著者
堤 彩紀 石橋 純一郎 今野 祐多 横瀬 久芳
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

【はじめに】 カルデラ地形は,熱源・帯水層・不透水層等がそろっており,熱水循環系が発達しやすい地質環境である.横瀬ほか(2010)は,九州の火山フロントの南方延長線上のトカラ列島近傍の海底に,第四紀の火山活動で形成された巨大カルデラが存在することを提唱している.そのうちの一つである宝島カルデラでは,その外輪山に位置する小宝島で,90℃以上の高温の温泉が海岸沿いに噴出していることが知られている.この小宝島の温泉水を採取・分析した結果を報告し,その熱水形成機構を考察する.【試料の採取と分析方法】 温泉水試料の採取は、2013年5月に行われた。温泉水の温度・pH・電気伝導度・酸化還元電位を現地で測定した.温泉水試料は,0.45μmフィルターでろ過してポリびんに入れて持ち帰り,実験室にて主要溶存成分の分析を行った.主要陽イオン濃度はICP‐AES法,陰イオン濃度はイオンクロマトグラフィーを用いて分析した.アルカリ度はグラン法に基づく滴定法,ケイ素濃度は比色分析によって定量した.【結果と考察】 温泉水の化学組成の特徴として,Cl-濃度が高いこと,Na/Cl比が0.75と海水とほぼ一致すること,酸素・水素同位体比が海水の値に近いこと,があげられ,熱水が海水を起源としていると考えられる.また,海水に比べてMg2+,SO42-濃度が低く,K+,Ca2+濃度が高かった.これは海水と岩石の熱水反応において見られる特徴と一致している.地化学温度計を適用すると,熱水貯留層内の温度は250℃~300℃とかなりの高い温度であると推定できる.また,これまでに宝島カルデラ周辺で行われた海底ドレッジでは,玄武岩質安山岩,安山岩,デイサイト,流紋岩からなる溶岩片などが多量に採取されており,最近のマグマ活動が示唆される. これらの結果から,宝島カルデラに規制された熱水循環系があり,その一端が小宝島の海岸で高温の温泉水としてあらわれている可能性が高い.
著者
今野 祐多
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度のH_2水素安定同位体組成定量システムに引き続き,同じく還元性気体であり,極限環境において大きなエネルギー源および炭素源となるCH_4の水素安定同位体組成定量システムを構築した.それを応用し,岐阜県瑞浪超深地層実験施設における地下水中のCH_4の定量を行った.炭素同位体組成の情報だけではCH_4の起源を判別することは出来なかったが,水素同位体組成の情報を併せることで,単純な有機物由来のCH_4では無く,CO_2還元由来ではないかと結論した.一方で,H_2の水素同位体組成は-700‰前後であり,地下水と温度平衡になっている可能性が考えられる.微生物によるH_2の生成消費反応はH_2-H_2O平衡を促進させるため,水素に関わる微生物活動の可能性を示唆しているのではないかと考える.また,窒素固定反応に付随してH_2が副次生成されることが知られており,海洋において窒素固定速度とH_2濃度に相関があることが報告されている(Moore et al., 2009など).ところが海洋表層は大気からの混入と現場で生成されるH_2の区別が難しく,H_2濃度のみから窒素固定速度を求めることはやや定量性に欠けると考える.そこでH_2の水素同位体組成を定量することで窒素固定速度の定量を目指した.ところが実際の海水試料中に溶存するH_2濃度はsub-nM~数nM程度であり,現システムで精度良く水素同位体組成を定量するのは難しく,窒素固定速度と整合性の取れたデータを取得することは出来なかった.しかし,得られた水素同位体組成は一般的な大気と生物由来と考えられるH_2との間の値を取っており,将来的に少量で精度良く水素同位体測定が可能になれば,海洋窒素固定速度定量に対して有用なツールとなる可能性があると考える.