著者
伊藤 公平
出版者
慶應義塾大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1999

半導体用シリコン(Si)は人類が作製した単結晶として最も純度が高く、最も結晶性の優れた材料と言っても過言ではない。それゆえに、現在の超高集積回路が実現された。しかし、地球上に存在するすべてのSi中には^<28>Si、^<29>Si、^<30>Siの3種類の安定同位体が存在し、それぞれの組成比は92.2%(^<28>Si)、4.7%(^<29>Si)、3.1%(^<30>Si)と常に一定である。異なる同位体が同一結晶内に存在するということは、結晶を構成する原子の質量にばらつきがあることを意味し、また、核スピン(^<29>Si同位体のみが核スピンを有する)の分布にもばらつきがあることを意味する。従来、シリコン中の同位体組成を変化させて「質量分布」や「核スピン分布」を制御した例はほとんどなかった。本研究では^<28>Si安定同位体純度を99.92%まで高めた半導体シリコン(Si)バルク単結晶の成長に世界に先駆け成功した。^<28>Siバルク単結晶の熱伝導度は、通常のSiの熱伝導度と比較して室温で60%、100℃で40%向上することが確認され、将来のLSI基板材料として大きな期待が寄せられている。また、^<28>Siバルク単結晶は、量子コンピュータを実現する材料、アボガドロ定数を精確に決定する世界アボガドロ定数標準、ビッグバン理論の検証に関する宇宙物理学研究用センサー、無重力空間における溶融実験に大きな進歩を及ぼす材料として期待されている。本研究で成長された結晶は上記各方面の研究・開発に利用されることになる。
著者
伊藤 公平 田久 賢一郎
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.70, no.10, pp.1187-1190, 2001-10-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
11
被引用文献数
1

通常のSi結晶中には28Si,29Si,30Siの3種類の質量および核スピン数が異なる安定同位体が存在し,それぞれの組成比は92.2%(28Si),4.7%(29Si),3.1%(30Si)と常に一定である.この組成を変化させたSi結晶を作製することで,さまざまな物性の改質・制御が実現する.最近では同位体組成や分布を原子レベルで制御する結晶成長法も確立され,今後の半導体素子の発展に「半導体同位体工学」が大きく寄与することが期待される.本稿では,半導体同位体工学に基づく高熱伝導Siウエハーの実現を紹介した後,将来のSi同位体工学の役割を議論する.