著者
友利 幸之介
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.57-67, 2019 (Released:2019-11-29)
参考文献数
24

作業療法のエビデンス構築は, 他領域と比べて明らかに遅れている. これは研究者の責任に依るところが大きいと猛省しているが, 臨床研究には臨床家の参画が欠かせない. 臨床家一人ひとりが, 研究を他人事とせず取り組むことが求められている. そこで本稿では, 作業療法研究のロードマップと題して, 1) まず研究論文を日々の臨床で活用することから始め, 2) 良質な事例報告とは何かを定義し, 3) 事例報告で生成された仮説を疫学研究へ発展させるための方法と, 4) 最後にエビデンスを構築するための仮説検証方法について論ずる.
著者
坂本 勇太 齋藤 駿太
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.111-117, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
9

クライエント(以下,CL)中心の作業療法(以下,OT)を実践するためにCLとの協業が必須であるが,CLがOTに拒否的な態度を示すこともある.今回,入院により主婦の役割を剥奪され,OTを拒否する高齢女性のA氏を担当した.A氏はマズローの欲求段階による評価から安全欲求が不足していたため,趣味である音楽鑑賞により欲求の充足を行い,CL中心の可能化のカナダモデル(以下,CMCE)を用いて介入した結果,A氏の必要な作業である「炊事」の可能化に至った.OTを拒否するCLの作業を可能化するためには,CLの欲求段階を踏まえた上でCMCEを用いた介入が有用であることが示唆された.
著者
藤井 裕康 坂本 暁良 出羽 来以 三田 隆之 三宅 優紀
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.86-97, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
39

スプリントは手外科,中枢性疾患や内科疾患など幅広く使用されるが,各施設の技術差や,採算性が合わない等の問題点が指摘されている.本調査目的はスプリント療法導入の現状と,導入に対する問題点を示すことである.調査方法は岡山・広島県医療機関253施設に,無記名の自己記入式質問紙による郵送調査法にて実施した.有効回答数117施設中,80施設が未導入であり,導入への問題点は人的資源や,採算性等の経済的評価,教育機会の少なさ,医師の影響や義肢装具士の介入,皮膚障害の医療安全の問題が示唆された.導入率向上へ技術指導等の研修会開催や費用を抑える方法,皮膚障害を予防するチェック体制の構築が必要と考えた.
著者
池知 良昭 三木 恵美
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.31-35, 2023-05-31 (Released:2023-05-31)
参考文献数
9

本研究の目的は,がん患者の作業療法の病期別介入指針を明らかにすることである. 方法は,日本作業療法士協会事例報告システムに登録された67例を対象に予防~終末期に おける作業療法目標とアプローチを分析した.結果,自宅復帰,ADL能力の維持・改善 を全病期の目標に認めた.急性期,終末期の目標は患者の心理的苦痛の緩和が多く,創作活動を実施していた.維持期,終末期では家族や他職種への助言・指導が多かった.作業療法士の病期別介入指針として,患者の心理的ストレスが強い時期は,創作活動の導入により患者の心身の安寧を図り,維持期以降,支援者による補完によって作業の達成を図っ ていることが推測された.
著者
池田 保 田島 明子
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.7-15, 2022 (Released:2022-02-28)
参考文献数
32

本研究は,ICFの課題について障害の社会モデルの視点から整理し,作業療法との関連性や社会参加の支援について考察することを目的とした.方法は,文献からデータを抽出し,質的内容分析にてカテゴリー化を行った.結果,【医学モデルに依拠した障害観】【社会変容の視点が希薄】【内的経験から生じる参加制約の視点が希薄】の3つのカテゴリーが挙げられた.ICFは障害の発生要因がインペアメントに依拠しており,社会からの否定性が活動・参加の制約になる点を表しにくいことが明らかになった.社会参加を支援する作業療法では,障害のある人を肯定的に捉える働きかけや住みやすい社会づくりへの貢献が重要であると考えられた.
著者
京極 真
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.61-67, 2020 (Released:2020-11-30)
参考文献数
17

:本論では,作業療法士のための質的研究の始め方を解説する.作業の知識を明らかにするうえで,質的研究と作業療法の相性は非常によく,その活用は作業療法にとって欠かせない.それゆえ,作業療法士は質的研究のメリットとデメリットを理解したうえで実施することが期待される.質的研究の始め方のコツは,質的研究のプロセス,質的研究法,質的研究報告ガイドラインを理解したうえで作業中心にアプローチするところに求められる.作業療法士は作業を核にした研究課題,データ収集,データ分析,理論構築を実施し,データに根ざした作業の知識を創りだす必要がある.
著者
片桐 一敏 斉藤 俊文 伊藤 隆史 金子 慶太
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.49-56, 2019 (Released:2019-08-30)
参考文献数
12
被引用文献数
1

当院回復期リハビリテーション病棟に入院した重度弛緩性片麻痺を呈した1症例対し,日常生活活動への介入と併用しながら,脳卒中ガイドラインで推奨されているMirror療法と随意運動介助型電気刺激装置(IVES)を用いて麻痺側上肢機能の改善と自己管理を目的とした作業療法を行った.その結果,肩関節の亜脱臼や上肢・手指の筋緊張の改善が認められた.日常生活では三角巾を用いることなく麻痺側の自己管理が可能となり,自宅復帰が実現した.また,退院後訪問リハビリテーションを実施したのでその経過も含めて報告する.
著者
織田 靖史
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.61-71, 2022-11-30 (Released:2022-11-30)
参考文献数
21

自殺は本邦の大きな社会問題の1つである.一時期は3万人を超えていた自殺者は,国や地方自治体による積極的な対策もあり2万人程まで減少したものの,若年層の自殺の微増やコロナ禍での女性自殺者の増加など依然として多くの課題が残る.自殺や自殺に発展する可能性の高い自傷では,医療者を含めたクライエントの周囲の人が持つ誤解や偏見,それに基づく対応などが問題となる.ゆえに,自殺・自傷行為に対する正しい知識や適切に状況に応じて対応するスキルは医療者にとって必須である.本稿では,作業療法士が自殺や自傷経験のあるクライエントに介入・支援する際に必要だと考えられる自殺や自傷の基礎知識と予防および介入について述べる.
著者
横山 和樹 小笠原 那奈 小笠原 啓人 矢部 滋也 森元 隆文 池田 望
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.47-55, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
23

本邦の作業療法におけるピアサポートの内容と作業療法士の役割を探索的に明らかにすることを目的に文献レビューを行った.対象文献11編を分析した結果,ピアサポートの内容は,多い順にフォーマルなピアサポート,インフォーマルなピアサポート,仕事としてのピアサポートに分類された.作業療法士の役割は,グループの立ち上げや運営,グループ参加前後の個別支援,当事者の希望や役割等の評価やそれを生かした実践,ピアサポートの活用に向けた治療構造や環境の調整等が報告された.また,ピアサポーターと連携する時の役割として,同等な立場としての関わり,当事者が安心・安全に活動するための体制づくり等が挙げられた.
著者
武田 朋恵 中島 そのみ 松下 慎司 平山 容子 渡邊 まゆみ
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.34-39, 2020 (Released:2020-05-29)
参考文献数
5

発達性協調運動障害がかかえる手先の不器用さの一つに箸がうまく使えないことがあげられているが,介入報告例は少ない.今回,箸を握り持ちしている発達性協調運動障害児に対して,箸の材質を変えて指の動きを観察したところ,市販の木箸と比較し,木製の使い捨て割り箸を使用時に手指の屈曲と押し付けが弱く,指の動きを引き出しやすい様子が確認できた.そこで,割り箸で把持物体を挟んで容器に移す操作練習と手指巧緻動作の基盤となる身体中枢部の安定性を高める介入を実施した.介入3か月後に母指が箸の開閉に関わるようになり,介入6か月後には木箸でも同様の操作が可能となり,食事時の握り持ちの状態は改善した.
著者
秋山 美紀 前野 隆司
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.5, no.4, pp.79-85, 2023-11-30 (Released:2023-11-30)
参考文献数
22

対人援助職である作業療法士は,支援の対象者のウェルビーイングを向上させるために日々,努力している.では自身のウェルビーイングはどうであろうか.本稿では,自身のウェルビーイング向上のための柱となる,幸せの4因子について解説し,4因子の培いやバーンアウト対応には,セルフ・コンパッションが必要であることを述べ,セルフ・コンパッションを高める技法についても言及する.作業療法士がセルフケアをすることが,対象者への質の高い支援につながると思われる.
著者
小島 佳祐 片桐 一敏
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.24-30, 2022-05-31 (Released:2022-05-31)
参考文献数
14
被引用文献数
1

片麻痺上肢機能評価においてFMAはエビデンスが高いとされるが,評価結果が治療計画にほとんど提供されていないとVelozoが述べており,治療計画立案のためにFMA keyformの利用を提唱している.FMA keyformによって選択された移行ゾーンは適切な挑戦レベルにあるため,準じた課題を実施し,クリアできれば次のステップへ移行していく.今回,脳卒中片麻痺患者1例に対し,FMAkeyformを用いてハイブリッドな治療を実施した結果,回復期における臨床的に意義のある最小値(MCID)を上回る改善を示した.通常の上肢機能改善よりも,本介入は有意に改善を促した可能性が考えられた.
著者
杉田 千秋 髙島 理沙 坂上 真理 村田 和香
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.32-39, 2019 (Released:2019-05-31)
参考文献数
9

介護老人保健施設は病院と在宅の中間施設だが,在宅復帰率は低い現状がある.本研究は在宅復帰困難な入所者が生活する中で抱く思いを明らかにすることを目的に,女性5名に半構成的面接を行い,質的記述的に分析した.その結果,【そばに人がいる施設生活への充実】,【緩やかなリハによる体の維持】,【在宅生活への見切り】,【家とは違った施設生活への歯痒さ】,【やっぱり家に帰りたいという願い】,【より快適な居場所探し】,【今後への漠然とした不安】の7つのメインテーマが生成された.全ての研究参加者は【今後への漠然とした不安】を抱いていた.セラピストは本人と共に‘今後’に向き合うことで,不安に対処できる可能性がある.
著者
浮田 徳樹 小野 大輔 工藤 結希菜 鳥越 夕妃 阿部 正之
出版者
公益社団法人 北海道作業療法士会
雑誌
作業療法の実践と科学 (ISSN:24345806)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.16-22, 2020 (Released:2020-02-28)
参考文献数
6

今回,当センター回復期リハビリテーション病棟に入院した脳血管疾患症例に対し,心身ともに落ち着きが見られ始めた発症後3ヵ月目より,生活行為向上マネジメント(Management Tool for Daily Life Performance,以下,MTDLP)を活用し自宅退院後の生活課題を抽出した.転帰先での銭湯利用を想定した段階的な外出訓練を中軸とした介入によって,不安を抱きがちな退院直後の生活像を症例本人が実際に認識・経験したことで,目的とした生活行為に対する課題解決や不安発言の解消に繋がったため,ここに報告する.