著者
仁田 雄介 髙橋 徹 熊野 宏昭
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.2-12, 2019-11-30 (Released:2020-01-04)
参考文献数
40

【背景】イメージ書き直しとは,恐怖記憶のイメージをより安全なイメージに書き直す技法である。メカニズムには未だ不明な点が多いが,再固定化を利用して恐怖記憶を減弱すると考えられている。【方法】Web of Science, Science Directにて“imagery rescripting” and “reconsolidation”というタームを用いて検索した。【結果】現時点ではイメージ書き直しと再固定化の関係を示す研究は存在しない。【結論】今後の研究では(1)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーの再発率の比較,(2)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーに関与する脳部位の比較,(3)イメージ書き直しとイメージエクスポージャーによるトラウマの陳述内容の変化の比較,(4)記憶想起直後にイメージを挿入する条件と記憶想起10分後にイメージを挿入する条件の比較,が行われる必要がある。
著者
仁田 雄介 髙橋 徹 熊野 宏昭
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.58-66, 2016-12-31 (Released:2016-12-31)
参考文献数
37

消去訓練を行うと消去学習が成立し,恐怖条件づけによる恐怖反応が抑制される。しかし,消去学習は恐怖記憶を改変しないため,恐怖反応の再発が起こる。消去学習を利用した技法はエクスポージャー療法と呼ばれており,不安症の治療に用いられている。エクスポージャー療法後にも不安症が再発する可能性が示唆されており,再発を防ぐ治療法が必要とされている。そこで,記憶再固定化というメカニズムが注目されている。記憶痕跡は固定化すると改変できないと従来は考えられていた。しかし近年,想起によって固定化された記憶痕跡が不安定になり,その後再固定化することが明らかになった。再固定化が進行している間は,想起した恐怖記憶を改変できることが示されている。そして,再固定化進行中の消去訓練は恐怖反応の再発を防ぐことが,近年の研究によって示唆されている。今後,不安症に対する再固定化を利用した介入の有効性の検討を進める必要がある。
著者
熊野 宏昭 富田 望 仁田 雄介 小口 真奈 南出 歩美 内田 太朗 武井 友紀 榎本 ことみ 梅津 千佳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-032, (Released:2021-06-25)
参考文献数
17

パンデミック下の心療内科プライマリーケア施設において、遠隔認知行動療法を導入したプロセスについて報告する。対面カウンセリングからの移行に要した期間は1カ月余と比較的短期間であったが、これには留意点をまとめた文献と使い慣れたWeb会議ツールZoomの活用が有用であった。6カ月弱で22例が導入され、延べ92回のカウンセリングが実施されたが、診断、支援技法の内訳は対面時と同様であった。中断ケースはなく、昨年度の同時期よりも継続率は高かった。患者の満足度は昨年度と変わらず、主担当・副担当から見た支援の質では、デメリットよりもメリットに関する報告が多かった。修士課程1年生の陪席実習の結果では、同席して直接体験することによる効果は非常に大きく、今後の臨床実習の新しい形としても注目すべきであると思われた。
著者
内田 太朗 Takahashi Toru 仁田 雄介 熊野 宏昭
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.24-34, 2020 (Released:2020-06-07)

セルフコンパッション(Self-compassion:SC)とは、苦痛の緩和のために慈しみをもって自分に接することであ る。SC特性は、精神的健康と関連があることが、様々な調査研究で明らかにされてきた。しかしながら、先行研究において、SC は特性あるいは状態として測定されてきたため、SCが日常生活場面で具体的にどのように実行されているかは不明である。また、実 際の日常生活場面におけるSCをアセスメントするツールがないため、臨床現場などにおいて、SCに対する介入効果を十分に検討す ることができない。これらの問題を解決するための方法の1つに、SCを特性や状態としてではなく、具体的な行動として測定するこ とが考えられる。そこで、本研究では、臨床行動分析の機能的アセスメントの枠組みに基づき、行動の形態および行動の結果の2 つの観点からSC行動を測定する方法を開発し、その妥当性を検討することを目的とした。大学生および大学院生31名を対象とし、 日常生活場面における、SC行動を測定する質問項目を用いて、携帯端末を用いた調査を実施した。SC行動の形態(項目は「自分 自身をなだめる」「優しさをもって自分に接する」「苦痛を緩和しようとする」「セルフヴァリデーションをする」)および行動の結果(項 目は「落ち着きの増加」「自分への優しさの増加」「苦痛の緩和」「自己批判の減少」)をそれぞれ説明変数とし、状態SC、状態 well-being、アクセプタンスをそれぞれ目的変数としたマルチレベル単回帰分析を行った。分析の結果、SC行動の形態の項目「自 分自身をなだめる」、「優しさをもって自分に接する」、「苦痛を緩和しようとする」は、状態SCの高さを有意に予測した。また、SC行 動の結果の項目「落ち着きの増加」、「自分への優しさの増加」、「苦痛の緩和」は、状態SCの高さを有意に予測し、「自己批判の 減少」は、状態SCの高さを有意傾向で予測した。これらの結果から,本研究で作成したSC行動を測定するおおよその項目は、妥 当であることが示唆された。SC行動の形態の項目「自分自身をなだめる」は、状態well-beingの高さを有意傾向で予測し、SC行 動の結果の項目「苦痛の緩和」は状態well-beingの高さを有意に予測した。しかし、それら以外のSC行動の形態および結果の項 目は、状態well-beingの高さを有意に予測しなかった。これらの結果から、SC行動後の60分以内における状態well-beingは増加 しない可能性がある。今後の研究では、SC行動がその後のwell-beingを増加させるかどうかをより詳細に検討するために、SC行 動と(1)本研究で測定されなかった状態well-beingの要素との関連性を検討、(2)60分以降あるいは1日全体の状態well-being との関連性を検討、(3)well-being特性との関連性を検討することが必要である。SC行動の形態の項目「自分自身をなだめる」、 「優しさをもって自分に接する」、「苦痛を緩和しようとする」は、アクセプタンスの高さを有意に予測した。また、SC行動の結果の項 目「自分への優しさの増加」「自己批判の減少」は、アクセプタンスの高さを有意に予測し、「落ち着きの増加」は、アクセプタンスの高さを有意傾向で予測した。これらの結果から,SC行動の種類によって,アクセプタンスの高さを予測する程度が異なることが示 された。本研究の限界点として、SC行動の先行条件および確立操作を検討できなかったことが挙げられる。今後の研究で、どの ような文脈下でSC行動が生起しやすいのかを検討することや、ルールなどを含めた確立操作がSC行動の生起に与える影響を検討 することが望まれる。そうすることにより、SC行動を生起・維持させる変数に関する知見が蓄積され、機能的アセスメントの枠組 みからSC行動をより詳細に捉えることが可能となると考えられる。