著者
仲村 匡平 村田 伸 村田 潤 古後 晴基 松尾 奈々
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AbPI1121, 2011

【目的】一般にホットパック(Hot pack:HP)療法は湿熱法で利用するが,臨床の現場では衣類が湿ることやタオルの枚数が増え手間がかかることからビニール等でHPを包み乾熱法として使用することが多い.HP療法の作用には,温度上昇作用,血管拡張作用,筋緊張軽減作用,軟部組織の伸張性向上作用,鎮痛作用などがある.篠原らは,湿熱法でタオル10枚目の皮膚表面温度は乾熱法のタオル3枚目の皮膚表面温度にほぼ近似したと述べている.また,Lehmannらは,皮膚表面温度は8分後に42.5&deg;Cまで達するが,1cm以上の深部においては38&deg;C以上には達しないと報告している.先行研究では皮下血流を指標にした報告はあるが,筋血流量を指標とした報告は見当たらず、またこの皮下血流量に関する結果は,深部血流量に該当するとは限らない.そこで本研究では,HP表面温度と皮膚表面温をそれぞれ同じ値になるように調整し,湿熱法と乾熱法での下腿の筋血流量を比較検討した.<BR>【方法】健常成人5名(男性3名,女性2名)10脚.平均年齢は25.8±9.8歳,平均身長159.9±8.4cm,平均体重55.0±8.8kg.室温25&deg;C前後の室内にて実施した.測定姿位は治療用ベッドに腹臥位にて,下腿部後面とした.HPの実施時間は20分間とした.湿熱法はHPを直接タオルで巻き身体にあてる側を8枚,身体にあてない側は熱が放射しないようタオルを何層にも重ねた.乾熱法はHPをビニール袋で包んだ後,タオルで巻き身体にあてる側を3枚,湿熱法と同様に身体にあてない側は熱が放射しないようタオルを何層にも重ね実施した.対象者の左右の下腿部後面のうち一側を湿熱法,他側を乾熱法となるようそれぞれで設定したが,対象者にはHPの使用方法を伝えないよう留意した.なお,施行直前のHPの表面温度を赤外線温度計で測定し,HPの表面温度が40~45&deg;Cになったのを確認して実験を開始した.筋血流の測定はストレンゲージプレチスモグラフを使用してHP施行前後に実施した.大腿部に専用のカフを装着し,下腿周径の最も大きい部分にラバーストレンゲージを巻き付け,大腿部を50mmHgで10秒間駆血,5秒間解除を1分間測定した. 下腿の皮膚表面温はサーモグラフィーを使用してHP施行前後に行った.下腿部を専用カメラにて撮影した.HP施行前の値を基準として湿熱法施行後と乾熱施行後の下腿皮膚表面温,下腿の筋血流のそれぞれの変化率を算出し,HP施行前と湿熱法施行後・乾熱法施行後,湿熱法施行後と乾熱法施行後の変化率について比較した.統計処理は湿熱法と乾熱法における施行直前のHP表面温度の比較について,対応のないt検定を用いて比較した.下腿皮膚表面温の変化率および下腿の筋血流量の変化率について反復測定分散分析およびFisherのPLSDによる多重比較検定を実施した.解析には,SPSSを用い統計的有意水準を5%とした.<BR>【説明と同意】研究の趣旨と内容,得られたデータは研究目的以外には使用しないこと,および個人情報の取り扱いには十分に配慮することを説明し,参加は自由意志とした.<BR>【結果】湿熱法と乾熱法における施行直前のHP表面温度の平均値は,湿熱法HP表面温度が平均42.6±2.6&deg;C,乾熱法HP表面温度が平均42.8±2.6&deg;Cであり,2群間に有意差は認められなかった.下腿の皮膚表面温はHP施行前と比較し,湿熱法施行後および乾熱法施行後で有意な増加が認められた(P<0.01).一方,湿熱法施行後と乾熱法施行後の2群間に有意差は認められなかった.また,下腿の筋血流量はHP施行前と比較し,湿熱法施行後で有意な増加が認められた(F=4.8,P<0.05).<BR>【考察】温熱刺激によって身体は治療として意義のある生理的反応を起こし,その生理的反応の1つに血管拡張作用が挙げられる.温熱そのものの刺激は,軽い炎症と同様の変化をもたらす.温熱刺激によりヒスタミン様物質を放出する細胞を刺激することで血管拡張が起こる.また,温熱刺激により皮膚温度受容器を反応させ,求心性神経を介して軸索反射が起こることによって血管拡張がみられる.HP療法は皮膚と加熱媒体間の水分(湿気)の有無により湿性加温と乾性加温に分類されており,HPから出る水分は熱伝導性に関係する.篠原らは熱伝導性について空気および綿織物の熱伝導性はそれぞれ0.0092w/m&deg;C,0.0796 w/m&deg;Cに対して,蒸気0.251 w/m&deg;C,水0.595 w/m&deg;Cであり,湿熱法の熱伝導が乾熱法により遥かに良いと述べている.以上から,本研究では湿熱法を実施することで,より大きい熱伝導性により血管拡張に作用し,下腿の筋血流量の増加を生じさせたと推察された.<BR>【理学療法学研究としての意義】HPは下腿の筋血流量を増加させる手段として有効であり,特にその効果は湿熱法の方が乾熱法より高いことが示された.
著者
古後 晴基 村田 伸 村田 潤 仲村 匡平
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.631-634, 2010 (Released:2010-09-25)
参考文献数
16
被引用文献数
3

〔目的〕本研究は,乾熱法と湿熱法でホットパック(以下HP)施行後の筋硬度の変化に及ぼす効果を比較検討した。〔対象〕健常成人10名(男性7名,女性3名,平均年齢22.3±6.8歳)の両下肢(20脚)を対象とした。〔方法〕被験者は腹臥位で,下腿部後面に直接HPを20分間施行した。湿熱法ではパックを直接コットンタオル(8層)で巻き,乾熱法ではパックをビニール袋で包んだ後,コットンタオル(3層)で巻いてHPを施行した。HP施行前,乾熱法および湿熱法HP施行後の腓腹筋内側頭の筋硬度を比較した。〔結果〕HP施行前の筋硬度に比べ,湿熱法および乾熱法によるHP施行後の筋硬度はともに有意に低下した。ただし,湿熱法と乾熱法後の筋硬度にも有意差が認められ,湿熱法の方が乾熱法より有意に低下した。〔結語〕HPは筋硬度を低下させる手段として有効であり,とくにその効果は湿熱法の方が乾熱法より高いことが示唆された。