著者
高木伸也 佐々木淳
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第58回総会
巻号頁・発行日
2016-09-22

問題と目的 DSM-5が2014年に発刊され,新しく不安症の中に選択性緘黙(Selective Mutism; 以下,SM)が加わった。中でも社交不安症(Social anxiety disorders; 以下SAD)はSMと近い症状があることが知られており,併存する確率が高い(Vecchio et al,2003)。SM自体の研究は臨床心理学の研究としてSMに対する事例研究として行動療法(沢宮・田上,2003)・遊戯療法(上野,2010)などが適用されてその効果が検討されている。しかしSMのメカニズムを明らかにする研究は数少ない。中でも維持期における認知行動モデルが解明されることは、今後の臨床でのより細やかな認知行動療法の適用だけでなく,SM児と日々接している教師・保育士に対して有益な見立てを提供できる可能性を秘めている。 SADの認知モデル(Clark&Wells,1995)はこれまでの研究の蓄積が多い。これを参考にしつつSM独自のモデルを作成することは意義深い。また,SMに関する尺度はSMQ(Selective Mutism Questioner; Bergman,2008)やその日本語版の場面緘黙質問票(以下,SMQ-R; かんもくネット,2011)があるが,これは行動指標を主に捉えているスクリーニング用の質問紙であり,苦手とする状況の最中で考えていること(認知)に着目した尺度は存在していない。そのため本研究では,⑴SMの維持期における認知行動モデルの作成,⑵SMの認知行動尺度の項目作成を目標としたインタビューを行う。方 法手続き 半構造化面接の方法を用い,事前に作成したインタビューガイドに基づいて70分程度のインタビューを行った。SMの症状があった時期の脅威的状況および克服した現在における同様の状況の場合の双方を想定し,その状況下の認知・感情・行動・身体的変化について焦点を当てて質問した。対象者は筆者がSMの治療の経験が豊富な臨床心理士等に依頼し,現在は克服しているSMの経験者の紹介を求めた。インタビューで得られたデータは内容分析によって,質的研究の観点から⑴SMにおける認知行動モデルを作成,⑵SMの認知行動尺度を作成することを念頭においてまとめられた。 なお,本研究は,大阪大学大学院人間科学研究科教育学系研究倫理委員会において承認されている(受付番号15-061)。対象者 現在3名(女性3名)。年齢平均21.3歳であり,過去に緘黙の診断をもっていたのは2名であった。質問紙 インタビューを始める前に,SMの程度を把握するためにSMQ-Rを二枚用意して回答を求めた(一枚目はSMの症状が一番顕著に表れていた時,二枚目は,現在の状態を想定する)。SM時の平均得点は12.3,現在の平均得点は37.3であった。なお,Bergman(2008)によると,健常児は43点,SM児は12点であった。結 果 想起された状況は,「自己紹介の場面」「スピーチの場面」「話すことを強制させられる場面」であった。本研究では,感情,行動,身体的反応のうち特に認知と行動に焦点を当てて報告したい。認知は主に2つに分類することができた。<受動的な認知>と<能動的認知>である。<受動的認知>は「自分の番でどうやってやり過ごそう」「早く終わらないかな」などの受身的な考えやイメージであった。<能動的認知>は「何を話そうかな」「1対1の時のように話そう」などの自発的な考えやイメージであった。また,行動は主に2つに分類された。即ち,<受動的行動>と<能動的行動>であった。<受動的行動>は「先生がもういいよと言うまで待つ」「話せなくなる」などの受身的な行動であった。<能動的行動>は「ネットでコツを調べた」「職場だったら頑張って話すようにする」などの自発的な行動についてであった。 また社交不安症の維持要因として考えられている自己注目や安全行動などは,緘黙を克服した現在においてもなお続いていた。考 察 SMの経験者の認知と行動には受動的側面と能動的側面が共通して見られた。SMの維持期においては受動的側面が多く,克服した現在においては能動的側面が多く見られる傾向が示唆された。そしてインタビューにおける文脈から<受動的認知>が<能動的認知>に変化して,それが<能動的行動>を促進していることが推測された。即ち,受動的体験から能動的体験にシフトしていると捉えることができた。 また,SMを克服した者でも現在において社交不安傾向があったため,SMの維持期は,社交不安の維持期よりもさらに複雑な仕組みを持っていることが考えられる。そのため,今後は,SM独自の維持要因という視点からもデータ収集と分析を行っていく必要がある。 最後に本研究の結果から,SMに対する支援のあり方として,受動的認知という内的な側面に働きかける試みがその糸口となることが考えられた。
著者
中村祐基 中島裕聡 高木正則 山田敬三 佐々木淳
雑誌
第76回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.1, pp.863-865, 2014-03-11

近年,大学生の就職活動と企業の採用活動のミスマッチが問題となっている.学生は大企業志向の傾向が強く,普段あまり目につかない業種や中小企業に目を向けて採用先を探しきれていない.本研究では,企業が求める人材像と学生の適性とのマッチング支援を目的とし,就職活動支援システムを提案する.本システムは,学習成果物と学生のスキル向上過程の気づきを記録するeポートフォリオと,企業の採用ページから特徴語を抽出し,その特徴語とeポートフォリオに蓄積された学生の能力(社会人基礎力等)スコアとの適合性に基づいて,マッチング度合を提示する機能から成る.本稿では,本システムの概要とプロトタイプシステムの開発について述べる.
著者
飯島 雄大 佐々 木淳 坂東 奈緒子 浅井 智久 毛利 伊吹 丹野 義彦
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-41, 2010-01-31 (Released:2019-04-06)

本研究は、統合失調型を包括的に測定する質問紙であるSchizotypalPersonalityQuestionnaire(SPQ)の日本語版を作成し、統合失調型パーソナリティの多元性を検討することが目的である。大学生558人を対象に、日本語に翻訳したSPQを施行した。各因子の内的整合性(α=.63〜.86)、および再検査信頼性(r=.76〜.86)は高かった。また、既存の統合失調型人格尺度と高い相関を示したため、収束的妥当性が確認された。そして、確認的因子分析および非階層的クラスター分析(k平均法)を行った。確認的因子分析で7つの仮説モデルを比較したところ、解体3因子モデルは最も当てはまりがよかった。クラスター分析では対象を、すべての得点が高い「高得点クラスター」、「認知・知覚」「解体」因子の得点が高い「認知・知覚クラスター」、「対人」「解体」因子の得点が高い「対人クラスター」、すべての得点が低い「低得点クラスター」の4つに分類した。確認的因子分析により、SPQの3因子構造が示された。因子構造の類似が必ずしも統合失調型パーソナリティと統合失調症の連続性を示唆するものではないが、統合失調型パーソナリティの3因子構造は、統合失調症の症状を理解するのに役立っと考えられる。