著者
伊藤 隆史
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.659-664, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
44

感染や組織損傷の兆候を察知すると,好中球は活性化する.活性化した好中球は,微生物やデブリスを貪食したり,好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)と呼ばれる網状構造物を細胞外に放出したりして,感染防御に寄与している.その一方で,同様のメカニズムが,組織損傷を悪化させてしまう要因にもなっていて,NETs放出は適切にコントロールされる必要があると考えられる.本稿では,感染症病態におけるNETs放出の光と陰について概説し,そのなかでも特に,血栓症との関連について考察していく.
著者
伊藤 隆史 和中 敬子 Ian Roberts
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.325-333, 2020 (Released:2020-06-19)
参考文献数
16

・重症外傷の超急性期には,血管内皮細胞から組織型プラスミノゲンアクチベータ(tPA)が放出されることで線溶が活性化され,出血が助長されやすい.・リシンに類似した構造をもつトラネキサム酸は,リシン結合部位を介したプラスミノゲンのフィブリンへの結合を阻害し,線溶を抑制する.・CRASH-2試験において,重大出血を伴う外傷患者の院内死亡は,トラネキサム酸投与によって有意に減少した.特に,受傷後3時間以内に,できる限り早いタイミングでトラネキサム酸を投与することが重要と考えられた.・外傷性脳損傷患者の脳損傷関連死を検討したCRASH-3試験においては,受傷後3時間以内のトラネキサム酸投与によって軽症~中等症の患者の脳損傷関連死が減少し,特に,早いタイミングでトラネキサム酸を投与することが予後改善に繋がると考えられた.・トラネキサム酸1 gを最初の10分間で静注し,その後,同量を8時間かけて持続静注するプロトコールが用いられている.
著者
伊藤 隆史 垣花 泰之
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.499-504, 2015-11-01 (Released:2015-11-06)
参考文献数
32

敗血症の際には,血管内血栓形成が進行し,しばしば播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation, DIC)を合併する。血管内血栓形成は,血流を悪化させ,臓器障害の原因となりうることから有害事象と考えられているが,感染を局所に封じ込めるうえで重要な役割を果たしている可能性が指摘され,“immunothrombosis”という概念で注目されている。しかしながら,感染を局所に封じ込めることができずにimmunothrombosisが全身に拡散した場合,多臓器が障害され,生体防御機構であったはずの血栓形成が宿主にとってむしろ有害なものになってしまう。このように,immunothrombosisが全身に拡散して制御不能に陥った状況が,敗血症性DICの病態基盤であると考えられる。本稿では,immunothrombosisで重要な役割を果たしている好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps, NETs)の放出機序や意義について概説し,NETsから遊離してくると考えられている細胞外ヒストンが敗血症性DICの病態に及ぼす影響について考察する。
著者
片桐 一敏 斉藤 俊文 伊藤 隆史 金子 慶太
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.49-56, 2019 (Released:2019-08-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

当院回復期リハビリテーション病棟に入院した重度弛緩性片麻痺を呈した1症例対し,日常生活活動への介入と併用しながら,脳卒中ガイドラインで推奨されているMirror療法と随意運動介助型電気刺激装置(IVES)を用いて麻痺側上肢機能の改善と自己管理を目的とした作業療法を行った.その結果,肩関節の亜脱臼や上肢・手指の筋緊張の改善が認められた.日常生活では三角巾を用いることなく麻痺側の自己管理が可能となり,自宅復帰が実現した.また,退院後訪問リハビリテーションを実施したのでその経過も含めて報告する.
著者
丸山 征郎 川原 幸一 伊藤 隆史 大山 陽子 橋口 照人
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

HMGB1 はDAMPsの代表的分子であるが、多くの壊死細胞、あるいは活性化上皮系細胞などからは生細胞からも放出されて、TLR-2, -4, RAGEに作用する。この場合、先行する刺激によって活性化状態(プレイミング)となっている細胞にセカンド刺激となって作用すると、一挙にinflammasome 活性化とNF-kB 活性化により、IL-1β, IL-18を産生放出して、生体防御的反応を惹起する。しかしこれはまたSIRS,DIC 等の原因ともなる。セカンド刺激としてはトロンビンやエンドトキシンなども活性を発揮する。
著者
伊藤 隆史 川原 幸一 橋口 照人 丸山 征郎
出版者
The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
雑誌
日本血栓止血学会誌 = The Journal of Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.418-421, 2009-08-01

急性炎症とは,生体にとっての非常事態体制である.感染を察知した免疫細胞や,損傷に伴って壊死した細胞は,High mobility group box 1 protein (HMGB1) を放出することによって周囲に非常事態宣言をする.これを受けた周囲の細胞は,炎症,免疫,組織修復のプログラムを立ち上げ,非常事態に対応しようとする.このように,HMGB1は生体防御的役割を担っているが,その一方で,大量に産生されて全身を循環するHMGB1は,全身性炎症反応症候群(SIRS)や播種性血管内凝固症候群(DIC)を引き起こし,致死的に働く.このHMGB1の全身化を防ぐ役割を担っていると考えられるのが,抗凝固タンパク質として知られるトロンボモジュリン(TM)である.TMはトロンビンと結合するとともにHMGB1とも結合し,トロンビン-TM複合体がHMGB1を分解して不活化する.TM は凝固反応や炎症反応を多面的に制御していると考えられる.