- 著者
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佐竹 泰和
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2012, 2012
1.研究背景と目的 <br> インターネットの登場とその普及に合わせて,情報通信技術へのアクセス機会に関する格差,すなわちデジタル・デバイドが問題として生じた.さらに2000年代に普及したブロードバンドは,技術的問題やインフラ新設のコスト問題からブロードバンドが利用できる地域とできない地域の間にある格差として地理的デジタル・デバイドを問題として生じさせた.この地理的デジタル・デバイドは,山村や離島のような地形的に整備条件が不利な地域に多くみられるが,人口低密地域にも存在する.そのため,地理的デジタル・デバイドは自治体単位ではなく,町中心部と周辺部というように,人口密度に応じてより細かい地区単位で現れる場合もある.本研究では,地区単位でブロードバンド環境が異なっていた事例として北海道東川町を取り上げ,ブロードバンド整備後の回線変更状況とコンテンツ利用状況から,ブロードバンド整備が住民のインターネット利用に与える影響を検討した. <br>2.研究方法 <br> 本研究では,住民のインターネット利用状況を把握するために,東川町の全世帯を対象としてアンケート調査を行った.アンケートは2011年8月に配達地域指定郵便で全世帯へ郵送し,配布数3,074通,回収数478通,回収率15.5%であった.2010年国勢調査によると,東川町の世帯数は2,983世帯であるため,国勢調査の世帯数をベースとした場合,回収率は16.0%となる. <br>3.ブロードバンドの整備<br> 東川町全域でブロードバンドが利用可能になったのは,2008年のNTT東日本による光ファイバー整備と2011年の東川町による光ファイバー整備によるものだった.光ファイバー整備以前のブロードバンドは,町の中心部でADSLが利用できるのみであり,町の周辺部はISDNやダイヤルアップといったナローバンドしか利用できない(ブロードバンド・ゼロ)地区であった.2008年の整備では主な整備地域が町中心部であり,ブロードバンド・ゼロ地区は解消されなかったため,その対策として東川町が光ファイバー未整備地区すべてに光ファイバーを整備し,2011年2月以降に各地区で順次ブロードバンドが利用可能となった.したがって,インターネット接続に関して光ファイバーは,東川町共通の情報通信基盤となったのである.<br> 4.結果の概要 <br> アンケート回答世帯のうち,インターネットを契約している世帯は67.5%であった.さらにインターネット利用世帯のうち,インターネットの契約回線をみると, FTTH(光ファイバーによる通信)を利用している世帯は52.8%,ADSLの利用世帯は35.2%である一方,ISDNやダイヤルアップ回線を利用している世帯は5.0%であった.ブロードバンド整備前後のインターネット回線の変更状況をみると,中心部ではADSLからFTTHへの変更が多いのに対し,ブロードバンド・ゼロ地区があった周辺部では,ナローバンドからFTTHへの回線変更が目立っていた.このように,2008年と2011年に整備された光ファイバーは,ブロードバンド・ゼロ地区の住民にブロードバンド利用を促し,町全体でもインターネット利用者のうち過半数が利用する情報インフラとなったのである. また,インターネットの契約状況を世帯主の年齢でみると,高齢になるにつれてインターネット契約率が下がっており,特に60歳以降で利用率の低下が顕著であった.回線の契約状況をみると,高齢世帯主ほどFTTHの新規契約が目立ち,インターネットの回線変更は少なかった.さらに,世帯主の年齢別にコンテンツの利用状況をみると,「ウェブサイト閲覧」は,「ネットショッピング」のようなコンテンツは,全体として高い利用率を示したものの,高齢世帯では,ネットショッピングの利用率が相対的に低く両者の利用率に大きな違いがみられた. このことは,高齢世帯主においてFTTH新規契約が多くみられたことに結びつく.すなわち,高齢世帯主はインターネット利用暦が浅く,ウェブサイト閲覧のような基礎的利用はできるものの,それ以上の利用には至っていないのである.したがって,ブロードバンドの整備は,ブロードバンド・ゼロ地区の対策だけでなく,町内の高齢者のインターネット利用にも影響を与えたといえるが,高齢者のコンテンツ利用率は低いことから,単に回線契約を進めるだけでなく,高齢者が関心を持つコンテンツを把握し,その利用方法を伝える仕組みを整える必要があると考えられる.