著者
伊庭 功
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.351-362, 1999-03-31

滋賀県大津市域の琵琶湖底に所在する粟津湖底遺跡は,縄文時代早期初頭から中期前葉を中心とする時期に営まれ,琵琶湖においては数少ない大規模な貝塚を伴う遺跡である。1990~1991年に航路浚渫工事に伴って実施された湖底の発掘調査では,中期前葉の第3貝塚が新たに発見された。ここには貝殻や魚類・哺乳類の骨片とともに,イチイガシ・トチノキ・ヒシの殻が良好な状態で保存されていて,当時の動物質食料・植物質食料の両方を同時に明らかにした。これらをもとに,種類ごとの出土量を栄養価に換算して食料として比較を試みたところ,堅果類,特にトチノキが大きな比率を占めていることがわかり,従来から行われてきた推定を具体的に証明することができた。また,同じ調査区で早期初頭の地層からクリの殻の集積層も検出され,中期前葉とは異なる種類の堅果類が利用されていたことがわかった。この相違は早期初頭と中期前葉の気候および植生の相違によるものと推定される。また,第3貝塚から,日本列島において約50万年前に絶滅したと考えられてきたコイ科魚類の咽頭歯が発見され,この魚類が絶滅したのが約4,500年前以降であったことを示し,その絶滅には人の活動が大きく関わっていたことが推測された。このように,粟津湖底遺跡の調査は人の生業について具体的な事実を明らかにしたばかりでなく,それと環境変化との関わりをうかがわせる資料も提供した。
著者
武末 純一 伊庭 功 辻川 哲朗
出版者
古代学協会
雑誌
古代文化 (ISSN:00459232)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.257-268, 2011-09