著者
朴 杓允 西村 正暘 甲元 啓介 尾谷 浩
出版者
日本植物病理学会
雑誌
日本植物病理學會報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.488-500, 1981-09-25
被引用文献数
1

イチゴ黒斑病菌, ナシ黒斑病菌, トマトstem canker病菌およびリンゴ斑点落葉病菌の宿主特異的毒素(それぞれAF-toxin I, II, AK-toxin, AL-toxinおよびAM-toxin I)によってひきおこされた各宿主細胞の初期変性を電顕によって比較観察した。これら毒素による変性像は, 3つの型に分けられた。1つは, 透過性機能の崩壊を伴う原形質膜の陥入・断片化・小胞化, 原形質連絡糸の変形そして細胞壁の崩壊であった。これはAK-toxin-感受性ナシ花弁, AM-toxin I-感受性リンゴおよびナシ葉, AF-toxin I-感受性イチゴおよびナシ葉, AF-toxin II-感受性ナシ葉の各組み合せで見られた。なお, AF-toxin II-感受性イチゴ葉の組み合せでは, 肉眼的な毒性は認められなかったが, 電顕下では維管束細胞の崩壊が観察された。2番目の型は, 葉緑素含量の減少を伴う葉緑体グラナの小胞化であった。これはAM-toxin I-感受性リンゴおよびナシ葉の光合成組織細胞だけで認められた。3番目の型は, ミトコンドリアと粗面小胞体の変性であった。両者とも膨潤・小胞化した。ミトコンドリアでは, その基質は漏出し, クリステの数は減少した。これはAL-toxin-感受性トマト葉で認められた。上記各毒素を処理したすべての抵抗性宿主細胞では, なんらの変性も認められなかった。以上の結果から, AK-toxinとAF-toxin IおよびIIの作用点は, 感受性宿主細胞の原形質膜や細胞壁上に, AL-toxinのそれは, 感受性細胞のミトコンドリアや粗面小胞体上にあると考えられる。なお, AM-toxin Iの作用点は, 葉緑体を持っ感受性細胞では原形質膜・細胞壁および葉緑体グラナ上に存在し, 葉緑体を持たない細胞では, 原形質膜・細胞壁上に存在するものと考えられる。
著者
柘植 尚志 西村 正暘 大村 智 甲元 啓介 尾谷 浩
出版者
日本植物病理學會
雑誌
日本植物病理学会報 (ISSN:00319473)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.277-284, 1985

宿主特異的毒素を生成する<i>Alternaria alternata</i>群植物病原菌の病原性発現および分生胞子発芽時の毒素生成に及ぼす化学物質の効果について検討した。ナシ黒斑病菌分生胞子懸濁液に,抗生物質セルレニンまたはメチオニンをそれぞれ20ppm, 100ppm以上の濃度で添加すると,胞子の発芽,付着器形成などは殆んど影響されなかったが,胞子発芽時の宿主特異的毒素(AK-毒素)の生成・放出は著しく抑制された。また二十世紀ナシ葉に対する病原性の低下が観察された。さらに,これらの化学物質は,リンゴ斑点落葉病菌のAM-毒素生成およびイチゴ黒斑病菌のAF-毒素生成も阻害し,両菌の病原性低下を引き起こした。また,KH<sub>2</sub>PO<sub>4</sub>, NH<sub>4</sub>Cl,酵母エキスおよびシステインも,ナシ黒斑病菌の胞子発芽にはほとんど影響することなく胞子発芽時のAK-毒素生成能力および病原性を阻害した。しかし,これらの化学物質の効果は,セルレニンやメチオニンほど顕著ではなく,比較的高濃度処理によって,阻害効果が認められた。以上の結果から,<i>Alternaria alterrata</i>群病原菌の分生胞子懸濁液に,ある種の化学物質を添加することにより,胞子発芽時の宿主特異的毒素生成が阻害され,その結果,病原性の低下が引き起こされるものと考えられ,本群菌の病原性発現における胞子発芽時の宿主特異的毒素の重要性が示唆された。
著者
尾谷 浩
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.5, 2009 (Released:2009-10-30)

自然界では,無数の病原微生物が植物を攻撃しているが,その中で特定の植物に病気を引き起こすことのできる病原体の種類は驚くほど少ない.多くの病原体は特定の植物を選択的に侵害し,個々の寄生性には明確な宿主特異性があるのが通例である.植物の寄生病のうち約80_%_は菌類によって引き起こされるが,植物寄生菌類の宿主特異的な寄生性を決定する因子として,宿主特異的毒素(HST)の存在が知られている.HSTの発見は1933年にさかのぼる.Tanakaは,鳥取県の二十世紀ナシに大被害を与えていたナシ黒斑病菌(Alternaria alternata Japanese pear pathotype)の培養ろ液を黒斑病に感受性と抵抗性のナシ品種に処理すると,感受性品種のみ黒色壊死斑が形成されることを見出し,宿主特異性を示す毒素の存在を初めて報告した.しかし,当時は国際的に全く反響を呼ばなかった.その後,1964年にPringleおよびSchefferは,エンバクvictoria blight病菌(Cochliobolus victoriae)などの毒素研究の成果に基づいてHSTの基本概念を提唱し,HSTが注目を浴びるようになった.現在,HSTの定義として,(1) 宿主植物にのみ毒性を示すこと,(2) 宿主植物の毒素耐性度と病害抵抗性が一致すること,(3) 病原菌の毒素生産能と病原性が一致すること,(4) 病原菌の胞子発芽時や侵入時に毒素が放出されること,(5) 放出毒素により宿主植物に生理的変化が引き起こされ病原菌の感染を可能にすること,が挙げられている(西村1970,甲元1990,KohmotoおよびOtani,1991).このような性質を持つ毒素は,ただ単に特異的な毒性を示す物質ではなく,病原菌の病原性発現に不可欠な第一義的病原性決定因子であると考えられている.これまでに, Alternaria属菌とCochliobolus属菌を中心に20種類を越える病原菌がHSTを生産することが報告されている.
著者
甲元 啓介 伊藤 靖夫 秋光 和也 柘植 尚志 児玉 基一朗 尾谷 浩 DUNKLE L.D. GILCHRIST D. SIEDOW J.N. WOLPERT T.J. JOHAL G. TURGEON B.G. MACKO V. 田平 弘基 YODER O.C. BRIGGS S.P. WALTON J.D. 宮川 恒 朴 杓允 荒瀬 栄 BRONSON C.R. 小林 裕和 中島 広光
出版者
鳥取大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

1) リンゴ斑点落葉病菌の宿主特異的AM毒素の生合成に関与する遺伝子: 環状ペプチド合成酵素(CPS)遺伝子のユニバーサルPCRプライマーを利用して得たPCR産物は他のCPS遺伝子と相同性が認められ、サザン解析の結果、AM毒素生産菌に特異的に存在する配列であることが判明した。本遺伝子断片を用いた相同的組込みによる遺伝子破壊により、毒素非生産形質転換体が得られ、さらに野生株ゲノムライブラリーをスクリーニングして、完全長のAM毒素生合成遺伝子(AMT)のクローニングに成功した。AMTは13KbのORFをもち、イントロンはなく、毒素構成アミノ酸に対応するアミノ酸活性化ドメインが認められた。2) ナシ黒斑病菌のAK毒素生合成遺伝子: REMIによる遺伝子タギング法を用いて毒素生産菌に特異的に存在する染色体断片から、AKT1(脂肪酸合成)、AKT2,AKT3(脂肪酸改変),AKTR(発現調節因子)、AKTS1(AK毒素生合成特異的)の5つの遺伝子を単離した。また、AK毒素と類似の化学構造を有するAF及びACT毒素の生産菌も、本遺伝子ホモログを保有することが明らかとなった。3) トウモロコシ北方斑点病菌の環状ペプチドHC毒素の生合成遺伝子TOX2の解析が進み、特異的CPS遺伝子HTS1のほかに、TOXA(毒素排出ポンプ)、TOXC(脂肪酸合成酵素b*)、TOXE(発現調節因子)、TOXF(分枝アミノ酸アミノ基転移酵素)、TOXG(アラニンラセミ化酵素)などが明らかとなった。4) トウモロコシごま葉枯病菌のポリケチドT毒素の生合成遺伝子TOX1は、伝統的遺伝学手法では単一のローカスと考えられていたが、今回の分子分析でTOX1AとTOX1Bの2つのローカスからなり、それぞれ異なった染色体上に存在することが明確となった。5) ACR毒素に対する特異的感受性因子を支配している遺伝子(ACRS)を、ラフレモンmtDNAからクローニングした。この遺伝子は大腸菌で発現した。6) リンゴ斑点落葉病感受性(AM毒素のレセプター)遺伝子を求めて、プロテオーム解析によりAM毒素感受性リンゴに特異的に発現しているタンパク質(SA60)を検出した。7) 宿主特異的毒素の生合成遺伝子は水平移動で特定の菌糸に導入されたと推論できた。