著者
伊藤 敦彦 羽田 勝征 高橋 尚彦 犀川 哲典 山下 武志 安喰 恒輔 速水 紀幸 稲葉 秀子 浅田 健一 村川 裕二
出版者
Japanese Heart Rhythm Society
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.640-644, 2002-11-25 (Released:2010-09-09)
参考文献数
7

心房細動を有する患者ではしばしば心房粗動 (AFL) を合併する, 発作性心房細動 (PAF) の薬物治療において, Ic群薬は他のI群薬に比べAFLの出現率が高いか否かを検討した.重篤な器質的心疾患や心機能低下を欠く患者179人 (平均年齢58±11歳) の薬物治療中19人にAFLが認められた, 性別, 年齢, 左房径, あるいはβ遮断薬やカルシウム拮抗薬の併用はAFLが記録される割合と関連はなかった.Ia, b群薬とIc群薬では統計的には有意ではないが, 後者の投与中に多くのAFLが記録された (8%対15%) , 投薬前にすでにAFLが記録されている症例で治療中にAFLを認める頻度は52% (12/23) と高く, AFLの既往がない患者での4% (7/156) を大きく上回っていた (p<0.0001) .また, AFL既往例に限れば, Ic群薬投与中はIa, b群薬投与中よりAFLを認める症例が多かった (36%対78%) .以上より, PAF治療中のAFLの出現には治療前のAFLの既往が大きな要因であるが, Ic群薬投与中により多くの症例でAFLが出現する傾向があった.
著者
牧元 久樹 池ノ内 浩 伊藤 敦彦 小栗 岳 藤田 大司 明城 正博 杉下 靖之 田部井 史子 野崎 彰 羽田 勝征 杉本 恒明
出版者
Japan Heart Foundation
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.41, no.11, pp.1229-1236, 2009

症例は75歳,女性.高血圧症と高脂血症で内服加療中であった.早朝不慣れな満員電車に乗車中,胸部圧迫感を自覚し,近医を受診.ST上昇とトロポニンT陽性から心筋梗塞が疑われ,当院に救急搬送された.収縮期心雑音IV/VIが聴取された.当日行われた緊急冠動脈造影にて冠動脈に有意狭窄を認めず,左室造影で心尖部無収縮と心基部の過収縮を伴った心尖部バルーニングを認めたことからたこつぼ心筋症と診断.カテーテル引き抜き時に大動脈-左室間で80mmHgの圧較差を認めた.心臓超音波検査では心尖部無収縮にS字状中隔を伴い,左室流出路圧較差を認めた.保存的加療にて壁運動は第10病日には改善,流出路圧較差も消失した.退院1カ月後,S字状中隔と流出路圧較差の関連を調べる目的にて薬剤負荷試験を施行した.イソプロテレノール・ドブタミン・硝酸イソソルビドの投与で流出路圧較差が出現,急速輸液・ジソピラミド・プロプラノロール投与で流出路圧較差は軽快した.本例ではS字状中隔の存在がたこつぼ心筋症発症時の左室流出路圧較差出現の原因と考えられた.S字状中隔には病的意義は少ないとする意見もあるが,本例のごとくたこつぼ心筋症の発症を契機として,流出路圧較差を生じ血行動態に影響を与える可能性も考えられる.S字状中隔の病的意義を考慮するうえで示唆に富む症例と考えられたため,ここに報告する.