分析を用いて行い,post hoc testにはBonferroniを使用した.質問紙スコアに関してはWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した.有意水準は0.05未満とした.<BR>【説明と同意】本研究の被験者には事前に書面と口頭により研究の目的,実験内容,考えられる危険性等を説明し,理解と同意を得られた者のみ同意書に署名し,実験に参加した.本研究は本学保健科学研究院の倫理委員会の承認を得て行った.<BR>【結果】まず期間中,ex.群の1名が音信不通によりドロップアウトしたため,解析の対象から除外した.ex.群の腹横筋安静時筋厚は5 wks,10 wksにおいて,背臥位に比して座位,立位で有意に増加した(p<0.001).同様に,ex.群の腹横筋動作時筋厚では座位,立位においてBaselineに比して5 wks,10 wksで有意な筋厚増加を認めた(p<0.05).ex.群のASLRに関しては5 wks,10 wks時に同側,対側下肢挙上共に安静時に比して動作時に有意な筋厚の増加を認めた(p<0.001).しかしながら,以上の3結果はcon.群では同様の結果は認められなかった.VAS,ODI,MPQに関して,ex.群でのみBaselineと10 wksの間で有意差が認められた(p<0.01).<BR>【考察】本結果から,ex.群の腹横筋安静時,動作時筋厚は座位,立位で増加し,またASLRは動作時に有意に筋厚が増加するようになった.過去に,健常者で見られる腹横筋の自動的収縮が慢性腰痛症例では見られなかったという報告がある.つまり,本研究から慢性腰痛症例に見られる腹横筋の機能不全がex.により改善したために座位,立位といったより機能的な肢位への姿勢変化に対して腹横筋の自動的収縮を引き出せるようになり,更には腹横筋を活動させやすくなったことが動作時筋厚の増加につながったことを示す.動作時筋厚の増加もex.の効果を示す指標ではあるが,これがより機能的な肢位における腹横筋の自動化された応答活動につながらなければ真に腹横筋の機能が改善したとは言えない.故に,腹横筋の自動化された収縮とはADIMのような意識的な収縮とは異なり,より体幹の安定性に対する腹横筋の本質的な機能を反映すると考えられる.質問紙スコアに関しては,ex.による脊椎安定性の向上が機械的ストレスを減弱させ,これが疼痛や機能不全の改善につながったものと考える.しかしながらcon.群では同様の結果が認められなかったことから,con.群では腹横筋の機能不全が持続していることを示唆する.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究から,体幹安定化ex.の効果を検討する際は,腹横筋の自動化された収縮に着目して評価することが重要であることを示した.
著者
三浦 拓也 山中 正紀 森井 康博 寒川 美奈 齊藤 展士 小林 巧 井野 拓実 遠山 晴一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】体幹に属する筋群はその解剖学的特性からグローバル筋群とローカル筋群の2つに大別される。近年,この体幹ローカル筋群に属する腹横筋や腰部多裂筋の機能に注目が集まり,様々な研究が世界的に行われている。腹横筋の主たる機能として,上下肢運動時における他の体幹筋群からの独立的,かつ先行的な活動や腹腔内圧の上昇,仙腸関節の安定化などが報告されている。また,腰部多裂筋に関しては腹横筋と協調して,また両側性に活動することで腰椎へ安定性を提供しているとの報告がある。これら体幹ローカル筋群は主に深層に位置しているため,その評価には従来,ワイヤー筋電計やMRIといった侵襲性が高く,また高コストな手法が用いられてきたが,近年はその利便性や非侵襲性から超音波画像診断装置による筋厚や筋断面積の評価が広く行われている。腹横筋と腰部多裂筋は協調的に活動するとの報告は散見されるが,両筋の筋厚の関連性について言及した研究は少ない。本研究の目的は腹横筋と腰部多裂筋を超音波画像診断装置にて計測し,その関連性を調査することとした。【方法】対象は,本学に在籍する健常男性10名(21.0±0.9歳,173.9±6.6 cm,64.3±9.5 kg)とした。筋厚および筋断面積の計測には超音波画像診断装置(esaote MyLab25,7.5-12 MHz,B-mode,リニアプローブ)を使用した。画像上における腹横筋筋厚の計測部位は腹横筋筋腱移行部から側方に約2 cmの位置で,その方向は画像に対し垂直方向とした。腰部多裂筋の筋断面積計測におけるプローブの位置は第5腰椎棘突起から側方2 cmの位置で,画像上における筋断面積は内側縁を棘突起,外側縁を脊柱起立筋,前縁を椎弓,後縁を皮下組織との境界として計測した。動作課題は異なる重量(0,5,10,15%Body Weight:BW)を直立姿勢にて挙上させる動作とし,各重量条件をランダム化しそれぞれ3回ずつ計測,その平均値を解析に使用した。統計解析にはSPSS(Ver. 12.0)を使用し,Pearsonの相関係数にて腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積の関連性を検討した。統計学的有意水準はα=0.05とした。【結果】統計学的解析から,0%BW(r=0.78,p<0.05),5%BW(r=0.72,p<0.05)条件において腹横筋の筋厚と腰部多裂筋の筋断面積との間に有意な正の相関が認められた。10%BW,および15%BW条件においては有意な相関関係は認められなかった。【考察】本研究は,機能的課題時における腹横筋と腰部多裂筋の形態学的関連性を検討した初めての研究であり,体幹に安定性を提供するとされている両筋がどのような関連性をもって機能しているのか,その一端を示した有用な所見である。本結果より,低重量条件においては腹横筋筋厚と腰部多裂筋筋断面積との間に有意な正の相関が認められたが,重量の増加に伴い相関関係は認められなかった。先行研究によると腹横筋や腰部多裂筋は機能的活動中に低レベルで持続的な活動が必要であるとされており,かつ両筋は低レベルな筋活動で充分に安定化機能を果たすと報告されている。また,両筋は他の体幹筋群と比較して筋サイズも小さいため,高負荷になるにつれて筋厚や筋断面積の値はプラトーに達していた可能性があり,さらに,高重量条件では重量の増加に伴う体幹への高負荷に抗するため,体幹グローバル筋群である腹斜筋群や脊柱起立筋群などの活動性が優位となっていたために筋厚や筋断面積の関連性が検知されなかったかもしれない。本所見は上記の点を反映したものであると推察される。腹横筋や腰部多裂筋は活動環境に応じて協調的に働くことで体幹に対して適切な安定性を提供しているとされてきたが,様々な活動レベルを考慮したデザインにおいてその関連性を検討した研究は無く,明確なエビデンスは存在していない。本研究はその一端を示すものであり,今後は筋活動との関係性や他の体幹筋群との関係性,さらには腹横筋や腰部多裂筋の機能障害があるとされている慢性腰痛症例においてより詳細な検討が必要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】体幹ローカル筋群である腹横筋と腰部多裂筋に関して,低負荷条件において有意な正の相関関係が認められた。本所見は,体幹へ安定性を提供するとされている両筋の形態学的関連性を示唆した初めての研究であり,リハビリテーションにおける体幹機能の評価やその解釈に対して有用な知見となるだろう。