- 著者
-
伊藤 啓史
- 出版者
- 鳥取大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2002
本研究の主な目的は、家禽で増殖できない野生水禽由来のインフルエンザウイルスがどのような仕組みで家禽体内での増殖能を獲得するかを分子レベルで明らかにすることである。H16年度に実施した研究では以下の成績を得た。(1)野生の水禽から分離された弱毒トリインフルエンザウイルスA/whistling swan/Shimane/499/83株(以下499株)の鶏増殖能獲得変異株24a株のリバースジェネティクス系を確立し、人工24a株(以下RG24a株)を作出した。(2)鶏での増殖が不可能な499株と可能な24a株のリアソータントウイルス(合の子ウイルス)をリバースジェネティクスにより作出した。(3)(1)、(2)で作出したウイルスを用いて鶏雛での感染実験を行い、各ウイルスの増殖能を調べたところ、HA遺伝子は24a株に由来し、その他の遺伝子は499株に由来するRG24aHA株は鶏雛で増殖可能で、その逆のHA遺伝子は499株に由来し、その他の遺伝子は24a株に由来するRG499HA株は鶏雛で増殖不可能であった。したがって、HA遺伝子が水禽インフルエンザウイルスの家禽での増殖能に関わっていることが明らかとなった。さらに、RG24aHA株のNA遺伝子を499株から24a株に交換したRG24aHANA株の鶏増殖能はRG24aHA株に比べ増強されたことから、水禽インフルエンザウイルスの家禽での効率良い増殖には適切なHA遺伝子とNA遺伝子の組み合わせが必要なことが明らかとなった。(4)499株と24a株のHA遺伝子およびNA遺伝子翻訳産物であるHA蛋白とNA蛋白の機能を比較したところ、24a株の赤血球吸着活性(HA蛋白)およびノイラミニダーゼ活性(NA蛋白)は各々499株の約45%に低下していた。以上の結果から、野生水禽由来のインフルエンザウイルスが家禽で増殖できるようになるにはHAおよびNA遺伝子に変異が生じ、その翻訳産物であるHA蛋白およびNA蛋白の機能が変化することが重要であると考えられた。