著者
佐和 貞治
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.3, pp.112-116, 2015 (Released:2015-03-10)
参考文献数
24
被引用文献数
2 2

急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)は,急性肺傷害のなかで最も救命率の低い致死性病態である.細菌性肺炎が原因となることが多いことから,細菌感染に対する治療法がARDSの高い死亡率を改善するうえではもっとも重要な戦略である.近年,多くの病原性グラム陰性細菌は,Ⅲ型分泌システムと呼ばれる新しく発見された毒素分泌メカニズムを介してその病原性を発揮することが解明されてきた.この分泌システムを用いて細菌はその毒素を直接,標的細胞の細胞質に転移させる.転移した毒素は,真核細胞の細胞内シグナリングをハイジャックし,細菌がホストの免疫機構から回避できるよう誘導する.我々はこれまで緑膿菌性の急性肺傷害のメカニズムについて研究を進め,その結果,緑膿菌のⅢ型分泌システムが緑膿菌性肺炎における急性肺傷害の病態メカニズムに深く関与していることを見出した.細胞毒性の強い緑膿菌は,肺上皮の急性壊死を引き起こすⅢ型分泌毒素を分泌し,急速に全身循環への細菌播種を誘導して敗血症へと進展させる.Ⅲ型分泌に関わるタンパク質の中でV抗原と呼ばれるPcrVタンパク質にⅢ型分泌毒性に対抗できる免疫効果があることを発見した.ヒト化された抗PcrV抗体が開発され,現在臨床試験が行われている.他の多くの病原性グラム陰性菌もこのV抗原相同体,もしくはV抗原様相同体を持つ.従って,V抗原抗原やその相同体は,致死性の細菌感染に対する現在新しいワクチンや治療のターゲットとして注目されている.
著者
中川 博美 佐和 貞治
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.148-155, 2017-03-15 (Released:2017-04-21)
参考文献数
19

透析患者において,術前摂取水分・電解質の安全域の狭さと胃内容排出遅延の可能性に留意し,術前経口補水療法(以下,ORT)の安全性と有用性を検討した.透析患者の一般予定手術症例200例を対象とし,ORT群と輸液群で麻酔導入前の血清電解質・血糖値,水分負荷指標として手術後の体重増加率を比較した.また,胃幽門部断面積と胃液量から麻酔導入時の胃内容を評価した.ORT群では摂取した水分量,電解質と糖は輸液群より多かったが,電解質異常や高血糖症を呈した症例数は輸液群より有意に少なかった.体重増加率と胃内容量は両群間で差がなかった.透析患者でも術前ORTは安全で有効な体液管理法である.
著者
渡辺 真純 神山 育男 神谷 一徳 佐和 貞治 仲村 秀俊 石坂 彰敏 小林 紘一
出版者
特定非営利活動法人 日本呼吸器内視鏡学会
雑誌
気管支学 (ISSN:02872137)
巻号頁・発行日
vol.28, no.8, pp.592-596, 2006
参考文献数
17
被引用文献数
1

目的.気管支鏡下に低侵襲で特定領域の気道上皮被覆液(ELF)を採取できるマイクロサンプリング(BMS)法を関発し急性肺損傷,肺癌などの診断に応用している.BMS法により採取したELFがプロテオーム解析可能か検討した.方法.BMSプローブは先端に吸湿性チップのついた内筒カテーテルと外筒からなり,気管支鏡チャンネルを通じてELFを採取できる.ELF 2μlからプロテインテップシステム^<TM>(サイファージェン・バイオシステムズ)を用いてパルスレーザー照射による質量分析を行った.1)ラットLPS肺損傷モデルでのELFの経時的解析および2)原発性肺癌症例での腫瘍周囲ELFの解析を行った.結果.1)LPS投与後ラットのプロテオーム解析では31000,47000,63000 Da付近に再現性のあるピークが確認された.TNF-α antagonist 投与では上記のピークは消失または減少した.protein bankの検索からこれらピークはTNF-α関連物質などである可能性が示唆されている.2)腺癌症例の解析で腫瘍側ELFで3460,9280,20800 Da付近および5230 Da付近に健常側では認められないピークを認めた.まとめ.BMS法によるELF検体のプロテーオム解析が可能なことが判明した.各種肺疾患ELF中の網羅的蛋白解析が病態解明につながると考えられた.(気管支学.2006;28:592-596)