著者
伴野 潔 伊藤 靖夫
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,属間雑種を利用したリンゴとナシの飽和連鎖地図を同時に,かつ効率的に作成するとともに,得られた情報をもとに有用遺伝子をマッピングし,リンゴやナシのDNAマーカーを利用した新育種法の開発の可能性を検討した。1.胚培養を用いて育成したリンゴ‘ふじ‘とナシ‘大原紅'の対称雑種62個体を用い,連鎖地図を作成した。その結果,‘ふじ‘では,1348.1cM,17連鎖群,195遺伝子座からなる連鎖地図が,‘大原紅'では1345.4cM,17連鎖群,240遺伝子座からなる飽和した連鎖地図がそれぞれ作成された。作成された両品種の各連鎖群では,SSRを中心とした共優性の各遺伝子座がほぼ同じ順序と遺伝距離で対応し,リンゴとナシのゲノムのシンテニーが高いことが示唆された。2.‘おさ二十世紀',‘大原紅',‘ふじ'の3品種の幼果からm-RNAを単離し,作成したcDNAライブラリーから得られたESTクローン約350種類についてシークエンスを行い,相同性検索を行った。その結果,ナシ果実で発現するESTクローンはこれまでに報告されたリンゴ果実等で発現する遺伝子と極めて相同性が高く,1〜2塩基多型(SNP)を示すものが多く,さらに6%の遺伝子で5塩基以上の挿入あるいは欠失変異が認められた。3.‘おさ二十世紀'と‘大原紅'の交雑系統(Os×Ob)90系統を用い,開花・結実した系統について果実の成熟期,果形,果重,硬度,糖度,酸含量,追熟性の諸形質を調査し,作成された両品種の連鎖地図上に各形質についてQTLマッピングを行った。4.リンゴ品種‘ふじ'へカラムナー形質を導入するために,‘ふじ'とカラムナー品種‘メイポール'とを交雑した。得られた系統を用いて,果実形質を調査するとともに,カラムナー形質や赤葉形質,果皮・果肉の着色形質について遺伝解析し,これらの形質に関与する遺伝子のマッピングを行った。その結果,‘メイポール'の第10連鎖群にはカラムナー遺伝子(Co),第9連鎖群には赤葉遺伝子(Rl)がそれぞれマッピングされた。
著者
甲元 啓介 伊藤 靖夫 秋光 和也 柘植 尚志 児玉 基一朗 尾谷 浩 DUNKLE L.D. GILCHRIST D. SIEDOW J.N. WOLPERT T.J. JOHAL G. TURGEON B.G. MACKO V. 田平 弘基 YODER O.C. BRIGGS S.P. WALTON J.D. 宮川 恒 朴 杓允 荒瀬 栄 BRONSON C.R. 小林 裕和 中島 広光
出版者
鳥取大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

1) リンゴ斑点落葉病菌の宿主特異的AM毒素の生合成に関与する遺伝子: 環状ペプチド合成酵素(CPS)遺伝子のユニバーサルPCRプライマーを利用して得たPCR産物は他のCPS遺伝子と相同性が認められ、サザン解析の結果、AM毒素生産菌に特異的に存在する配列であることが判明した。本遺伝子断片を用いた相同的組込みによる遺伝子破壊により、毒素非生産形質転換体が得られ、さらに野生株ゲノムライブラリーをスクリーニングして、完全長のAM毒素生合成遺伝子(AMT)のクローニングに成功した。AMTは13KbのORFをもち、イントロンはなく、毒素構成アミノ酸に対応するアミノ酸活性化ドメインが認められた。2) ナシ黒斑病菌のAK毒素生合成遺伝子: REMIによる遺伝子タギング法を用いて毒素生産菌に特異的に存在する染色体断片から、AKT1(脂肪酸合成)、AKT2,AKT3(脂肪酸改変),AKTR(発現調節因子)、AKTS1(AK毒素生合成特異的)の5つの遺伝子を単離した。また、AK毒素と類似の化学構造を有するAF及びACT毒素の生産菌も、本遺伝子ホモログを保有することが明らかとなった。3) トウモロコシ北方斑点病菌の環状ペプチドHC毒素の生合成遺伝子TOX2の解析が進み、特異的CPS遺伝子HTS1のほかに、TOXA(毒素排出ポンプ)、TOXC(脂肪酸合成酵素b*)、TOXE(発現調節因子)、TOXF(分枝アミノ酸アミノ基転移酵素)、TOXG(アラニンラセミ化酵素)などが明らかとなった。4) トウモロコシごま葉枯病菌のポリケチドT毒素の生合成遺伝子TOX1は、伝統的遺伝学手法では単一のローカスと考えられていたが、今回の分子分析でTOX1AとTOX1Bの2つのローカスからなり、それぞれ異なった染色体上に存在することが明確となった。5) ACR毒素に対する特異的感受性因子を支配している遺伝子(ACRS)を、ラフレモンmtDNAからクローニングした。この遺伝子は大腸菌で発現した。6) リンゴ斑点落葉病感受性(AM毒素のレセプター)遺伝子を求めて、プロテオーム解析によりAM毒素感受性リンゴに特異的に発現しているタンパク質(SA60)を検出した。7) 宿主特異的毒素の生合成遺伝子は水平移動で特定の菌糸に導入されたと推論できた。