著者
伊藤 隆敏 山田 昌弘
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は、外国為替市場における高速頻度取引(high-frequency trading)の発達が、市場の効率性と安定性にどのように影響しているかを実証的に明らかにすることである。データは電子ブローキングシステム(EBS社)の中に蓄積される、高頻度(1秒の100分の1)の大量のデータを使用する。昨年度は、ロンドンの仲値(4pm WM/Reuters fixing)と東京の仲値(9:55am)前後の価格の動き、取引量の動きから、私的情報を保有する銀行が、仲値形成に影響を及ぼそうとして取引実行のタイミングや実行価格について「工夫」しているかどうかを検証した(Ito and Yamada (2017), Ito and Yamada (2018))。本年度(2018年度)は、この日本の論文を発表する機会を増やして研究成果の伝播につとめた。2019年3月にGRIPSで開催したEBSデータ国際会議では、アメリカから二人の学者を招待した。Melvin教授はわれわれが分析したロンドンでの談合疑惑の結果として生じた民事裁判で、訴えられた銀行側の証人としての経験を話して、伊藤・山田論文が非常に核心をついていると評価した。Levich教授も東京市場の仲値決めに関連して、非常に興味深い結果と評価した。一方、Melvin教授の発表論文とLevich教授の発表論文は、来年度以降の研究の方向を考えるうえで参考になった。本年度発表の論文は、Ito, Takatoshi (2018)があるが、これは、外国為替市場が、EBSのマッチング・コンピューターの導入、銀行などのDealerのコンピューターとの接続、などによって外国為替市場が、裁定取引が瞬時のうちにできるという意味で、効率的になる一方、高速取引のなかで、一方的に急騰あるいは急落するというリスクがたかまっていることに警告を鳴らしている。
著者
伊藤 隆敏
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.97-113, 2003-04

2001年7月に公表され,その後,定期的にアップデートされている為替介入のデータ(観察期間,1991年4月から2002年3月)を用いて,利益,介入効果などの側面について考察を加える.この期間,125円よりも円安(円ドルレートが,126円以上)の水準での円売り・ドル買いの介入実績はなく,125円よりも円高(円ドルレートが,125円以下)の水準での円買い・ドル売りの介入実績は無かった.日本の通貨当局は,ドルをドル価値が安いときに購入し,高いときに売却していた.介入による売買益,評価益,金利差益の利益合計は,11年間で10兆円近くに上る.介入直前の為替レートの変化に比較して,介入直後の為替レートの変化が,介入の意図した方向に動いていたかどうかの介入の効果を検討すると,おおむね,意図された効果が得られていたといえる.回帰分析によると,1990年代の後半は,介入が統計的有意に為替レートに意図したように影響していることがわかった.効果の大きさは,アメリカと日本の同時介入が,通常の日本の通貨当局による単独介入よりも,20-50倍の効果を持つ.日本の通貨当局による介入のうち,一週間以上の間を置いたあと最初の介入は,そうでない場合よりも有意に大きな効果を持つことが分かった.
著者
伊藤 隆敏
出版者
岩波書店
雑誌
経済研究 (ISSN:00229733)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.97-113, 2003-04

2001年7月に公表され,その後,定期的にアップデートされている為替介入のデータ(観察期間,1991年4月から2002年3月)を用いて,利益,介入効果などの側面について考察を加える.この期間,125円よりも円安(円ドルレートが,126円以上)の水準での円売り・ドル買いの介入実績はなく,125円よりも円高(円ドルレートが,125円以下)の水準での円買い・ドル売りの介入実績は無かった.日本の通貨当局は,ドルをドル価値が安いときに購入し,高いときに売却していた.介入による売買益,評価益,金利差益の利益合計は,11年間で10兆円近くに上る.介入直前の為替レートの変化に比較して,介入直後の為替レートの変化が,介入の意図した方向に動いていたかどうかの介入の効果を検討すると,おおむね,意図された効果が得られていたといえる.回帰分析によると,1990年代の後半は,介入が統計的有意に為替レートに意図したように影響していることがわかった.効果の大きさは,アメリカと日本の同時介入が,通常の日本の通貨当局による単独介入よりも,20-50倍の効果を持つ.日本の通貨当局による介入のうち,一週間以上の間を置いたあと最初の介入は,そうでない場合よりも有意に大きな効果を持つことが分かった.This paper analyzes the institutional mechanism, history, patterns, profitability, and effectiveness of Japanese intervention in the yen/dollar market from April 1991 to March 2002, based on newly disclosed intervention data. During this period, the yen-selling/dollar-purchasing points were always below 125 yen/dollar mark, while the yen-purchasing/dollar-selling points were always above 125 yen/dollar mark. The authorities bought the dollar low and sold high. Estimates of profits from interventions, realized and unrealized gains and profits from interest rate differentials, amounted to 10 trillion yen over the 11 years. Effectiveness is determined by examining the yen/dollar rate movement over a 24 hour period that includes intervention operations, compared to the preceding 24 hour period. Interventions were effective in the second half of the sample (after June 1995). Joint interventions were particularly powerful in moving the rate in the intended direction.
著者
伊藤 隆敏
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

為替市場の研究について次の成果があった。(1)為替レートの変動に関して、超短期の観点から、取引の制度に根ざした(マイクロストラクチャー)、理論的・実証的研究をおこなった。為替レートの短期(日々から数ヶ月先)の予測可能性について学界の通説は否定的だが、民間の金融機関は巨額の費用を投じて為替レートの予測をしようとしているというパズルがある。為替レートがランダム・ウォーク過程に従っている、という仮説を否定できない、と理論的にも実証的にも信じられている。しかし、本研究の結果、民間の金融機関は市場にもたらされる新たな情報が発表されてから、為替レートが新しい均衡レベルに到達するまでの短い時間(数十分程度)にほかの投資家よりも早くポジションをとって、売り抜けるという行動をとっている仮説と整合的な結果が得られた。他の投資家の売買に触発されて売買するという投資家もいるために、ボラティリティーは継続性を持つ。(2)アジア通貨の危機の伝播について、理論的・実証的に新たな考え方を提示することができた。通貨危機が周辺の必ずしもマクロ経済が不健全とはいえないような国にも波及する(危機の伝播)ことが観察されているが、それがたんに投資家の心理的なものによるのか、経済的な理由があることなのかを検証した結果、貿易関係が強いほど、伝播がおきやすいことが実証的にわかった。(3)通貨当局による為替介入についての理論的・実証的な研究の進展がみられた。金融当局による為替介入の効果の測定である。学界の通説は、不胎化された介入は効果を持たない、というものであったが、本研究では、いくつかの条件がみたされるとき、たとえ、不胎化された介入でも為替レートに影響を与えることが示された。また、当局の介入の反応関数を計測した結果は、円が長期トレンドから大きく乖離して、その乖離がさらに加速するような状況でおきやすいことがしめされた。
著者
浅子 和美 伊藤 秀史 伊藤 隆敏 加納 悟 宮川 努 渡部 敏明
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、日本経済の適切な政策運営に役立てるために、日本経済の現状をより早く、より的確に把握する体制の確立を目指した。具体的には、景気循環の局面判断の観点からの日本経済の現状分析を行うとともに、経済制度面での歴史的変遷を踏まえた上で、1990年代以降の経済成長率や生産性上昇率の鈍化の原因を解明し、技術革新の活性化や産業構造の転換による日本経済の中長期的パフォーマンスの向上の可能性を探った。景気循環メカニズムの理論的研究や統計学・計量経済学的分析手法の研究も進めた。