著者
齋藤 順一 富田 望 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.67-77, 2020-05-31 (Released:2020-10-23)
参考文献数
26

公認心理師は、心理学の実証性と専門性に基づいて、客観的データに基づくアセスメントと、有効性の認められた心理学的介入を重視する。そのために、保健医療分野で活動する公認心理師は、各疾患に対する最新のエビデンスについて最低限の知識を得ておく必要がある。多くの疾患において認知行動療法(cognitive and behavioral therapies; CBT)に基づく介入の有効性が示されていることから、本論文では、CBTが保険収載されている疾患(2019年9月現在)を中心として、公認心理師として身につけておくべきCBTに関する知識についてまとめた。具体的には、うつ病、不安症・不安関連障害、摂食障害について、CBTマニュアルを参照しながら、各疾患の特徴、心理社会的要因、心理学的介入について整理した。最後に、現場でCBTを活用していくために、基本となる考え方や技法について学ぶ際に必要となる姿勢について論じられた。
著者
富田 望 嶋 大樹 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.65-73, 2018 (Released:2018-01-01)
参考文献数
18

本研究では, 社交不安症における心的視点を測定する尺度を作成し, 信頼性と妥当性を確認することを目的とした. Field視点 (F視点), Observer視点 (O視点), Detached Mindfulness視点 (DM視点) の3因子構造を想定した17項目の尺度を作成し, 学生283名に対して質問紙調査を実施した. 因子分析によって項目を抽出し, 内的整合性を確認するためにα係数を算出した. また, 構成概念妥当性を検討するために, 3下位尺度と, それぞれに類似する概念もしくは異なる概念を測定する尺度との相関係数を算出した. さらに, 再検査信頼性を検証するために2週間の間隔をあけた再テスト法を用いた. その結果, F視点, O視点, DM視点の3因子13項目から構成される質問紙が作成された. また, 十分な内的整合性, 再検査信頼性, 構成概念妥当性が示された.
著者
熊野 宏昭 富田 望 仁田 雄介 小口 真奈 南出 歩美 内田 太朗 武井 友紀 榎本 ことみ 梅津 千佳
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.20-032, (Released:2021-06-25)
参考文献数
17

パンデミック下の心療内科プライマリーケア施設において、遠隔認知行動療法を導入したプロセスについて報告する。対面カウンセリングからの移行に要した期間は1カ月余と比較的短期間であったが、これには留意点をまとめた文献と使い慣れたWeb会議ツールZoomの活用が有用であった。6カ月弱で22例が導入され、延べ92回のカウンセリングが実施されたが、診断、支援技法の内訳は対面時と同様であった。中断ケースはなく、昨年度の同時期よりも継続率は高かった。患者の満足度は昨年度と変わらず、主担当・副担当から見た支援の質では、デメリットよりもメリットに関する報告が多かった。修士課程1年生の陪席実習の結果では、同席して直接体験することによる効果は非常に大きく、今後の臨床実習の新しい形としても注目すべきであると思われた。
著者
富田 望 甲斐 圭太郎 南出 歩美 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.261-272, 2021-09-30 (Released:2022-01-12)
参考文献数
30

本研究では、自己注目を誘発する音刺激を含めた注意訓練法(ATT)を作成し、通常のATTとの効果を比較した。社交不安傾向者30名を自己注目ATT群と通常ATT群に割り当て、各ATTを2週間実施し、介入前後で社交不安症状、能動的注意制御機能、スピーチ課題中の自己注目の程度や翌日の反芻(PEP)が変化するかを検討した。その結果、両群で社交場面への恐れは低減したが、自己注目ATT群で減少量が大きいことが示された。観察者視点による自己注目は両群ともに減少したが、PEPは自己注目ATT群にのみ減少が見られた。以上より、自己注目を誘発する刺激を使ったATTでは、SAD症状やPEPに対する効果が大きいことが示唆されたが、その作用機序の違いに関してはさらなる検討が必要と考えられた。
著者
梅津 千佳 富田 望 南出 歩美 武井 友紀 朴木 優斗 熊野 宏昭
出版者
日本スポーツ心理学会
雑誌
スポーツ心理学研究 (ISSN:03887014)
巻号頁・発行日
pp.2022-2102, (Released:2022-04-22)
参考文献数
24

In this study, we analyzed the process of maintaining and changing thoughts and behaviors between the experience of failure in a specific game and the next game based on the technique of TEM, and we named and discussed the contents of the synthesized TEM diagram from the perspective of metacognitive therapy (MCT). We interviewed nine sports competitors in their student age who had experienced failures in team competitions in the past and had dragged them out until the next game and summarized their experiences in a Trajectory Equifinality Model (TEM) diagram. The results of the analysis showed that the state of Cognitive Attentional Syndrome (CAS) which is regarded as a main problem in MCT, decreases performance. In addition, functional coping behaviors were shown to improve performance, resulting in the acquisition of Detached Mindfulness (DM) states. The results suggest that it is useful to examine the psychological factors that contribute to performance decline and improvement from the perspective of MCT, and to support performance improvement through MCT. In the future, it will be necessary to explore unhelpful coping behaviors in sports situations using behavioral assessment tests for anxiety that deal with unhelpful coping behaviors, and to examine how these behaviors affect performance through psychoeducation and interventions based on DM techniques.
著者
富田 望 熊野 宏昭
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.19-28, 2022-11-30 (Released:2022-12-26)
参考文献数
37

社交不安においては,自己注目と他者注目が症状の維持要因とされているが,社会的場面において2つの注意の偏りがどのような関係にあるのかを示した実証的研究は少ない。本稿では,自己注目や他者注目を視線や脳活動によって可視化することで,両者を比較可能な形で捉えることを目的とした,Tomita et al.(2020)とTomita & Kumano(2021;第2回日本不安症学会学術賞受賞論文)の2つの研究を紹介した。研究の結果,右前頭極と左上側頭回の過活動は対人場面で生じる自己注目や他者注目それぞれの客観的指標となることが示唆された。対人場面でこれらの脳活動をリアルタイムに測定することで,社交不安者の自己注目と他者注目の程度を,本人が自覚していない場合でも予測できることが期待される。また,自己注目と他者注目は独立した構成概念であることが脳の観点から示唆された。
著者
富田 望
出版者
日本手話学会
雑誌
手話学研究 (ISSN:18843204)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.27-40, 2021-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
35

This paper draws attention to the current situation, "syuwauta" (sign language songs), which are created mainly by hearing sign language users on social media platforms. Most of them are not members of the Deaf community, and therefore they do not own that language. This a known as a Linguistic Hijack. In this paper, I exhibit why the use of #syuwauta is problematic in Japan. The original meaning of the word syuwauta has been identified as a semantic drift. The term syuwauta was exploited by hearing sign language users for their benefit. With a social justice and a ground-based framework, this paper explains the history of the word syuwauta and how the original meaning has been corrupted through the majority's two patterned behaviors; willful blindness and the misuse of the word.
著者
亀谷 知麻記 富田 望 武井 友紀 梅津 千佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
pp.21-022, (Released:2023-01-12)
参考文献数
30

社交不安の特徴として、他者からの否定的評価に対する恐れ(FNE)、他者からの肯定的評価に対する恐れ(FPE)、それらと関わる注意バイアスが挙げられる。注意バイアス研究の多くはFPEやポジティブ刺激を含めていないため、本研究ではFNEとFPEによって表情刺激への注意バイアスがどう異なるかを明らかにすることを目的とした。大学生と大学院生55名を対象に質問紙への回答と、否定顔、中性顔、肯定顔の表情画像を用い、否定顔への注意バイアス得点と肯定顔への注意バイアス得点を算出するドット・プローブ課題を実施した。その結果、FNEが高くなるほど否定顔に対する注意バイアスと有意に関連することが示された一方、LSASとより強い関連を示したFPEは注意バイアスと関係しないことが示された。今後はFPEの影響をさらに検討するために、実際の評価場面を使った研究の実施が望まれる。
著者
南出 歩美 富田 望 亀谷 知麻記 武井 友紀 梅津 千佳 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.47-60, 2022-01-31 (Released:2022-04-01)
参考文献数
35

社交不安症の維持要因として、自己関連刺激への注意バイアスが指摘されている。メタ認知療法によると、注意の向け方に関するメタ認知的信念が注意バイアスや社交不安症状に関与している。本研究では、社交不安症状と表情への注意バイアス、注意の向け方に関するメタ認知的信念の関連性を検討した。大学生55名を対象に、社交不安症状および肯定的/否定的なメタ認知的信念を測定する質問紙尺度と、注意バイアスを測定するドット・プローブ課題を実施した。その結果、社交不安高群において怒り顔および笑顔への注意バイアスが認められた。また、怒り顔への注意バイアスと社交不安症状の関連性は、否定的信念により完全媒介されることが示された。注意バイアスに焦点を当てた介入を行う際は、その過程で否定的信念に働きかける必要があると考えられた。
著者
齊藤 早苗 嶋 大樹 富田 望 対馬 ルリ子 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.60, no.4, pp.339-348, 2020 (Released:2020-05-01)
参考文献数
23

過敏性腸症候群 (IBS) では, 腹部症状に関連する思考, 感情, 身体感覚などを回避する患者が多いことから, アクセプタンス & コミットメント・セラピー (ACT) の有用性が示唆されている. そこで, ACTの治療標的である体験の回避が, 消化器症状に関連した不安や腹痛頻度および腹満感頻度に及ぼす影響について検討する. 方法 : 便秘を自覚する女性244名 (IBSのRome Ⅲ診断基準を満たした128名を含む) に対して, 腹痛頻度および腹満感頻度, 体験の回避 (AAQ-Ⅱ), 消化器症状に関連した不安 (VSI-J), 抑うつ気分・不安気分 (DAMS) に関する質問紙調査を実施した. 結果 : 構造方程式モデリングの結果, 体験の回避が消化器症状に関連した不安に対して正の影響 (0.30) を示した. さらに, 消化器症状に関連した不安と腹痛頻度および腹満感頻度には有意な正のパス係数 (0.55) が示された (Χ2=1.13, df=2, p=0.57, GFI=0.998, AGFI=0.988, RMSEA=0.000). 結論 : 体験の回避は消化器症状に関連した不安を介して, 腹痛頻度および腹満感頻度に影響を及ぼすことが示された.
著者
富田 望 今井 正司 山口 摩弥 熊野 宏昭
出版者
日本不安症学会
雑誌
不安症研究 (ISSN:21887578)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.12-21, 2016-12-31 (Released:2016-12-31)
参考文献数
18
被引用文献数
1

Post-event processing (PEP) とは社交状況の回顧を意味し,社交不安の維持要因とされる。近年,反芻や心配と注意制御機能の関連が報告されているが,同様の反復的思考であるPEPとの関連は明らかでない。また,PEP時の観察者視点を測定する指標も作成されていない。本研究では,PEP時における想起視点機能尺度の作成とともに,実験的な社交状況で生じるPEPと注意制御機能の関連性を明らかにした。大学生を対象に,注意制御に関する質問紙と認知課題,スピーチ課題を行った。翌日にPEPを測定し,PEPと注意制御との相関分析を行った。その結果,想起視点機能尺度の下位尺度を用いてPEPの観察者視点を測定できることが示唆された。また,PEPおよび回避的な観察者視点と選択的注意との間に有意な相関が示された。したがって,PEPを低減するためには特に選択的注意に着目することが有用であると考えられた。