著者
竹内 敬人 伊藤 眞人 小川 桂一郎 吉村 伸
出版者
東京大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1992

3年前このプロジェクトを開始したとき、我々はそもそも「課題研究」が実際にどう運用されるか、クラスでの授業の一部として行われるのか、あるいは夏休み等の宿題・自由活動となるのか、あるいは実質的には無視されるのか、といったことすら分からない状態だった。又、課題研究が取り上げられるにしても、化学史がとの程度対象となるかも見当がつかなかった。そこで、課題研究のテーマとして、「化学の歴史的実験例の研究」が取り上げられたものとして、研究を構成した。そのような前提にたっても、なお、多くの問題点、疑問が残り、我々が最初に討議したのは以下の様な問題点であった。(1)高校生が使える「データベース(DB)」とは何か。そういったものがあるのか。(2)どういう資料をDB化すべきか。(3)DB作成の物理的作業はどのくらい大変なのか。(4)実際に学校で使って貰えるのか。(5)著作権の問題はどうクリアできるか。これらについて、先例となるものは無く、すべて自力で解決していかなければならなかった。研究を計画した当時のコンピュータ事情から言えば、そして、現在においても高校でのコンピュータ事情は、三年前と大差ないことから言えば、FD(1MB)ベースによるDB製作の計画は技術的には極めて現実的なものであり、手堅い企画だったといえる。だが、世の中一般について言えば、コンピュータ事情はかなり変わってきている。さらにいわゆる「マルチメディア」化が急速に進行している。「マルチメディア」化の正体は幾分曖昧だが、ともかく、コンピュータに音声・画像、特に動画像を組合わせたもの進歩は著しい。この様な状況を考えると、我々が構築したDBは、内容の問題ではなく、入れ物の問題のために古くさいものになってしまうだろう。だから、本研究の延長、第二弾として、蓄積したデータの「マルチメディア化」を計画しなければなるまい。さしあたって書き込み可能なCD-ROMをメディアとしたDB構築を検討すべきであろう。その際、本研究で可読化した資料が元になるのは当然である。それに新たに動画像、音声などを加えたマルティメヂア型DBが構築できれば、生徒たちにとっても新しい装いをもった課題研究や化学史に接する機会を得ることになる。その結果これらに対する関心が高まり、ひいては自然科学一般への関心が高まると期待される。
著者
遠藤 忠 飯田 貴広 古谷 暢英 山田 由美子 伊藤 眞人
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Chemical Software (ISSN:09180761)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.81-92, 1999-06-15 (Released:2000-03-28)
参考文献数
43
被引用文献数
2 5

半経験的分子軌道法を用いて、ベンゼン2量体およびベンゼン(PhH)—モノ置換ベンゼン(PhX)対の生成熱を計算することにより、ベンゼン—モノ置換ベンゼン間相互作用のエンタルピーを求めた。ベンゼン2量体の場合について、計算法、初期の分子間距離(rI)などを検討した。PM3法で求めた相互作用エンタルピーと最適化後の配置は、これまでの実験値および計算値と矛盾しない。PhH—PhX系の初期配置としては、1ケの平行(P)と4ケの垂直配置(Vr 、Vp 、VmおよびVb)(図1)を選んだ。VpあるいはVm配置の場合には(この配置では、PhXの置換基Xに対してパラあるいはメタ位にあるH原子がPhH分子の重心の真上に存在する)、計算から求めたPhH—PhX間相互作用エンタルピー(ΔΔHf)は、GLPCから求めた実験値(ΔΔHt)と良い相関関係を示し(図5)、相関係数(ρ)は0.94(rI = 2.75 Å)になった。この相関式から求めたΔΔHtと実験値ΔΔHtとの差は、約0.1 kcal mol-1以下であった。他の配置の場合には(Vp配置を除くと)、ΔΔHfとΔΔHtとの間に相関関係は認められなかった。
著者
竹内 敬人 伊藤 眞人 伊藤 眞人
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.50, no.8, pp.554-558, 2002
参考文献数
10

この短いインタビューは, 国際純正および応用化学連合(IUPAC)の化学教育委員会(CCE)が刊行している電子雑誌Chemical Education International (URL=http : //www.iupac.org/publications/cei/)に毎号掲載されている竹内敬人博士によるノーベル化学賞受賞者へのインタビューの一つとして行われたものである。CEIに掲載されるインタビューは, 主としてこれから進路を決めようという高校生, 大学初年級の学生を対象と考えている。CEIの読者の多くは高校教員あるいは大学初年度の講義を担当する大学教員であると予想されるので, このインタビューは, それらの教員を通じて, 高校生や大学初年級の学生に浸透していくことが期待される。この企画の趣旨に賛同され, ご多忙の中をインタビューに応じて下さった白川英樹博士に心から感謝する。